「あんたは外にいる連中の仲間ってわけじゃなさそうだな……。いったいあんたは何者だ?」

広い吹き抜けの部屋の二階からGhoulが銃を構えて言っていた。銃を構える仕草や安定した姿勢、そして余裕を持った口ぶりから、自身の腕前に相当な自信があることが伺える。
それも当然のことだろう、とKutoは足元の足を吹き飛ばされ、眼球を撃ち抜かれたNightkinの死体を見て思った。

「Jasonに『悪魔』を追い払うように言われた者です」とKutoは両手を広げて武器を持っていないことをアピールする。「Kutoといいます」
「そうか、おれはHarlandだ。あんたも災難だったな」とGhoulは納得したように、しかし銃口はKutoから逸らさずに頷く。「あの野郎があんたの尻穴を代わりに差し出すのが創造主様のお言葉だとか言ったんだろう?」
Kutoは無言で肩を竦めて見せる。正直なところ、恐怖が先行してしまって、Jasonにどのように説得されたのかということは覚えていない。

可哀想にな」とHarlandは勝手に納得したように言う。「手を貸してやりたいところだが、無理だな。死体に見えるかもしれないが、こう見えても生きているもんでね」


Kutoは彼の冗談に笑う余裕はなかった。HarlandもGhoulだ。威圧しているのが銃によってであり、距離があるからだいぶん恐怖は緩和されているが、それでも恐怖を感じる対象であることは変わらない。

Kutoはできるだけ恐怖を押し殺して言葉を紡ぐ。「そこから降りられないんですか? あれに追い詰められたって感じですけど」
「追い詰められたわけじゃない。これは戦略的選択さ」とHarlandは唇を歪める。「おれはこの外じゃあ戦っちゃいない。一番防衛に向いている場所を見つけて対処をしただけだ。おかげで今まで生きてこられた……、なんてな」Harlandはおどけた口調で肩を竦めた。それでも銃口を逸らさないのはさすがといえる。「単に追い詰められたってだけだよ。襲撃があったとき、おれは仲間たちを護衛していた。戦いはだいたい地上階であったが、パニックを起こした仲間たちは地下へと逃げ込んで、おれも追わなくちゃいけない羽目になったってわけさ。行ってから上の階よりもこっちのほうにあの糞どもが大量にいるってわかったんだがな。世の中悪いことばかりに行くもんさ
「よくこんなところで大丈夫でしたね」

Kutoはあたりを見回しつつ言う。この部屋の環境は決して良いとはいえないだろう。Ghoulといえども食料や水は必要なはずで、ここでそれが補給できるとは思えない。

「こう見えても繊細ってわけじゃあない。Radroachの肉は蛋白質たっぷりだし、パイプからは凝結した水が集まっている。それにこの程度、いつもとあまり変わらん。悪くない生活だよ」

●Radroach
放射能によって巨大化・凶暴化したゴキブリ。
現在のアメリカでは他の動物の肉と並列して売られている。

「それで……、お仲間の方は?」
「見つけられなかったさ。それでおれはここに居着いて、今日も楽しく殺戮に励んでいるってわけさ。おれの身の上話はそんなところだ」
Kutoは上階に続く階段を横目で探す。入口から入って右奥に階段がある。扉はないため、鍵が掛けられて入れないということもないだろう。
「あなたは」とKutoは言葉を紡いだ。「Jasonさんたちとはだいぶ違う感じがしますね」
「ああ……、このおしゃれジャケットとかか。おれはあの糞ったれなローブに袖を通したことはない……。ま、あいつらのことはどうでも良い。おれはあいつらのことを助けて、あいつらはおれに弾丸をくれたし、受け入れてくれた。それだけだ」

出口はひとつ。階段に登るための入口はひとつ。常に上階からはハンティングライフルを持ったHarlandが監視している。
(正攻法じゃ無理かな………)

さて、どうしよう。

「良かったら、ここから出るお手伝いとかしますけど」
「そいつは親切なこったな」とHarlandは笑った。「おれも見習いたいもんだ……。もうここにいるのがあんたとおれだけなら出て行くのは簡単だ。だがそうじゃない
HarlandはNightkinの襲撃を受けた際に、彼の友人がパニックを起こしてここより下層に行ってしまったということを言った。
「たぶんもう死んでいるんだろうさ……。だが」とHarlandは遠い目をする。「確かめないうちに逃げ出すことはできない。本当なら自分で探しに行きたいところだが……、そうもいかん。それで頼みたいことがある。おれの代わりに彼女を探してくれ。見つけてくれたら、あんたの帰り道を護衛してやる」
「自信はありませんが……、良いですよ」Kutoは頷いてみせた。「あなたと同じGhoulですね?」
「そうだ。Jasonたちと同じローブを着ている……。助かった。ありがとう。彼女とあんたが無事であることを祈っている

(無事を祈られてしまった………)

Harlandのいる部屋を出るとき、Kutoはそう考えて微笑むだけの余裕ができていた。部屋の自動ドアが閉まりきる前に上階のNightkinの死体から盗み取っていたStealthboyを作動させる。Stealthboyが迷彩フィールドを作り出し、これでKutoの身体は外見からは目に映ることはなくなった。
そのまま足音を殺してHarlandの部屋に戻る。彼は上階で、息を吐いてハンティングライフルを肩に掛けていた。ほっとしたような、そんな表情だ。
階段を登ってHarlandがいるのと同じ高さに到達する。金属製の階段を足音を殺して登るのには少し苦労した。9mmピストルを抜きかけ、これでは確実ではないかもしれないと思う。胴体を防弾ジャケットで覆っている以上、この口径のピストルでは頭に押し付けて引き金を引く必要があるが、それでもこのピストルの威力では一撃ではHarlandを殺すことはできないかもしれない。彼は自分の腕に相当な自信を持っていたので、頭に弾丸を食らっても反撃くらいはしてくるかもしれない。攻撃の際に近くにいると、少々危険だ。
Kutoは少し考えてダイナマイトに火をつけた。そしてそのままHarlandに接近し、彼の背嚢に乗せた。導火線が燃え尽きる前に階段のところまで避難する。

Harlandがダイナマイトに気付き、声をあげるのが聞こえた。だがもう遅い。ダイナマイトが爆発し、Harlandの身体を吹っ飛ばした。


階段の柱の影から様子を覗く。Harlandは完全に死んでいた。なかなか素敵な人物だったので殺すのがちょっと惜しかったような気がするが、仕方がないことだ。それにGhoulは愛したくない。
KutoはHarlandの死体を確認した後、彼の住処にしていたフロアに置かれていたコンピュータを立ち上げた。古いマシンだが、正常に動いてくれた。ログを辿り、Stealthboyの記録を探す。
これは青い肌のミュータント、NightkinのリーダーであるDavisonに頼まれたことだった。頼まれた、というより脅された、か。

「Antlerがわれわれをここに遣わしたのは理由あってのことだ。この施設にはかつて数百ものStealth Boyが運び込まれたと記録にあった。われわれはStealth Boyを探した。あとひとつ、Stelth Boyがある部屋にあるはずだが、まだ探せていないでいる……。Ghoulのせいだ。他のGhoulたちとは違う、脆くない、タフで頑強なGhoulがあの部屋を守っている。Antlerはわれわれの血族をあの部屋に送るよう言ったと思ったのだが……、三人死んだ。あの部屋には罠も仕掛けられている。わたしは間違っていた。Antlerはそんなことをわたしに言っていなかったのだ。だからわたしはあの部屋に鍵を掛け、Antlerのお言葉を待っていた。そしておまえが来た」


おまえが解だ、とDavisonは言った。Ghoulが守る最後の部屋を探せ、と。
しかし結果は最悪だ。コンピュータに残されていたメールの記録によると、ここに運び込まれたStealthboyは何らかの手違いによるもので、発送元であるRobcoという施設に送り返されたらしい。つまり、ここにStealthboyはないのだ。
だがそれを告げたとしても、Davisonは納得するだろうか? あの、狂人が。納得するはずがない。

(よし、逃げよう)
Stealthboyの効力が残っているうちに逃げるべきだ。ED-Eに先導してくれるように言い、Kutoは出口へを向かった。
だがNightkinとは化け物なのだと、Kutoはそれを思い知った。出口に向かう途中、Kutoは腕を掴まれた。握っているのは筋骨隆々の青い腕だった。Stealthboyの迷彩フィールドはいまだ効力を保っているというのに、見破られた。

「Stelthboyは見つかったのか?」
Davisonが顔を近づけて訊く。Kutoの迷彩フィールドは効力を失って切れた。

逃げられない。反撃に出ようにも、攻撃の意思を見せた途端に腕を引き千切られるだろう。

「見つかったのか?」
「Stealthboyは間違いで輸送されて……、送り返されました。この建物には……」Kutoは声を振り絞った。「Stealthboyはありません………」

「嘘を吐くな!」

鼓膜が破れそうな声量だった。


「記録を見たのだろう! Antlerがここまでわれわれを導いてくださったのだ! 確かに、確かに記録にはここにStealthboyが輸送されたとあるのだ! おまえが嘘を吐いている!」
足元が覚束なくなり、膝を冷たい床につく。立ち上がれない。誰も助けてくれない。目の前が霞み、目元だけがなぜだか温かい。

「なんですか、Antler!?」Davisonは急に視線を上へとやったまるでそこに誰かがいるとでもいうように。「しかしこの女は嘘を吐いているはずです! Stealthboyを盗んだに違いありません! それなのに、それなのに……、ああ、しかし……、そうですね、あなたが間違っているはずがない………
DavisonはKutoの手を離した。そして落ち着いた声になって言う。
「運が良かったな、人間よ。Antlerはおまえを信じた。Nithgtkinは新たな記録を見つけて、確かにStealthboyがある場所を目指す。ではな」
Davisonは肩をいからせ、ゆっくりとした調子で地下入口のほうへと行ってしまった。廊下に響く足音は彼のものだけではなく、他の多くのNightkinのものも聞こえた。


どうやら全員去ったらしい。Kutoは目元に指をやってみた。温かい。涙が溢れていた。
怖くて泣いたなんて、久しぶりだ
KutoはED-Eを抱き寄せてそっとキスした。

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