「こいつはVan Graffで働いてる男だ。見たことあるから知ってる。だからVan Graffが背後にいることは間違いない。でもVan Graffだけなら、キャラバンを襲撃する必要がない。少なくとも、わたしのキャラバンは。あいつらは、エネルギー兵器の専門だから。だから、ほかに糸を引いてる輩がいる。それはCrimson Caravanしかない。買収の話に乗り出してくるのが早すぎる。あいつら、ぶち殺す。ぜったい、なにがなんでも、ぶち殺す
 Cassは一息に言い放った。


 踵を返してCrimson Caravanへと向かおうとする彼女の手を、Siは掴む。
おい、ちょっと待て……、性急過ぎるだろう。なんだ、その帰結は」
「何もおかしくない。おかしいのは、あいつら。ぶっ殺してやる。後悔させてやる」
「だから待てっての……。ひとりで乗り込む気じゃあないだろうな」
「ああ、良いアイディアだね。ちょうど夜だし、夜襲にはうってつけだ。気にしないで。銃弾とウィスキーさえあれば、あんなやつら皆殺しにしてやれるから、心配ご無用」
「ほかにも手はあるだろうに。NCRに頼るだとか……
「NCR? なに、NCRにいると、脳味噌までNCRになっちゃうわけ? いつまで経ってもLegionを一層できないような糞無能が、Crimson CaravanだのVan Graffだのをぶち殺すのに手を貸してくれると思ってんの?」
 SiもNCRだ。だから激昂した、というわけではない。しかし彼はホルスターから銃を引き抜き、Cassに押し当てていた。
「なに、馬鹿にして怒ったってわけ?」とCassの罵倒は止まらない。「事実でしょう。事実を言われて、なに、無抵抗の人間に銃を突きつけるわけ? 馬鹿じゃないの。撃てるもんなら撃ってみなさいよ」
「あんたに勝手に死なれると、おれが困る」

 Cassが単独でCrimson CaravanやVan Graffに突撃したところで、その結果は見えている。ひとりやふたりを道連れにするのがせいぜいだろう。
 しかし彼女が死ねば、間違いなくAlice McRaffityの口から、SiがCassと直前まで同行していた事実は知れるだろう。そうなったら、Siのことも糾弾されるに違いない。Crimson CaravanはNCRに武器や弾薬、食料などを卸しており、繋がりは太い。Cassを唆してCrimson Caravanに被害を与えた、などということが公になれば、いままでの努力がすべて無駄になる。

「Crimson CaravanとVan Graffの内偵までなら協力してやる。NCRの上層にまで話も通してやる。だがあんたがあくまで自分であいつらをぶち殺そうというのなら、ここで殺す」
 脅しではなかった。彼女はNCRとの繋がりがあるわけでもないし、既に隊商を売って一旅人になっている以上、行方不明になっても誰も探したりはしないだろう。
 Sumikaの制止の言葉も心には響かない。迷いはなかった。Siにとって、Cassの命に価値はない。

 Siの心を悟ったのだろう、諦めたようにCassは両手を挙げた。


 Siたちはそのまま夜の闇に紛れ、Crimson Caravanのバラックに侵入した。隊商襲撃に関する何かしらの証拠があるとすれば、コンピュータの中か金庫の中だ。Siはバラックの倉庫の中で、Crimson CaravanとVan Graffの密約を文書にしたものを発見した。
 密約の内容は、Van GraffとCrimson Caravan以外のMojave Wastelandの隊商をすべて排除するという内容だった。襲撃は、買収を簡単にするため、そのキャラバンの価値を下げるために行っていたらしい。Van Graffが私兵と武器を使って襲撃を行い、Crimson Caravvanが安値で買い叩く、というわけだ。

 翌日。SiはSilver Rushへと向かった。


「いらっしゃいませ、お客さま。NCRのRangerとお見受けしますが……」
 店に入るや否や擦り寄ってきた女、おそらく店主のGloria Van Graffに対して、Siは黙って頷いて返す。


「当店は安心安全かつ高威力、健康にも優しいエネルギー兵器のみを扱っておりまして、NCRの方々にもご好評いただいております。よろしければ、商品について解説させていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「いや、見てるだけだから、いい。それより、トイレは何処だ? 腹を壊してるんだ」
 Siの応答に、Gloria Van Graffは一瞬気が削がれたような表情になったが、丁寧な言葉で便所の方向を指し示した。

「Sumika、首尾は?」
 と便所の個室に入ってから、Siが尋ねる。
「こういうスリ紛いのことはやだなぁ………」とぶつくさ言いつつも、Siの手に鍵が落とされる。Gloria Van GraffからSumikaが掏り取った、奥の部屋への鍵だ。


 Siはステルスフィールドを展開する戦前の道具、Stealth Boyを起動、足音を殺してVan Graffの従業員専用のドアを潜り抜け、その先でCrimson CaravanのAlice McRaffityとの交換文書を発見した。

 すぐさまそれらの文書を統合し、上層部へ報告。Crimson CaravanとVan Graffの所業は白日の下へと曝された。
 満足したか、とも、不服か、ともSiはCassに訊かなかった。答えは解っていた。満足しない。復讐心は満たされない。それは復讐のためにRangerになったSi自身、よく解っている。
 だが復讐を志しても、ただ17年間を無駄にするでしかないということも、Siはよく知っていた。だから、彼女にはそれ以上、関わり合いになりたくなかった。SiにはSiの、為すべきことがある。

 翌日、Hooverダムの一室をSiは訪れていた


 対峙するのは、彼と同じくらいの歳の女。
「ようやく来たか、Ranger FE」
 と女が口を開く。Crocker大使やHsu大佐に恐れられていた女、Moore大佐だ。想像していたよりも若く、容姿は端整だが、早口のその口調には高圧的なものがある。
「Crockerから話は聞いている。除隊したいそうだな。通常なら、知らんと言ってぶん殴ってところだが、喜べ、おまえの除隊届けを受理してやろう。ただし」とMoore大佐は予想通りのことを言った。「任務を遂行してからだ。さぁどうする、Ranger FE」
 Siは黙って頷いた。ほかに選択肢はない。Crocker大使は、可能な限り粘って交渉をしてくれたはずだ。その上で断ろうものなら、恐らくはこの場で銃殺刑だろう
 よろしい、とMoore大佐は満足げに頷いて宣言する。
「作戦名は、"For the Republic"。その狼煙をあげるのは、Great Khanからだ」


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