アマランタインに種実無し/01/03 Wherefore Art Thou, Mercurio?-3
「あ、あんたが吸血鬼だってことは誰にも言わねぇよ。ただちょっと話してみたかっただけなんだ……」
病院の手前、Azaleaに声をかけてきた男は、殆ど怯えた様子になって言った。Azaleaの威圧で、完全に萎縮している。
「どうして判った?」
とAzaleaは周囲にほかの人間の気配がないことを確認してから問う。
「あんたの牙がちらっと見えたし……、それに、おれもあんたと似たようなもんだからな。勘が働いたのさ。おれはKnox Harringtonってんだ」
「似たようなもの? 吸血鬼ってこと………?」
AzaleaはKnoxと名乗った男の頭から爪先までを見渡す。どう見ても冴えない、ただの人間だ。Downtownで相対したPrinceやほかの吸血鬼たちのような、肌が粟立つほどの威圧感は微塵にも感じられない。
「いや、Ghoulだよ。2ヶ月前におれの目の前に現われた吸血鬼が、おれに血を飲ませてくれたんだ。吸血鬼の血をある程度飲んだ人間は、少しだけ吸血鬼の力を得られて、治癒能力が早まったりするんだ。そういうやつのことを、Ghoulっていうのさ」
成る程、とAzaleaは納得した。もしかするとMercurioもGhoulなのかもしれない。
KnoxはAzaleaのことをどうこうするつもりはないようだった。というよりも、彼は血族たちを心の底から畏れ、崇めているようで、Azaleaにも本当に好奇心だけで話しかけてきたらしい。
彼のことは放っておいて、Azaleaは病院に入ったが、院内はやけに混雑していた。
「あの……」
「整理券を取ってお待ちください」
と受付の看護師の様子はにべもない。大人しく整理券を取ったが、このままではどれだけ待たされるかわからない。Mercurioが騙し取られたというものも取り返さなくてはいけないのだ。
ごめんなさい、と呟きながら、看護師が余所見をした隙に受付を通り抜ける。適当に話を作って鎮痛剤でも貰おうかと、適当な扉を開けたAzaleaだったが、部屋の中を見て仰天した。
「お医者さまを………」
お医者さまを呼んで、と死にそうな声で呟く女の姿があった。手術台に寝かされ、しかしほかには医者どころか看護師もいない。どうやら本当に人手不足らしい。
女は口から血を吐き、息も絶え絶えといった様子だ。怪我なのか病気なのか判らないが、相当に酷いのは素人のAzaleaでも解る。
Azaleaは慌てて部屋を飛び出し、隣の手術室に駆け込む。幸いなことに、医者がいた。不幸なことに、手術中ではあったが。
「失礼、お嬢さん。現在手術中だ。部外者は立ち入らないように」と医者は施術の手を止めずに言う。
「あの、隣の部屋で女性が血を吐いていて……、死にそうなんです」
「そうかい。いまはぼく以外に手術ができる医者がいないんだ。今日はいつもの2倍近い手術待ちの患者がいて、忙しい。可能な限り早く診られるようにはするが、いまは手が離せない。きみ、友だちなら彼女についていてやってくれ」
手が離せないというのは本当のようで、Azaleaは大人しく引き下がり、違う部屋を探していく。だがどの部屋にも人がいない。誰も彼もが出払ってしまっているらしい。深夜だというせいもあるだろう。
最後にいちばん奥の突き当たりの部屋のドアに手をかけると、鍵がかかっていた。
(誰か人がいるかも………)
何の部屋かは判らないが、いまは躊躇してはいられない。Azaleaは錠開けを行うためにツールを取り出し、鍵に挑む。
(開かない………)
十秒後、扉の前でAzaleaは溜め息を吐いた。だいたい、こんなこと、やったことがないのだ。法に触れぬように生きてきたというわけではないが、盗みや殺しなどは全く手をつけてはこなかったのである。
だがいまはもう、いままでのAzaleaではない。やらなければいけない状況で、そしてそれを達成するための力がある。
Azaleaは吸血鬼の力、Disciplineを解放することにした。
「”Blood Buff”」
これまで取り込んできた血を全身に漲らせる。僅かに肌に赤味が差し、身体が軽くなる。感覚が鋭くなり、鍵の構造も手に取るように解った。手早く錠を解除する。
部屋の中に入ると、期待していた人の姿はなかった。だが代わりに、机の上にモルヒネの瓶があった。Mercurioのために必要なものだ。
「ごめんなさい」
小さく謝罪の言葉を呟いてから、Azaleaは瓶を懐に仕舞った。
結局医者も看護師も見付からぬまま、女性のいる部屋に戻る。
「もう駄目……」
女性はもう死にそうだった。どうしようもない。
否、Azaleaにはできることがある。最初から、そのことには気付いていた。だが、迷っていた。
「おばあちゃんを呼んで………。最後に、おばあちゃんに会いたい………」
Azaleaを決断させたのは、女のその一言だった。最後に、大好きだった人に会いたい。その言葉には心の奥底から共感できたのだ。
ドアを閉めて鍵を掛けてから、Azaleaは己の腕を切り裂いた。まったくといっていいほどに血の気のない肌の色であったが、やはり皮一枚下には少ないながらも血が流れていた。
そしてその血の溢れる手を、女性の血の気の引いた唇に持っていく。Knoxの言葉が正しいならば、吸血鬼の血を受けた人間はGhoulとなって、高い回復力を得るはずだ。
予想通り、血を含んだ女性の唇にだんだんと生気の色が戻ってきた。血は止まり、呼吸が穏やかになる。閉じていた瞼が開き、ぱちぱちと瞬く。
「あれ、わたし……、身体が………」女性は己の手や胸にこびりついた血を確かめたのち、Azaleaのことをしげしげと眺めた。「あなた、何者……?」
「あの……、えっと、ただの看護婦です」
Azaleaは己の腕を隠して言う。吸血鬼の力で既に血は止まっていたが、しかし明らかに不審に見えるだろう。女は猜疑の目で見ている。
「わたし、あなたの腕にキスして、それで……」
そこまで言って、女性はばたりと倒れてしまった。
慌てて様子を確かめると、すやすやと穏やかな寝息を立てている。先ほどよりも肌には生気が戻り、大丈夫そうだ。言動を見ていても、自我を失うようなことはなかった。Ghoulとはいっても、たぶん一時的なものなのだろう。完全に死を体験し、吸血鬼と化してしまったAzaleaとは違って。
女性からそっと離れ、Azaleaは病院を出た。Mercurioのアパートに戻ってMorphine Bottleを手渡してから、Azaleaは駐車場を抜けた先のビーチへと向かった。
戻る
病院の手前、Azaleaに声をかけてきた男は、殆ど怯えた様子になって言った。Azaleaの威圧で、完全に萎縮している。
「どうして判った?」
とAzaleaは周囲にほかの人間の気配がないことを確認してから問う。
「あんたの牙がちらっと見えたし……、それに、おれもあんたと似たようなもんだからな。勘が働いたのさ。おれはKnox Harringtonってんだ」
「似たようなもの? 吸血鬼ってこと………?」
AzaleaはKnoxと名乗った男の頭から爪先までを見渡す。どう見ても冴えない、ただの人間だ。Downtownで相対したPrinceやほかの吸血鬼たちのような、肌が粟立つほどの威圧感は微塵にも感じられない。
「いや、Ghoulだよ。2ヶ月前におれの目の前に現われた吸血鬼が、おれに血を飲ませてくれたんだ。吸血鬼の血をある程度飲んだ人間は、少しだけ吸血鬼の力を得られて、治癒能力が早まったりするんだ。そういうやつのことを、Ghoulっていうのさ」
成る程、とAzaleaは納得した。もしかするとMercurioもGhoulなのかもしれない。
KnoxはAzaleaのことをどうこうするつもりはないようだった。というよりも、彼は血族たちを心の底から畏れ、崇めているようで、Azaleaにも本当に好奇心だけで話しかけてきたらしい。
彼のことは放っておいて、Azaleaは病院に入ったが、院内はやけに混雑していた。
「あの……」
「整理券を取ってお待ちください」
と受付の看護師の様子はにべもない。大人しく整理券を取ったが、このままではどれだけ待たされるかわからない。Mercurioが騙し取られたというものも取り返さなくてはいけないのだ。
ごめんなさい、と呟きながら、看護師が余所見をした隙に受付を通り抜ける。適当に話を作って鎮痛剤でも貰おうかと、適当な扉を開けたAzaleaだったが、部屋の中を見て仰天した。
「お医者さまを………」
お医者さまを呼んで、と死にそうな声で呟く女の姿があった。手術台に寝かされ、しかしほかには医者どころか看護師もいない。どうやら本当に人手不足らしい。
女は口から血を吐き、息も絶え絶えといった様子だ。怪我なのか病気なのか判らないが、相当に酷いのは素人のAzaleaでも解る。
Azaleaは慌てて部屋を飛び出し、隣の手術室に駆け込む。幸いなことに、医者がいた。不幸なことに、手術中ではあったが。
「失礼、お嬢さん。現在手術中だ。部外者は立ち入らないように」と医者は施術の手を止めずに言う。
「あの、隣の部屋で女性が血を吐いていて……、死にそうなんです」
「そうかい。いまはぼく以外に手術ができる医者がいないんだ。今日はいつもの2倍近い手術待ちの患者がいて、忙しい。可能な限り早く診られるようにはするが、いまは手が離せない。きみ、友だちなら彼女についていてやってくれ」
手が離せないというのは本当のようで、Azaleaは大人しく引き下がり、違う部屋を探していく。だがどの部屋にも人がいない。誰も彼もが出払ってしまっているらしい。深夜だというせいもあるだろう。
最後にいちばん奥の突き当たりの部屋のドアに手をかけると、鍵がかかっていた。
(誰か人がいるかも………)
何の部屋かは判らないが、いまは躊躇してはいられない。Azaleaは錠開けを行うためにツールを取り出し、鍵に挑む。
Tutorial: Lockpicking
鍵の掛かった扉の中には、Lockpickingで錠開けを行うことができるものもある。
Lockpickingを行うためには、鍵の掛かった扉に照準を合わせてアイコンが出てきたところでEキーを押す。
錠前の難易度よりもLockpickingのFeatの値が高ければ、鍵を開けることができる。
(開かない………)
十秒後、扉の前でAzaleaは溜め息を吐いた。だいたい、こんなこと、やったことがないのだ。法に触れぬように生きてきたというわけではないが、盗みや殺しなどは全く手をつけてはこなかったのである。
だがいまはもう、いままでのAzaleaではない。やらなければいけない状況で、そしてそれを達成するための力がある。
Azaleaは吸血鬼の力、Disciplineを解放することにした。
「”Blood Buff”」
Desciplines: Blood Buff
Effect Gained: Dexterity→Min. 5
Effect Gained: Stamina→Min. 5
Effect Gaindd: Strength→Min. 5
Tutorial: Discipline
吸血鬼が使う魔法の力。血力。血液を使用し、魔力を発現させる。
Feedingを行うことで貯まった血液の量は画面右側の血液バーで表示される。バーの下にあるアイコンが選択しているDisciplineを表す。マウスホイールや][キーによって選択できる。
右クリックで使用する。能動型と受動型があり、能動型は照準を対象に合わせなければ使用できない。受動型は自分自身に作用するものなのでいつでも使用できる。
なお、一部の強力なDisciplinesをMasqueradeの地域で使うと、Masqueradeの掟を破ったことになる。
Tutorial: Blood Buff
受動型のDiscipline。
すべてのClanで使用可能。対象は自分自身。
Dexterity、Stamina、Strengthが5未満の場合、5まで引き上げる。DexterityはLockpickingとSneakingに、StaminaはBashingに、StrengthはUnarmedとMeleeに影響するため、探索から戦闘まで、特に十分な経験を得ていない場合は幅広く有効に働く。
ほかのDisciplinesとは異なり、レベルを上げることはできない。
これまで取り込んできた血を全身に漲らせる。僅かに肌に赤味が差し、身体が軽くなる。感覚が鋭くなり、鍵の構造も手に取るように解った。手早く錠を解除する。
部屋の中に入ると、期待していた人の姿はなかった。だが代わりに、机の上にモルヒネの瓶があった。Mercurioのために必要なものだ。
「ごめんなさい」
小さく謝罪の言葉を呟いてから、Azaleaは瓶を懐に仕舞った。
Retrieved: Morphine Bottle x3
結局医者も看護師も見付からぬまま、女性のいる部屋に戻る。
「もう駄目……」
女性はもう死にそうだった。どうしようもない。
否、Azaleaにはできることがある。最初から、そのことには気付いていた。だが、迷っていた。
「おばあちゃんを呼んで………。最後に、おばあちゃんに会いたい………」
Azaleaを決断させたのは、女のその一言だった。最後に、大好きだった人に会いたい。その言葉には心の奥底から共感できたのだ。
ドアを閉めて鍵を掛けてから、Azaleaは己の腕を切り裂いた。まったくといっていいほどに血の気のない肌の色であったが、やはり皮一枚下には少ないながらも血が流れていた。
そしてその血の溢れる手を、女性の血の気の引いた唇に持っていく。Knoxの言葉が正しいならば、吸血鬼の血を受けた人間はGhoulとなって、高い回復力を得るはずだ。
Humanity Gained: +1
予想通り、血を含んだ女性の唇にだんだんと生気の色が戻ってきた。血は止まり、呼吸が穏やかになる。閉じていた瞼が開き、ぱちぱちと瞬く。
「あれ、わたし……、身体が………」女性は己の手や胸にこびりついた血を確かめたのち、Azaleaのことをしげしげと眺めた。「あなた、何者……?」
「あの……、えっと、ただの看護婦です」
Azaleaは己の腕を隠して言う。吸血鬼の力で既に血は止まっていたが、しかし明らかに不審に見えるだろう。女は猜疑の目で見ている。
「わたし、あなたの腕にキスして、それで……」
そこまで言って、女性はばたりと倒れてしまった。
慌てて様子を確かめると、すやすやと穏やかな寝息を立てている。先ほどよりも肌には生気が戻り、大丈夫そうだ。言動を見ていても、自我を失うようなことはなかった。Ghoulとはいっても、たぶん一時的なものなのだろう。完全に死を体験し、吸血鬼と化してしまったAzaleaとは違って。
女性からそっと離れ、Azaleaは病院を出た。Mercurioのアパートに戻ってMorphine Bottleを手渡してから、Azaleaは駐車場を抜けた先のビーチへと向かった。
Humanity Gained: +1
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