Cold, Cold Heart
溶けない心


「暑い………」
Kutoは砂漠の中の一本道を歩いていた。





PrimmのBeagle保安官補佐から縞のスーツの男とGreat Khanの男たちの行方を聞いた後、Kutoは言われたとおりにNiptonを経由してNovacを目指すことにした。このルートは比較的安全なはずだった。
確かに道中は比較的安全だった。野生生物もGiant Ant程度しかおらず、その程度の生き物であればED-Eがレーザービームで追い払ってくれた。

●Giant Ant
放射線による遺伝子汚染によって変異した蟻の一種。
本来の蟻と同様に郡体であり、働き蟻、兵隊蟻、女王蟻と個体ごとに明確に役割が決められている。
さらなる変種として炎を吐く種も存在する。

しかし、暑い
Kutoは帽子で仰ぎながら水を飲む。服を脱いでしまいたい。しかし脱いだら脱いだで日射が肌を刺すのが予想されたので、あまり露出できない。ED-Eが荷物の大部分を持ってくれているが、それでも厳しい。

Niptonはもう視界に入っている。あと少し。Niptonに着いたらゆっくり休もう。汚染されていようがなんだろうが、冷たい水をたっぷり飲んで。
破裂音のようなものが急に聞こえてきた。拳銃の発射音だ。だいぶ遠い。ED-Eも探知できていないようだ。Kutoを狙っているわけではなかろうが、姿勢を低くして様子を見る。
やがてNiptonからやや外れた方向から走ってくる人影が見えた。警戒するが、ED-Eは警告音を鳴らさない。彼に感じられる敵意(どうやってED-Eが敵意を感じているかは不明だが)は発していないようだ。
男は途中で立ち止まり、後方を一度確認してからKutoのほうへとやってくる。
「あんた……」男は息を切らせて言う。「今の見たか?」
Kutoは首を傾げてみせる。「なにかあったんですか?」
「あの糞尼……、畜生、急に撃ってきやがった」
「Raiderですか?」
「いや……、違う」男は深呼吸をする。「数日前から一緒に旅することになった女がいたんだ。良い女だったんだが……、さっき急に銃を向けてきて、おれのCapsを寄越せと言ってきやがった。俺が金を投げつけたら急に笑い出して……、あのときはなんだと思ったけど……、たぶんおれの幸運のネックレスを奪おうと思ってたんだな」
「幸運のネックレスって?」
青い星のマークがついた、すっごい珍しいキャップを知っているか? 昔それを集めていたんだが……、たくさんあったからな、そのキャップでネックレスを作ったのさ。珍しいキャップだから幸運を齎してくれると思ってさ」
Sunset Sarsaparilla star bottle capってやつですか」

●Sunset Sarsaparilla star bottle cap
200年前の大戦直前に僅かな時期にだけ作られたSunset Sarsparillaの特殊なキャップ。
収集家の間ではその希少さから非常な人気がある。

「わたしも幾つか持ってますけど、たまに襲われたりしますね。珍しいものですから、狙っている人が多いんでしょう」Kutoは試しにと嘯いてみる。「わたしは珍しいから取っておいてますけど、安全に旅をしたいなら捨てちゃったほうが良いんじゃないですか?」
「そうなのか?」と男はちょっと驚いた表情。「ずっと持って歩いていたが、そんなに危ないものだとは知らなかった……。あんたも持っているって言ったけど、大丈夫なのか?」


「わたしは腕に自信がありますので」と撃てもしない腰のスコープ付き9mm拳銃を叩いてみせる。
「うーむ……、そうか………」
男は首にかけていたネックレスを外す。確かにSunset Sarsaparilla star bottle capで作られたネックレスのようだ。
彼は少し迷いを見せていたが、それをKutoに渡してきた。
「じゃあ、あんたにやるよ。おれは危険なのはごめんだ。あんたが持っていたほうが良いだろう」
「良いんですか?」とKutoは遠慮がちに言ってみる。
「良いよ。おれはもうこりごりだ。捨てるのは勿体無いしな」
そこまで言うのなら」Kutoは思いっきり笑顔を作った。「いただいておきます」

男と別れ、Niptonへと向かう。足取りはだいぶ軽くなった。
「7つかぁ………。この前おじいさんから貰った分とあわせると14個だね」KutoはED-Eに話しかける。「別にひとに見せなければ狙われないのにねぇ。まったくあの人、騙されやすいったら
そう笑いながら歩く。だから途中まで気付かなかった。Niptonを包み込む気配に赤い服を纏った集団に

ED-Eの発した警告音で、Kutoはようやく悟った。この町に何かがいるということを。
その何かはもう視界の中に見えていた。Kutoから見えるということは、相手からも彼女の姿が見えるということだ。
その数5人と犬2匹。身体に纏ったのは赤い鎧。腰に下げているのは無骨な山刀と連装式ライフル。頭につけている被り物は珍妙だが、この状況は笑えない逃げられない。敵意を向けたら撃たれるだけだ。敵意を向けなくても撃たれるだろうが。
ダイナマイトをKutoはまだ何本か持っていたが、それが今目の前にいる相手に通用しないであろうことはわかっていた。自爆覚悟で戦いでもしない限りは爆弾を投げてもかわされるだけだろう。それだけの戦いの技術がある。この目の前の兵士には。

逃げられない。

戦えない。

彼らはCaesar's Regionだ。

「女……、怯えているのか」いつの間にか目の前に来ていたRegionの男が言った。「安心しろ。われわれはきさまをこの屑どものように磔にするつもりはない」


Regionの男たちの周りには10人近くの人間が倒れていた。いずれも重傷のようだったが、生きているものもいるようだ。うち何人かはNCRCFのロゴの入った服を着ていることから、Powder Gangersであることがわかる。
「きさまはメッセンジャーだ。このNiptonでの出来事の仔細を目に焼きつけ、伝えろ。ここでのCaesar's Legionの教えを」男の手がKutoの頬に触れる。「特にNCRの兵士にな」
「Legionの教え………?」

自分は今生き残れる可能性がある。

Legionを前にして。

Kutoはそれだけを考えていた。ED-Eが銃を発射しないことを祈る。
「どこから教えれば良い? こいつらは弱者だ。屑だ。われわれは強者だ。それは既に知れ渡っていることだろう……。われわれが伝えたいことは」男の手がKutoの頬から首へと動く。「道徳の問題だ。この屑どもにはそれがそれが欠落していた。このNiptonでそれはよく伝わるだろう……。Nitptonは堕落し、汚れきった町だった。訪れたものたちから不当に金を取り立て、食い物にした。この町の屑どもとPowder Gangers……、こいつらを捕らえてここに集め、その不実をわたしは説いた。古代ローマ軍でも不実のものは罰せられたものだ。堕落したものは死すべきなのだ」

男の手がKutoの臍のところまで達した。

Kutoは呼吸をする。

一度。
二度。
三度はしない。落ち着いた。

わかりました」Kutoは微笑んだ。「Legionの正義を伝えさせていただきます」
「それで良い」Legionの男が離れる。「正しくわれえわれの考えを理解してもらえて良かった……。では行くが良い。来るべきに向けてLegionの教えを伝えるのだ」
Kutoは一礼してから反転し、今までの道を引き返し始めた。走り出したい欲求を抑えてできるだけゆっくりと歩いた。

生き残った。

あのCaeser's Legionの兵士たちと出会って、生き延びた

身体が震えた。
歓喜に打ち震えた。

Niptonが見えなくなるまで歩いてから、Kutoは振り返った。さて、どうしよう。おそらくRegionたちは生き延びたPowder Gangersたちにしかるべき処置をした後にNiptonを去るだろう。それを待ってからNovacに向かっても良い。しかしNCRに教えを伝えると約束してしまった以上、それを反故にするとLegionの兵士から恨まれる可能性もある。Legionと敵対するのは危険すぎる。NCRの基地に寄ってNiptonでのことを伝えるべきだろう。

(一番近い基地は……、Mojave基地かぁ………)

目の前に広がる砂漠とどこまでも伸びる道路を見て、Kutoは溜め息を吐いた。これはまた辛い道中だ。しかし何にせよ生き延びたのだ。旅というのはかくあらねば。

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