小説ラスクロ『アニーよ、銃を取れ』


 大柄な男が可憐な町娘を抱き締めて銃を突きつける。血と泥のペイントと雷鳥の羽飾り。恐るべきインディアンだ。ただでさえ屈強な男に人質を取られ、保安官も手出しができない。狙い澄ました銃声以外には。
 弾丸は狙い違わずインディアンが娘に突きつけていた銃を弾き飛ばした。すかさず町娘は逃げていく。人質を奪われたインディアンは予備の銃を構え、雷のような声で轟き叫んだ。誰だ、おれに逆らう者は誰だ、と。

 答えるように躍り込んできたのは騎馬。馬上の人物とインディアンは互いに距離を取ったまま、銃をだらりと手に下げた。タンブルウィードが風で転がっていき、風車が耳障りな音を立てて回った。ふたりとも、待っていた。開始の合図を。
 そして決闘用の鐘の音が鳴り響くとともに、ふたりは銃を構えた。しかし響いた銃声は一種類のものだけであり、それは何発も何発も連続して聞こえた。
 インディアンは倒れ、彼の銃は空中で何度も何度も撃ち抜かれてまるで踊るように地面に落ちた。

 西部開拓時代。それは男の時代であった。男たちは富と名声を求め、夕陽が落ちる西を目指した――だが西を目指したのは男たちだけではなかった。小さな身体に途方もない力を秘め、誰よりも輝いた女がいた。

アニーよ、銃を取れ
Annie Get Your Gun

「悪しきインディアンを退治した我らがアニー・オークレイ嬢に盛大な拍手を!」
 司会の男が叫ぶと、ワイルド・ウェスト・ショウの観客たちから一斉に拍手が送られた。拍手を一身に受けていた馬上の人物は、倒れたインディアンのそばで馬を降り、帽子を取った。左右でふたつ三つ編みにした栗色の髪が肩に零れ、その愛くるしい顔が露わになったことで、その人物が女であるということが遠目にもわかった。身の丈は150cm程度と小柄なうえに細身で、騎馬には向かない大人しいワンピース姿だった。

 彼女は悪戯っぽい愛くるしい表情を浮かべ、倒れていたインディアンの手を取ると、引っ張って起きるのを手伝い、彼の顔の血糊と化粧を拭ってやった。そして彼と手を繋いだまま、恭しく礼をした。
 もう一度、盛大な拍手が鳴り響いた。



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登場人物 Characters


  • 《黒覇帝 ゴルディオーザ》
    • メレドゥスの若き王。〈黒覇帝〉。
  • 《アン・メイル》
    • メレドゥス王宮で働くのメイド。本名、アニー・アン・メイル・エイン。
  • 《アニー・オークレイ》
    • メレドゥスの召喚英雄。〈無料入場券〉。
  • 《ワイルド・ビル》
    • メレドゥスの召喚英雄。〈死に札〉。
  • 《夜露の神樹姫 ディアーネ》
    • オルバランのオルネア宮の管理人。
  • 《目覚めし黄金覇者 アルマイル》
    • オルバランの王女。〈黄金覇者〉。
  • 《ベル・スタア》
    • オルバランの召喚英雄。〈山賊女王〉。










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