アマランタインに種実無し/01/04 Wherefore Art Thou, Mercurio?-4
ビーチの鉄柵を越えた先にある階段を昇ったところにあるロッジの前で、Azaleaは深呼吸をした。
門の前では半裸の男が立っている。武器を構えているというわけではないが、堅気ではないということはいちおう夜の世界を生きてきたAzaleaには察知できた。たぶんこのロッジが、Mercurioを襲った男たちの隠れ家なのだろう。
Azaleaはゆっくりと、男に向けて歩み寄る。見張りらしく周囲を警戒していた男は、近づきつつある存在にすぐに気付き、不審な目を向けてくる。
Azaleaは男から三歩の位置で立ち止まると、目を見つめて言葉を紡ぐ。
「ここでとても面白い物を扱っていると聞いたのですが………」
それは久し振りに出した、男性の腹の下のほうを掴む声であった。
じろじろとAzaleaの胸だの足だのを見ていた男であったが、「やぁ、大歓迎だ」と急に笑顔になった。「良い取り引きをしてくれるんだろう? おれはBrianだ。中まで案内してやるよ」
Azaleaは笑顔を作って頷いた。自分が2年前、街路に立って商売をしていた頃と何も変わっていないことを感じ、頭を壁にぶつけたくなった。
ロッジの中では、Mercurioを襲った男たちであろう、屈強な男たちが酒を飲んだり、ポーカーに興じていた。Azaleaを見て、娼婦だと思ったのだろう、口笛を吹く。彼らの感覚は、あながち間違ってはいない。
「ボス、お客さんです」
と見張りの男が案内した先の部屋にいた男は、2年前までAzaleaが親しくしていたような、吸血鬼とは別の闇夜を生きている男そのもののように感じられた。
「やぁ、電話もしてないのに、可愛らしいお嬢さんがこんな小汚いところに来てくれるなんて嬉しいね」とボスと呼ばれた男は白い歯を見せて笑う。「さて、何をお望みかな?」
「あの、ここでAstroliteという爆弾を売っていると聞いたんですが……」
「へぇ?」
とボスの表情が笑顔から笑顔へ変わる。最初の笑顔は取り繕うような笑みであったが、あとの笑顔は見下すような侮蔑の笑みである。
「お嬢さん、Astroliteってのは液体爆薬でね……、知ってるかい? こいつがそれだ」とボスは机の上の瓶を叩く。「しかし偶然だな。Astroliteを買いに来たお客さんは今日でふたり目なんだよ。こいつはけっこう珍しいもんで、おれもそんなに持っているわけじゃあないんだが……、おかしいな、誰から聞いたんだろう。まさかタウンページで見たってわけじゃあないよな? お嬢さん……、ちょっとばかし確かめさせてもらおうか」
ちょっとばかし、というのが言葉通りの意味ではないということは、男たちが銃やバットを構えたことからも解った。
Azaleaは深呼吸をしてから、身体中の血液を腹の下の辺りに漲らせ、それを一気に解き放った。
「”Purge”」
部屋に居た2人の男たちが、Azaleaの血力にあてられて膝をつき、血を吐き出す。人間、嘔吐している間は動けないし、何も反応できないものだ。AzaleaはAstroliteの銘が入った袋を引っ掴んで、逃げ出そうとする。
だが入ってきたドアを抜けようとして、背中に熱いものを受ける。倒れる。
「この女、毒か何かを撒きやがった……、糞ッ!」
ボスは咳き込みながら、口についた血を拭い、倒れたAzaleaにさらに銃弾を撃ち込む。Azaleaの身体がびくびくと跳ねる。
「糞、糞、あのMercurioとかいう男の仲間か? 畜生、殺しても飽き足りねぇ………」
そんなふうに悪態を吐いていたボスの言葉が止まったののは、背中に銃弾を何発も受けたはずのAzaleaが立ち上がったからだろう。
あまつさえ、Azaleaはボスと隣に居た男に両手を人差し指だけ伸ばした形で構えた。まるで拳銃を模すように。
「"Blood Strike”」
Azaleaの指先から、銃弾のように血の塊が射出された。
ただの血の塊と侮るなかれ、吸血鬼の血力で凝縮、加速された弾丸は鉛のそれと変わらぬ威力を持っている。血の弾丸を受け、ボスと近くにいた男は武器を取り落とす。
男たちが怯んだ隙に、Azaleaは脱兎の如く部屋を逃げ出す。
「痛い………」
男たちには、きっとAzaleaのことが化け物の如く映っただろう。いや、多少現実的なら、Azaleaが用心深く薄い防弾着を服の下に着ていた上、デリンジャーのような小型拳銃を隠し持っていたと思ったかもしれない。
どちらにせよ、Azaleaには彼らの目の前で見せたような血力の御技をもう一度見せるような余裕はなかった。撃たれた傷は吸血鬼の力で徐々に修復しているとはいえ、血をだいぶん失ってしまった。血力を発揮させるためにも、血が必要なのだ。おかげでいまは、頭が痛い。
(どうにか逃げないと………)
扉を閉めて時間を稼いだものの、一瞬でしかない。ロッジの中のほかの男たちも動き始めただろう。
「"Auspex”」
逃げるルートを確保するため、Azaleaは残り少ない血の力を振り絞って、血を眼に巡らせた。
Azaleaが逃げ込んだのは、床に接したところにある換気口だった。
息を潜め、男たちが通り過ぎるのを待つ。男たちは、Azaleaが外に逃げたものと思ったのだろう。しばらくうろうろと徘徊していたが、やがて諦めて戻っていく。
ほっと安堵の息を吐く。頭はふらふらするが、死ぬほどではない。吸血鬼となったAzaleaは、この程度では死なない。死ねないのだ。
Azaleaは潜り込んだ換気口の中で、財布を見つけた。中を見ると、Mercurioの身分証がある。どうやらここは、ロッジの男たちの物置のように使われている場所らしい。Mercurioから奪い取った財布を放り込んでおいたのだろう。
男たちの気配が静かになってから、AzaleaはAstroliteとMercurioの財布を携えて、そっとロッジを出た。ビーチの夜風は寒いほどである。
Azaleaは己の腕を見た。血の気がない、しかし撃たれたはずなのに傷一つない真っ白な肌だ。
血力を人に向けて使ったのは、今日が初めてというわけではない。吸血鬼になって間もない頃、意識をせずにAzaleaはこの力を使ってしまった。
だが人を傷つけようという意志を持って力を使ったのは初めてだ。自分は化け物になったのだ、と血の気のない己の手を見て実感した。
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門の前では半裸の男が立っている。武器を構えているというわけではないが、堅気ではないということはいちおう夜の世界を生きてきたAzaleaには察知できた。たぶんこのロッジが、Mercurioを襲った男たちの隠れ家なのだろう。
Azaleaはゆっくりと、男に向けて歩み寄る。見張りらしく周囲を警戒していた男は、近づきつつある存在にすぐに気付き、不審な目を向けてくる。
Azaleaは男から三歩の位置で立ち止まると、目を見つめて言葉を紡ぐ。
「ここでとても面白い物を扱っていると聞いたのですが………」
それは久し振りに出した、男性の腹の下のほうを掴む声であった。
Tutorial: 選択肢
会話は相手から行われることもあるし、PCがUseキーを押すことで行うこともある。会話は自動的に送られ、Spaceキーで先送りにすることもできる。また左クリックを押すとウィンドウが一時的に消える。
会話中、選択肢が表示されることがある。数字キーで選択肢を決定する。
選択肢の中には特殊な色や字体で書かれているものがある。その選択肢は対応するFeatsやDisciplinesが一定以上の場合のみに現われる特殊な選択肢である。
青色は説得であり、PersuasionのFeatsを要する。
緑色は脅迫であり、IntimidationのFeatsを要する
桃色で筆記隊の選択肢は誘惑することを表し、SeductionのFeatsを要する。
赤色はDescriptionsによる支配で、DominationやDomentationのDisciplnesを要する。なお、ドットが示されている場合はそれだけの血を要する。
じろじろとAzaleaの胸だの足だのを見ていた男であったが、「やぁ、大歓迎だ」と急に笑顔になった。「良い取り引きをしてくれるんだろう? おれはBrianだ。中まで案内してやるよ」
Azaleaは笑顔を作って頷いた。自分が2年前、街路に立って商売をしていた頃と何も変わっていないことを感じ、頭を壁にぶつけたくなった。
ロッジの中では、Mercurioを襲った男たちであろう、屈強な男たちが酒を飲んだり、ポーカーに興じていた。Azaleaを見て、娼婦だと思ったのだろう、口笛を吹く。彼らの感覚は、あながち間違ってはいない。
「ボス、お客さんです」
と見張りの男が案内した先の部屋にいた男は、2年前までAzaleaが親しくしていたような、吸血鬼とは別の闇夜を生きている男そのもののように感じられた。
「やぁ、電話もしてないのに、可愛らしいお嬢さんがこんな小汚いところに来てくれるなんて嬉しいね」とボスと呼ばれた男は白い歯を見せて笑う。「さて、何をお望みかな?」
「あの、ここでAstroliteという爆弾を売っていると聞いたんですが……」
「へぇ?」
とボスの表情が笑顔から笑顔へ変わる。最初の笑顔は取り繕うような笑みであったが、あとの笑顔は見下すような侮蔑の笑みである。
「お嬢さん、Astroliteってのは液体爆薬でね……、知ってるかい? こいつがそれだ」とボスは机の上の瓶を叩く。「しかし偶然だな。Astroliteを買いに来たお客さんは今日でふたり目なんだよ。こいつはけっこう珍しいもんで、おれもそんなに持っているわけじゃあないんだが……、おかしいな、誰から聞いたんだろう。まさかタウンページで見たってわけじゃあないよな? お嬢さん……、ちょっとばかし確かめさせてもらおうか」
ちょっとばかし、というのが言葉通りの意味ではないということは、男たちが銃やバットを構えたことからも解った。
Azaleaは深呼吸をしてから、身体中の血液を腹の下の辺りに漲らせ、それを一気に解き放った。
「”Purge”」
Discipline: Purge
能動型のDiscipline。
ThaumaturgyのLv2。対象は周囲。
周囲のNPCの内臓に働きかけ、血液を嘔吐させ、ダメージを与えた上に動きを止める。
部屋に居た2人の男たちが、Azaleaの血力にあてられて膝をつき、血を吐き出す。人間、嘔吐している間は動けないし、何も反応できないものだ。AzaleaはAstroliteの銘が入った袋を引っ掴んで、逃げ出そうとする。
Retrieved: Astrolite
だが入ってきたドアを抜けようとして、背中に熱いものを受ける。倒れる。
「この女、毒か何かを撒きやがった……、糞ッ!」
ボスは咳き込みながら、口についた血を拭い、倒れたAzaleaにさらに銃弾を撃ち込む。Azaleaの身体がびくびくと跳ねる。
「糞、糞、あのMercurioとかいう男の仲間か? 畜生、殺しても飽き足りねぇ………」
そんなふうに悪態を吐いていたボスの言葉が止まったののは、背中に銃弾を何発も受けたはずのAzaleaが立ち上がったからだろう。
あまつさえ、Azaleaはボスと隣に居た男に両手を人差し指だけ伸ばした形で構えた。まるで拳銃を模すように。
「"Blood Strike”」
Azaleaの指先から、銃弾のように血の塊が射出された。
Discipline: Blood Strike
能動型のDiscipline。
ThaumaturgyのLv1。対象は単体。
血液弾を射出し、対象を貫く。対象が生存していれば、その血液の一部を吸収する。
ただの血の塊と侮るなかれ、吸血鬼の血力で凝縮、加速された弾丸は鉛のそれと変わらぬ威力を持っている。血の弾丸を受け、ボスと近くにいた男は武器を取り落とす。
男たちが怯んだ隙に、Azaleaは脱兎の如く部屋を逃げ出す。
「痛い………」
男たちには、きっとAzaleaのことが化け物の如く映っただろう。いや、多少現実的なら、Azaleaが用心深く薄い防弾着を服の下に着ていた上、デリンジャーのような小型拳銃を隠し持っていたと思ったかもしれない。
どちらにせよ、Azaleaには彼らの目の前で見せたような血力の御技をもう一度見せるような余裕はなかった。撃たれた傷は吸血鬼の力で徐々に修復しているとはいえ、血をだいぶん失ってしまった。血力を発揮させるためにも、血が必要なのだ。おかげでいまは、頭が痛い。
Tutorial: Health
PCの体力は画面左側のバーで表現される。ダメージを受け、バーが空になると死亡する。
時間経過でバーは自動的に回復する。
(どうにか逃げないと………)
扉を閉めて時間を稼いだものの、一瞬でしかない。ロッジの中のほかの男たちも動き始めただろう。
「"Auspex”」
逃げるルートを確保するため、Azaleaは残り少ない血の力を振り絞って、血を眼に巡らせた。
Tutorial: Auspex
受動型のDiscipline。
レベルによって硬化時間とボーナス値値が変化する。対象は自分自身。
WitsやPerceptionにボーナスを得る。また壁越しに生物の存在を感知できるようになる。
Azaleaが逃げ込んだのは、床に接したところにある換気口だった。
息を潜め、男たちが通り過ぎるのを待つ。男たちは、Azaleaが外に逃げたものと思ったのだろう。しばらくうろうろと徘徊していたが、やがて諦めて戻っていく。
ほっと安堵の息を吐く。頭はふらふらするが、死ぬほどではない。吸血鬼となったAzaleaは、この程度では死なない。死ねないのだ。
Azaleaは潜り込んだ換気口の中で、財布を見つけた。中を見ると、Mercurioの身分証がある。どうやらここは、ロッジの男たちの物置のように使われている場所らしい。Mercurioから奪い取った財布を放り込んでおいたのだろう。
Retrieved: $250
男たちの気配が静かになってから、AzaleaはAstroliteとMercurioの財布を携えて、そっとロッジを出た。ビーチの夜風は寒いほどである。
Azaleaは己の腕を見た。血の気がない、しかし撃たれたはずなのに傷一つない真っ白な肌だ。
血力を人に向けて使ったのは、今日が初めてというわけではない。吸血鬼になって間もない頃、意識をせずにAzaleaはこの力を使ってしまった。
だが人を傷つけようという意志を持って力を使ったのは初めてだ。自分は化け物になったのだ、と血の気のない己の手を見て実感した。
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