「わたしは敵じゃないですよぉ」
Kutoはできるだけの笑顔を作って言った。両手を挙げようかとも思ったが、急に警戒されて撃たれると厭なので動かない。
確かに」としわがれた頭から銃が離れる。「囚人たちとは違うようだね、お嬢さん。一体全体、どうしてこんな糞っ垂れな状況のこの町にやってきたのかな?」

Kutoの頭に銃を突きつけていたのは肌の赤い、丸刈りの老人だった。建物の中は広く、思ったとおりカジノのようだった。もっとも今はカジノの喧騒はない。どうやらPrimmの住人の避難先になっているようで、老人の他に10人近い人間が銃を持ってカジノ内をうろつき、建物の中に入ってきたKutoに対して警戒の視線を投げかけている。

Kutoは手短に自分の名と、PrimmにはMojave Expressの社員に話を聞くために来たと説明した。運び屋であるJimと自分との関係については少しだけ脚色させてもらったが。

「なるほど……。わたしはJohnson Nash。妻のRubyとともに8年この町に住んで、運び屋紛いのことをやっておったよ。それとMojave Expressの地方支部の運営もね」
「それは好都合です。Jimの運んでいた荷についての情報はありませんか? わたしは彼の代わりに荷を取り返して、仕事を全うしなければならないんです
KutoはDoc Mitchellの診療所からかっぱらってきた配送伝票を見せる。
Johnsonは伝票を見てすぐに「あぁ……、これか」と反応した。「これは……、そう、変わった依頼だった。金払いは良かったがね」



「変わったっていうのは……」
「依頼を受けたのは本部だったが……、依頼しに来たのはカウボーイロボットだったらしい。うちの会社から6人の運び屋を雇って、それぞれ違う品物を持たせた。一対のサイコロだったり、チェスの駒だったし……、どれも奇妙な材質で出来ていたとか」

(カウボーイロボットって……、Victor?)
気にはなったが、KutoはそのままJohnsonの話を促した。話の流れからするとJohnsonが直接依頼を受けたわけではないのだろうから訊いても無駄だろう。
Johnsonは依頼の経緯や最初に雇った運び屋が運ぶ荷のリストと依頼人の名前を確認するなりキャンセルしたこと、その人物がもしかするとJimが殺されたことに関わっているかもしれないということを語った。

「彼を殺した人物は縞のスーツを着た男たちだったそうなんですが……、見てませんか?」Kutoは続けて尋ねる。
「ああ……、それなら数日前の夜に町の者が物資の補給に外に出た際に見たという話を聞いたな……。この辺りじゃあ見ない服装だったから、よく覚えていたって話だ。えっと、縞のスーツの男がだな、Great Khanの服を着た男たちと、チップについて話をしていたとかなんとか」
(Great Khanかぁ………)

●Great Khan
大きな勢力を持つ無法集団のひとつ。
単なるRaider集団ではなく統率が取れており、奪い虐殺するだけではなく、麻薬を製造・密売することによっても生計を立てている。

ちょっと厄介かもしれない、とKutoは思った。集団や組織がバックにいるというのはなんとも面倒だ。しかし縞のスーツの男はGreat Khanではないはずだ。個人が相手ならばやりようがある。

「その縞のスーツの男性について、もっと詳しいことはわかりませんか?」
「うーむ……、それならば保安官補佐のBeagleに訊くのが早いだろうなぁ。あいつはあんたの追っているその縞のスーツの男の後を尾行していって、メモしていたらしいから」
「補佐、ですか?」Kutoはカジノの中の人々に目をやる。「それはどちらに……」
捕まっとるよ
「捕まっている?」
「あれで一応、やつはPrimmの法を代表する人間だからな。利用価値があると思われて囚人どもも捕まえたんだろう。保安官は殺されたがね。今はBison Steve……、向かいのホテルに捕まっとるよ」

(つまりその保安官補佐の人を助けないと駄目ってことか………)

Kutoは考え込む。Powder Gungersに属しているわけではないとはいえ、武装した囚人たちを倒すのは楽なことではない。とはいえ助け出せればPlatinum Chipに関する情報は得られるし、町の人間から報酬も取れるかもしれない。

「ひとつお願いしたいことがあるんですが、良いですか?」
Kutoは試してみることにした。


診療所の玄関でSiはDoc Mitchellに礼を言った。
「いや、こちらこそありがとう」とMitchellが言う。「それに、すまないね。伝票を失くしてしまって……。昨日渡しておけば良かった」
「いや、だいたいのことはわかったから、大丈夫だ。本当にありがとう」

Sumikaは不満さを抑えずにSiの肩に座っていた。

気に食わない

SiはまたKutoのことを庇った。
診療所を出る際、Doc Mitcellは運び屋Jimの遺品である配送伝票も渡すと言ってきた。しかしその伝票は何処にもなかった。昨日まではあったのだ。それがない。となればその伝票は何処へ行ってしまったのか。答えはひとつしかない。あの女、Kutoだ。まさかMitchellのような善人の家から物を盗むだなんて
Siもそれに気付いていたはずなのだが、彼はKutoについては一言も触れなかった。あくまで彼女がGood Springの住人やSiを裏切ったことは隠すつもりでいるのだ。
彼がなぜKutoを庇うのか、その理由はわかっている。彼はかつての姉代わりだった存在であるAniseの面影をKutoに見ているのだ

理由がわかるからこそ、Sumikaには気に食わない。教会が襲撃されてから17年経った。それなのに、それなのにまだ彼は昔のことを引き摺っているのだ
そう、彼はずっと過去に生きている。それは彼が巡回牧師に扮して行動し、遂行している任務からすればわかりきっていることだ。彼は過去の怨嗟を晴らすために生きている。だがそれはなんと悲しい生き方だろう。生きる目的が17年前の復讐だけならば、彼は17年前の思い出だけを胸に生きているということになるのだ。Sumikaとともに生きてきたこの17年間はものともせずに。

それが辛い、腹正しい。そして悲しい。この17年間はSumikaにとっては夢のような期間であったというのに。

「おい」とPrimmへの道中でSiが声をかけてくる。「なんでさっきから膨れてるんだよ」 
「べつに」SumikaはSiの肩の上でそっぽを向く。座っているのは怪我をしたのとは反対側の左肩だ。「膨れてなんてないもん」
SiもSumikaが起こっている理由はわかっているはずなのに、なぜこんなことを言うのだろう。いや、もしかしてわかっていないのか。
「ないもんって……、よくそういう語尾付けられるな」
Siは辺りを見回し、何かに気がついたように罅割れた舗装道路の端へより、草の中に右手を伸ばした。
「あ、ほら、野苺があった」と言って肩のSumikaに自生していた果物を一つまみ渡す。

(こうすれば機嫌が取れると思ってるんだから………)

怒りながら物を食べるのは難しい。一時的に怒るのをやめてあげて、苺を口に含む。美味しい。この身体で得したと思う数少ないときが食事のときと風呂のときだ。

(もう肩は大丈夫なのかな………)

Siは拳銃を両手で扱うが、日常的な動作は右手で行うことが多い。絵を描くときに鉛筆を使うのも右手だ。怪我をしたのが右肩だったので心配だったが、もう傷は問題ないのかもしれない。

「あれ………」Sumikaは前方に旗のようなものを見止めて声をあげた。「あれ……、NCRかな」
「NCR? 何処に?」
「うーん……、Primmの前のところ」視力はSumikaのほうが良い。Sumikaは目を凝らして旗の袂を見る。「人もいるっぽい。NCRの軍服着てるね……。NCRの駐屯地になっているみたい」

Primmの門前では遠くから見たとおりにNCRが駐屯していた。Good Spring側の道路脇に立っていた隊員はPrimmに近づくSiたちを見るなり、PrimmはNCRFCから脱走して来た囚人たちに支配されてしまったと述べた。

●NCRCF
新カリフォルニア共和国矯治刑務所の略。
囚人たちを収容・更生させるためのNCRの施設だったが、囚人たちの氾濫によって現在はPowder Gungersのねぐらとなっている。

「Primmには入れないのか? 用があるんだ」
「危険のため、Primmへの立ち入りは許可できない。必要ならHayes中尉に掛け合ってほしい」Siの言葉を受けてNCR隊員が言う。「彼がこの駐屯地の責任者だ。彼はこの道路を下っていったところにあるテントのところにいる」

言うとおりに道を歩いていくと、テントが2つあった。テントの前ではドラム缶で焚いた火の前で暖をとっている隊員の姿があった。あまり環境は良くはないようだ。
テントの中には尉官の章を付けたベレー帽を被った男がいた。彼がHayes中尉だろうか。

「わたしは新カリフォルニア共和国郡第五部隊第一中隊のHayes中尉だ」彼はテントの中に入ってきたSiに向かって姿勢を正して言った。「きみは?」
Siは名乗り、Primmに入りたい旨、脱走した囚人くらいはNCRなら簡単に鎮圧できるのではないかと尋ねた。
「本来ならば、その通りだ」苦い顔でHayes中尉は答える。「だが物資の問題が生じている。脱走した囚人たちは我々の当初の予定を越えた武装をし、よく統制されていた。こちらには十分な弾丸も銃もないというのに……。何度か前線基地に物資の要請をしたが……、遅々として届かない。これではどうにもならない。被害が拡大しないように睨み合いの状態を続けるのが精一杯だ」 



「Si、どうする?」SumikaはSiの頭に身体を寄せて尋ねる。「Primmへ行くのは待ったほうが良いんじゃない? Platinum Chipの情報は他で得られるかもしれないし……」
SiとSumikaがPrimmにやってきたのはPlatinum Chipの伝票に載っていたらしいMojave Express支部の社員に会うためだった。それと、もしかしたらこちらに来ているかもしれないKutoと会うためというのもあるだろう。
「とりあえず、Primmに入るのを許可して欲しいんだが」Siはホルスターのマグナムを見せる。「自分の身くらいは自分で守れる」
「危険だ。町の入口には地雷も設置されている」
「舗装されたコンクリートの上だろう? それくらいどうにでもできる」
Siの返答を聞いて渋い顔をしていたHayes中尉だったが、やがて諦めたように首を縦に振った。「命の保証はできない。それでもよければ行くが良い」
「助かる」
Siは頷いて、テントを出た。

「本当に行くのね……」Sumikaは溜め息を吐く。Siの腕前は折り紙つきだが、Sumikaとしては彼にあまり危険なことに足を突っ込んで欲しくはない。
「仕方ないだろう」

NCRの隊員に事情を話し、Primmの入口まで通してもらう。
Primmの入口には確かに地雷が置かれていた。その数3つ。どれもコンクリートの上に無造作に置かれている。対人感知センサのついた地雷なので、近づけば爆発する。とりあえず敵を近づかせないための処置ということだろう。

「どうするの?」Sumikaは訊いた。
Siはホルスターから右手で.357マグナムリヴォルバーを引き抜くと、地雷に向かって撃った。3発の弾丸が的確に3つの地雷を破壊した。

■地雷破壊
トラップを解除するには相応のスキルレベルが必要で、たとえば地雷ならExplosionスキルが、虎鋏ならばRepairスキルが要求される一種のチャレンジである。
SiはExplosionスキルが低いが、しかし地雷(Mine)は解除にそう高いスキルを要求するものではない。現段階では.357 magnum revolverの弾丸は少なく、おまけに地雷を解除した場合に手に入るFrag mineも壊してしまうのに手に入らない。
それでもここで破壊を選択したのは、そう、偏にRPのためである。PLはたとえ不利になるとわかっていても、あえてその不利な道を選ばねばならないときがあるのだ。くそう。


「これで行ける」
Siはそう言うと、Primmへと歩いていく。

(大丈夫なのかな………)

Sumikaは心配になってきた。確かに肩の具合は良いようだが、先ほどから彼は右肩に拘っているように見える。銃に関しては彼は右手でも左手でも扱えるのだから、怪我をした右腕は休ませて左手で狙えば良かったのだ。銃の反動は特に手首と肩に来る。それがわかっていたはずなのに右腕で撃ったのは、もう大丈夫だというアピールのためだろう。それが逆に心配だった。

地雷の爆発音を嗅ぎ付けてか、Primmの街中から武装した囚人たちがやって来る。Siはリヴォルバーで確実に1人1人の頭を撃ち抜いていく。こういうとき、Sumikaはコートのポケットの中で震えて隠れていることしかできない。
Siにはできれば人を簡単に殺すような人間になって欲しくはなかった。だが彼はそうなってしまった。銃の腕を鍛え、身体を鍛えた。彼は今や、簡単に人を殺すことができた。
街中を粗方片付けてから、Mojave Expressの看板が掛けられた建物に入った。しかし中に人は誰もいない。何処か別の場所に避難しているのだろうと思っていろいろと回ってみると、Vikki and Vanceという名前のカジノらしき建物が目についた。どうやら中に人がいるようだ。

Sumikaが窓を回って中の様子を確かめる。カーテンで仕切られていたものの、僅かに中の様子が確認できた。中には10人程度の人間がいる。いずれも武器を持っているが、年齢性別がばらばらで、脱走した囚人というふうではない。おそらくPrimmの住人だ。

それを伝えると、SiはVikki and Vanceの入口のドアをノックした。名前と用件を告げて、敵意はないことを示す。
ドアを開けたのは赤い顔の老人だった。彼はJohnson Nashという名前であり、Mojave Expressの支部の社員であると名乗った。
「今日こんな糞っ垂れた状態にある町に来た外の人は2人目だよ」とJohson老人は唇の端を持ち上げて言った。「あんたもMojave Expressに用事かい?」
「それってもしかして……」Sumikaは呟く。
「おれの前に来た外の人間っていうのは、褐色の肌で銀髪の美女か?」Siが言葉を引き継いだ。
「ああ、そうだが……」とJohnsonは頷いた。「なんだ、知り合いかね?」
「彼女は今、何処に?」
「保安官補佐を助けに向かいのホテルに行ったよ」

は?」と声を挙げたのはSumikaだ。

人助けなんて、まさか、そんな、と思ったのだった。あのKutoという女はまた何か企んでいるのではないだろうか。
しかしSiはそうは思わなかったようで、Johnson老人から事の次第を聞き出した。すぐに翻してVikki and Vanceカジノを出ると、ホテルへと向かう。
「ちょっとちょっとちょっと……」Sumikaは慌てて彼を引き止める。「聞いたでしょう? このホテルは囚人たちの住処になってるの! 危ないって……、なに、まさかあの女を助けに行くつもり?」
「どうせその保安官補佐を助けないと、運び屋を殺した男の詳細は聞けないんだ。だったら……」

Siが言いかけたときに爆発音が聞こえた。僅かな振動も。爆発の発生源はホテルの二階だ。
Siの目の色が変わる。本気でホテルの中に入るつもりだ。Beagleという保安官補佐を助けるためではなく、Kutoを助けるために。

もうSumikaが何を言っても止まらない。


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