かくもあらねば/17/09
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「おおっ」
背後で歓喜の声をあげていたのはKutoだった。彼女が視線を向ける先には電力の回復に伴ってか、自動的に稼動を始めたスロットマシンやブラックジャック台があった。
そういえば、New VegasのFreesideでThe Kingsの目撃証言があったとき、彼女はカジノに興じていたという話だったか。どうやら賭け事がお好きらしい。
とはいえそんなことをやっているような場合ではない。SiがKutoを制止しようとしたとき、Elijahの耳障りな館内放送が響いた。
『糞っ垂れ、カジノのシステムだけが復帰するとは……』
どうやら彼の思い通りにはならなかったらしいと知って、Siは思わず笑みを零した。こんな首輪と鎖をつけて相手を自分の思い通りにしようなどというのだから、思い上がりも甚だしい。SiはNCRの犬だが、いつまでも犬でいたいと思っているわけではない。Elijahは厭なやつだ。その厭なやつが困っているのだから、それを見るのは格別である。
非常時用のセキュリティシステムが作動しているカジノにわざわざ忍び込んで電力を復旧させたのは、地下金庫への道を確保するためだった。電力が回復しなくては、移動すらままならない。
そういうわけで彼はSiとKutoを使って、電力を回復させようとしたようだが、全体の電源は確保できず、カジノの機能だけが取り戻されてKutoだけが喜ぶことになってしまったようだ。
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『とにかく、当初の予定通り、ロビーに戻ってきみたちのお友だちを探すんだな』
「さて、お楽しみの時間と行きましょうか」
KutoはElijahの話にまったく頓着する様子を見せず、指を組んで笑顔を作る。帽子まで被り、既にしてカジノしか見えていないという様子だ。
「240枚もあれば十分ですね」
と言って、勝手にSierra Madreの自動販売機で有用な道具と換えられるはずのチップ、240枚を台に積み上げ始める。
『しかし、なぜきみたちが……、失礼、きみたちのチームはこんなことになってしまったのかな』
一方で、Elijahのほうも勝手に喋り続けていた。
『ふむん、そういうことか。面白いことがわかった。どうやらきみたちのうちのひとりの声が、特別ゲストとして登録されていた人間とよく似たものだったらしい。なるほど、これは愉快だ。そうか、声か。音声だな。このシステムを起動させるのには、音声ファイルが必要なんだ。特定の周波数を内蔵した、音声ファイルだ。よし、わかった。音声アーカイブを探してくれ。そこから目的のものを見つける。それでこのカジノは掌握できるはずだ。ああ、そう、その前に、各フロアにいるはずのきみのお友だちへの対処は忘れないでくれよ。外とは逆に、今は彼らの首輪がカジノのスピーカーを妨害しているせいで、もし音声ファイルが見つかっても上手く稼動させることができないはずだ。見つけ次第ぶっ殺してくれて良い。そうじゃなきゃ、きみたちが近づいてくれれば、自動的に相手のシグナルがリセットされるはずだが、まぁそんな余裕はないだろうから、殺して良いよ。幸い、このカジノ内では上手く電波が通らないがゆえに、首輪の装着者が死んだとしても、他のフロアへ逃げ込めば連鎖爆発はしないで済む。きみのお友だちを殺した後は、さっさと次のフロアへ逃げてくれたまえ』
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「ツキが巡ってきたみたいですね」
そう言ったのはKutoで、見れば彼女の座っているスロット台の目はBARがみっつ並んでいた。チップ25枚掛けて、500枚戻ってきたというわけだ。先ほどから勝ち続けて、この女の座る台だけ何かおかしいのではないかという気がしてくる。
「そんなことを言っている場合じゃない」
「いえ、場合ですよ。逃げる好機です」
Kutoの言葉に相対して、Siは視線を周囲に彷徨わせた。何かしら音声を傍受する機能が据え付けられているかもしれないとの危惧からだった。
だがKutoはこう言った。「少なくとも今は大丈夫ですよ。でなければ、カジノで遊び始めたわたしを咎めるようなことを言っているはずですから。位置くらいはわかるけど、音や何してるかまではわからない、といったところでしょうか」
「なるほど」
そう相槌を打ったのはSumikaで、彼女が納得したのであれば、とりあえず話を聞いてやるかという気にはなる。
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「好機というのは?」
「うーん、逃げる好機というのは、ちょっと言いすぎだったかもしれませんね」ただ、とKutoはカードを人差し指で叩き、毛一枚カードを受け取る。「ここに来て、あのElijahさんの思うとおりに事が進んでいないのは明らかです」
「Deanたちのことか?」
「その通り」ブラックジャック。Kutoは立体映像のディーラーからチップを受け取る。「もともとの計画では、カジノ内に入るのはElijahさん自身とCollar 21、つまりわたしたちだけだったはずです。なのに彼らもどうやってか、入ってきてしまった。さて、Elijahさんはどうするでしょう?」
「おれたちに対処させようとしているんだろう?」
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「だが、ここを出ると通じるようになるんだよな?」
「そうですね。ですから、殺してから出る必要がありますが」
Siは無言で腰元のホルスターには入っているPolice Pistolを弄んだ。殺すのは得意分野だ。
ふぅ、とSiの潟元でSumikaが息を吐くのを感じた。物騒な話だ。Siは今までに何度なく人を殺してきたが、彼女は良い顔をしない。
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