One for My Baby
骨まで愛して



木製のテーブルはあまり綺麗ではなかった。木目の間には食べ滓がところどころに詰まっており、丁寧に拭かれている印象もない。綺麗ではないというのは料理が盛り付けられた皿や水の入ったコップも同じで、さすがに料理が乗っている面は拭き上げられているようだが、裏面などは油汚れが染み付き、変色している。


料理の味は普通だ。
いや、本音を言うとあまり美味しくはない。油を使い過ぎで、味も濃い。小骨が多い。しかしそう感じるのはSiがあまり美味しくはない部位だけをSumikaたのめに切り分けたせいかもしれず、一部分が不味かったからといって不味いという評価を下すのは不当かもしれないと思い、料理は普通だ、ということにした。

Si、Sumika、そしてRaulは命からがらBlack Mountainから逃げ延びることができた。こうして落ち着いてテーブルに座っていると、大きな怪我もなくあれだけのSuper MutantとNightkinを退けることができたのは奇跡的なことだと改めて思う。
Raulが作ったJFP弾はきちんと機能した。この歳になってもおれの弾は元気だ、とRaulは言った。
Nightkinたちの皮膚を貫通できる弾があるとはいっても、それで勝負において有利な立場に立てたわけではない。それでようやく対等か、それよりだいぶ遅れているくらいだ。何せ相手は多数であり、兵器もミニガンや火炎放射器、ロケットランチャーなど強力な武装をいくつも持っていたのだ。一方こちらはSiとRaulとSumikaの3人だけ。おまけに銃火器は.357口径拳銃ひとつきりだ。
しかしなんとか脱出できた。できる限り逃げ、寄ってくる者は容赦なく殺した。山を下るころには朝になっていた。

Black Mountainの麓の小屋でSumikaたちを出迎えたのはBlack Mountainに入ったときにSiを助けてくれたSuper Mutant、Neilだった。


彼は何らかの方法でSiがNightkinを撃退したことを知ったのか、よくやってくれた、と言った。
「Tabithaを殺し、Raulを助けたか……。わたしがきみを助けたのも無駄ではなかったようだ
「えらい目に遭った」とSi。「あんたはこれからどうするんだ? Tabithaってやつは、たぶん殺したけど」
「わたしはまだここで果たさなければならない役目がある。Tabithaの放送を聴いた善良なSuper Mutantがまだやってくるかもしれない。彼らにはJacobs Townを指し示してやるつもりだ」

Neilはその後にSiの足を再度診てくれた。激しい動きをしていたわりにはだいぶん良くなったらしい。
一番近い村を尋ねると、西に少し進んだところにあるSloanという村を教えてくれた。NCR管轄の炭鉱夫たちの村だという。


SiとSumika、それになぜかついてきたRaulはSloanに向かった。今はSloanのパブでようやく一息吐いて料理を注文したところ。

「これは味が濃いな……。ううむ、老人には辛い。ボス、料理を交換しないか」Raulは自分の料理に手をつけて言う。「やけに切り分けるな
切り分けているのはSumikaのためだ。RaulはSumikaのほうを見ているわけではなかったが、今まであまりSiの食事の仕方にコメントをつけた人間はいなかったため、少し緊張してしてしまう。
SiはというとRaulのコメントは半分無視し、「さっきから疑問だったんだが……、そのボスってのはなんだ」と言った。
「ボスはボスだろう。あんたがリーダーだってことさ。あんたとおれはこれから行動を共にするんだし、上下関係は重要だろう。あんたには助けてもらった恩義もあるし、あんたが上なのは間違いない。だからボス」
「だれとだれが一緒に行動するって?」
「おれとあんたが」
「なんでそうなる」
「ほら……、袖振り合うも多生の縁というだろう。旅は道連れとか。ボスはどこか目指していた途中だったんじゃないのか? どこだ?」
Siは少し躊躇する様子を見せた後、「だ」と言った。
「おぉ、おれも北に用があるんだ。ちょうど良かったな。うむ」
「どういう用だよ」
「家がそっちなんだ。良いだろう? 別に家まで連れてけと言っているわけじゃない。同じ方向に行っている間だけで良いさ。何か困り事があるなら手伝ってやるし、弾だって作ってやる」
Siは溜め息を吐いてSumikaのほうを見てくる。おまえはどう思うか、という意味だろう。

SumikaとしてはRaulのことは嫌いではない。彼は冗談が多く真剣味は少ないが、悪人ではない。話し方からも人の良さが伺え、Sumikaにとって好きなタイプだ。それに腕は確かだと思う。安心してSiの背中を任せられる。
Siとの人間関係が気になるが、Black Mountainを降りてからというものSiのRaulに対する態度は(他の人間に対するものよりは)悪くない。こんなことは珍しいとSumikaは思う。もしかすると彼は遥かに年齢が上であり、卓越した腕をもつ(そしてそれを誇らない)Raulを敬っているのかもしれない。しかし尊敬している相手への言葉でもないな、とも思う。
問題はSumikaとSiの意思の疎通に障害が生じることだ。2人きりなら簡単なことでも、他にひとりいると難しい。会話さえ困難になるかもしれない。SumikaのことをRaulに説明してもらっても良いが、きっと信じてもらえないだろう。Sumikaのことが見えない人間に彼女の存在を話しても無駄なのだ。
とはいえここのところあまり良い関係ではなかったSumikaとSiの関係がRaul(とBlack Mountainでの騒動)のおかげで良好化したのは確かだ。ずっと一緒に旅をするわけではないのだから、もう少し一緒にいてもらっても良いのかもしれない。
Sumikaはそう決断し、頷いてみせる。
かくしてRaulが旅の仲間として加わった。

改めて食事と続ける。
「人を探している。縞のスーツの男だ。見たことないか?」とSiが尋ねる。
あるよ」当たり前のようにRaulは頷いた。
「どこで?」
「Black Mountainにはたくさんいたさ。ちょっと身長が3m越えてて肌の色が緑だったり青だったりしたけど。どうだ、探し人は絞り込めそうかい?」
「おれが探してるのは人間だ」
「そうだと思った」
「馬鹿にしてんのか」
「まぁ、少しは。鋭いな、さすがボス」
「ぶん殴るぞ」
そう言いつつSiの表情はそこまで怒りを孕んでいない。

「見たことはないね」とRaul。あまりに口調が変わらないので、まだ冗談を言っているのかと思えてしまう。「そういう都会者を探すんだったら、Stripで探したほうが良いんじゃないか?」
「Strip……、Vegasか」
「ああ。戦前から残り続ける大都市のひとつだ。豊かで眩しいところさ、いろんな意味でね」Raulは語りだす。「昔はRaiderたちがそこかしこにいたもんだが、Mr. Houseが実権を握ってからはだいぶ変わったな。荒っぽいやつらは教育されるか追い出されるかして、今じゃMr.. Houseのカジノで働いているやつもいるくらいだ」
「Mr. Houseね……」Siは呟く。
SumikaもMr. Houseという名はいちおう知っている。Vegasのカジノ街であるStripを取り仕切っているという男。戦前から同じ名前の人物が活躍しているため、Mr. Houseとはそのような名前の電子頭脳なのではないか噂もある。
「ボス、こんな話を知っているかい?」と前置きしてからRaulは身振り手振りを交えつつ語りだす。「Robert Houseって男がいた。彼は天才だった。スターだった。もてもてだった……。それがおれだ」
Raulのは親指を自分自身に向ける。
「まともに話できないのか?」とSi。
「できる限り頑張っている。まぁ、おれがRobert Houseっていうのは冗談だ。もてもてなのは本当」とRaulはあくまで口調を変えない。「Robert House……、彼はLas Vegasの守護者といわれている。文字通りの意味で、だ。おれは核が、アメリカをこんな状態にした爆弾が落ちたときにメキシコにいた……」
Raulは目を瞑る。しばらく無言。


「メキシコがどうした」沈黙に耐え切れなくなってSiが折れる。
「ちょっと昔懐かしんでいた」Raulが目を開ける。「Robert Houseについての話の続きが聞きたいなら50Caps、さらにおれの昔話も聞きたいのならあわせて100Capsだ」
Siは怒りに任せてか50Capsの束をテーブルに叩きつける。
ちょっと、Si!」50Capsは注文した料理と飲み物代金程度で大金とはいえない額だが、大事な路銀だ。いいかげんに使って良い金ではない。
「よし、サービスでおれの過去の話もしよう」とRaulはしれっとした顔で言う。「おれはメキシコシティの外で産まれた。おれの両親は小さな農場を経営していて……」
おまえのことはいい。Mr. Houseの話の続きを話せ」
「ちぇっ、ボスは冗談が通じなねぇ」Raulは頬を膨らませる。あまり可愛くない。「えー、なんだっけ、そう、メキシコシティね。メキシコシティでは……、ああ、そう、思い出した。見えたのさ。Mr. Houseの戦いがね。彼はあらゆるミサイル、レーザー、電子戦兵器、ロボットを用いてVegasに降り注ぐ核ミサイルを撃ち落していた……。まさに英雄であり、守護者だった……。大戦後、誰もが彼は死んだのだと思った。実際、そうだったのかもしれない。Robert Houseは死んでいるのかもしれない。だが確かに今、New VegasにはMr. Houseのロボットと彼の秩序が存在する
「あんたの口ぶりはまるで」とSi。「Mr. HouseがそのRobert Houseとは別人だとでも言いたげだな」

あんたという二人称はSiの中ではなかなかランクの高いものだ。初対面の相手以外ではほとんど使うことはない。たいていは、おまえ、になる。凄い、敬意を払っている、とSumikaは驚愕する。

「ま、たぶんね。そうじゃなかったら……、そう、たとえば脳の中身をコンピュータの中に移してるとか……、あとはその両方かもしれん。ああ、そういえばこんな話もある。かつてRobert Houseが若い舞台女優に出会った際に、脳をスキャンさせてくれって頼んだって。関係ない話でもないな」
「なるほど………」
SumikaはSiの表情を伺う。恋をした女の脳をスキャンして人格を移す。恋焦がれるという点ではSiにも関係ない話でもないような気がする。それは病的だが、しかし理解できなくもない。

食事を終えて店を出る。支払いは先ほどSiが出した金でRaulが払っている。彼が離れている間にSumikaはSiと話をすることにした。
「Si……、Vegasに行くつもり?
「ああ」Siは短く返答して頷く。
Novacじゃないの? 縞のスーツの男が向かったっていうのは……。それにあの女、Kutoのこともあるし……」
「どうせ縞のスーツの男っていうのはVegasの人間だろう。そのうち家に戻ってくるはずだ。怪我をしてだいぶ遅れをとった。Kutoもおそらく情報を得てVegasを目指しているだろう。いまさらNovacへ行っても、無駄だ。それにこのあたりはVegasに向かうにはちょうど良い」
「ちょうど良いって?」


「鉄道がある」


今日も良い天気………
その頃、KutoはまだNovacにいた。

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