アメリカか死か/21/02 Take It Back! -2
「爪から折られた」
Ritaが新しい右腕を見ながら、ぽつりと呟いた。
「次に指で、それから腕を徐々に削がれた。もうその腕は無いから、痛みは無いはずなんだ。だけど………」
ゆっくりと持ち上げた腕は、Ritaの小柄な身体には不釣り合いなごつごつしい機械の腕だ。BOSの発掘品のひとつで、生体電流を読み取ることで、生身の腕と同じように動かせるというものだ。右目には布を眼帯代わりに巻いていて、もはや傷痕は見えない。
だが心は。
「だからもう、あいつを傷つけるのは止めてほしい」
Ritaが訴えていた相手は、彼女にCyber Armを取り付けていたDr. Liだ。既に死んだ、死ぬ前に一度作り直されていて、もう一度死んだ、もっと以前に何度も何度も死んでいた、Lynnという男に関しての嘆願だ。
Sarahはこの場に同席する必要が無いはずなのに、RitaとLiの治療と話し合いを見守っていた。
BOSはLynnのクローンを作っていた。Vault 121で行われていた計画、GM計画の技術を再利用して。
そしてそのクローンは、Lynnの記憶を持っていた。
「仕方が無かった。人間の、というか、生物の脳にとっては経験こそが重要だから」
とLiは説明したものだ。
Vault 121のGMが作ったクローン発生装置は、非常に特殊な構造をしていて、多くのブラックボックスが含まれていた。そのため、大部分をそのまま流用せざるを得なかったのだが、その中には人間でいえば胎内での成長に相当する部分が無かった。
「このままだと、生きるための経験というものを全く得ずに産まれてきてしまう。そうすると、おそらくは産まれてすぐに死んでしまうでしょう。
人間の経験というものは重要で、たとえば逆さ眼鏡というものをかけると、最初は逆さの視界が見えるけれど、そのうちに順応し、通常の視界を取り戻す。これは経験的に刺激を理解できるようになるからよ。そもそも人間の網膜に映る像は、最初から倒立している。だからこれくらいのことは当たり前のこと。これは呼吸だとか、単純な生命維持に関しても、そう。経験が無いと、できない。生きることも。母親の胎の中ならそれができるけど、Citadelにはそんな設備は無い。だから、経験を与えてやらないといけない」
新しく産まれたMaske Raiderには、経験、つまり記憶を移さなければいけなかった。だが記憶を選んで移すなどということはできない。だからすべてを移した。
そしてそのMasked Raiderは、暴走した。
結果的にはそれがRitaを救ったわけだ。
だがLynnは二度死んだ。それが悲しかった。
「どちらにせよ、もう彼を再現することはできない。Vault 121から持ち込んだ装置は、彼に壊されてしまったから。彼の遺伝子情報や記憶情報も、もう無い。だから、Masked Raiderは、もう現れない」
「そう、良かった………」
良かった、と言ったRitaの顔は、己から望んであることにも関わらず、悲しげにしか見えなかった。
「Sarah」と病室に入ってきたElder Lyonsが声をかけてきた。「Pride隊に準備を。それとRothchildに、Liberty Primeの起動を準備するよう言ってくれ」
「Enclaveと戦うのか?」
Ritaが耳聡くこちらの会話を聞いていた。まだ目を覚まして二日と経っていないのに、随分と体調が良くなっているようだ。
Lyonsが頷く。「準備が出来次第、Jefferson記念館に攻撃を仕掛けるつもりだ」
「わたしも行く」
無茶な申し出だった。RitaはPower Armorの訓練を積んでいるわけでもなく、軍隊での訓練を受けているわけでもない。ただ銃の腕前があるだけだ。無謀だ。
にも関わらず、LyonsはRitaの同行を許可した。
「Sarah、彼女を守ってやってくれ」
Ritaとともに、Citadelの外に出る。そこには黒塗りのバイクが待ち構えていた。
「そのバイク……、Lynn用に新しく作ったものと、古いものの使えるパーツを合わせたものなんだって。Rothchildが作ってくれた。父さんがあなたの同行を許可したのは、たぶんこのバイクがあなたにしか使えないからだと思う」
「使えないって?」
と問いながらRitaはバイクに跨る。
「もともと、そういうふうに設定してあったんだって。あなたととLynnにしか使えないように。Enclaveに奪われても厄介だから。その設定が残ってる」
「設定変えればいいじゃん」
「バイクに人工知能を搭載しているらしいんだけど……、それが設定の変更を拒んでいるらしいの。詳しいことはRothchildに訊かないとわからないけど、簡単には変更できないって」
「わたしがハンドル握ってないと動かないの?」
「というより、あなた以外の命令を受け付けないってかんじかな。あなたが後部座席でも乗っていれば動くし、乗っていなくても音声認識である程度は動くらしいよ」
「成る程、じゃあ」とRitaはCyber Armの右腕でSarahの肩を叩いた。「Sarah、運転は任せた」
「なんで?」
「わたしはPower Armor着れないんだから、弾除けが前にいないと危ないでしょ」
そんな会話をしているうちに、Citadelのクレーンが動き始める。SarahはPride隊に指示を出し、Ritaに準備を急がせる。
「そういや、さっきElder Lyonsが言ってたLiberty Primeって何?」
といつものラフな服装ではない、Recon Armorを纏って戻ってきたRitaがバイクの後部座席に乗って訊いてきた。
「見ていればわかるよ」
クレーンに釣られて現れたのは、巨大な鋼鉄の巨人。
戦前戦略戦闘兵器、Liberty Prime。
「成る程ね。巨大ロボってわけだ。ジャパニメーションじゃないか」
とRitaが愉快そうに呟いた。エンジン始動。Sarahはバイクのアクセルを捻る。
Ritaが新しい右腕を見ながら、ぽつりと呟いた。
「次に指で、それから腕を徐々に削がれた。もうその腕は無いから、痛みは無いはずなんだ。だけど………」
ゆっくりと持ち上げた腕は、Ritaの小柄な身体には不釣り合いなごつごつしい機械の腕だ。BOSの発掘品のひとつで、生体電流を読み取ることで、生身の腕と同じように動かせるというものだ。右目には布を眼帯代わりに巻いていて、もはや傷痕は見えない。
だが心は。
Added: Cyber Arm
Added: Augenbandage
「だからもう、あいつを傷つけるのは止めてほしい」
Ritaが訴えていた相手は、彼女にCyber Armを取り付けていたDr. Liだ。既に死んだ、死ぬ前に一度作り直されていて、もう一度死んだ、もっと以前に何度も何度も死んでいた、Lynnという男に関しての嘆願だ。
Sarahはこの場に同席する必要が無いはずなのに、RitaとLiの治療と話し合いを見守っていた。
BOSはLynnのクローンを作っていた。Vault 121で行われていた計画、GM計画の技術を再利用して。
そしてそのクローンは、Lynnの記憶を持っていた。
「仕方が無かった。人間の、というか、生物の脳にとっては経験こそが重要だから」
とLiは説明したものだ。
Vault 121のGMが作ったクローン発生装置は、非常に特殊な構造をしていて、多くのブラックボックスが含まれていた。そのため、大部分をそのまま流用せざるを得なかったのだが、その中には人間でいえば胎内での成長に相当する部分が無かった。
「このままだと、生きるための経験というものを全く得ずに産まれてきてしまう。そうすると、おそらくは産まれてすぐに死んでしまうでしょう。
人間の経験というものは重要で、たとえば逆さ眼鏡というものをかけると、最初は逆さの視界が見えるけれど、そのうちに順応し、通常の視界を取り戻す。これは経験的に刺激を理解できるようになるからよ。そもそも人間の網膜に映る像は、最初から倒立している。だからこれくらいのことは当たり前のこと。これは呼吸だとか、単純な生命維持に関しても、そう。経験が無いと、できない。生きることも。母親の胎の中ならそれができるけど、Citadelにはそんな設備は無い。だから、経験を与えてやらないといけない」
新しく産まれたMaske Raiderには、経験、つまり記憶を移さなければいけなかった。だが記憶を選んで移すなどということはできない。だからすべてを移した。
そしてそのMasked Raiderは、暴走した。
結果的にはそれがRitaを救ったわけだ。
だがLynnは二度死んだ。それが悲しかった。
「どちらにせよ、もう彼を再現することはできない。Vault 121から持ち込んだ装置は、彼に壊されてしまったから。彼の遺伝子情報や記憶情報も、もう無い。だから、Masked Raiderは、もう現れない」
「そう、良かった………」
良かった、と言ったRitaの顔は、己から望んであることにも関わらず、悲しげにしか見えなかった。
「Sarah」と病室に入ってきたElder Lyonsが声をかけてきた。「Pride隊に準備を。それとRothchildに、Liberty Primeの起動を準備するよう言ってくれ」
「Enclaveと戦うのか?」
Ritaが耳聡くこちらの会話を聞いていた。まだ目を覚まして二日と経っていないのに、随分と体調が良くなっているようだ。
Lyonsが頷く。「準備が出来次第、Jefferson記念館に攻撃を仕掛けるつもりだ」
「わたしも行く」
無茶な申し出だった。RitaはPower Armorの訓練を積んでいるわけでもなく、軍隊での訓練を受けているわけでもない。ただ銃の腕前があるだけだ。無謀だ。
にも関わらず、LyonsはRitaの同行を許可した。
「Sarah、彼女を守ってやってくれ」
Added: Recon Armor
Ritaとともに、Citadelの外に出る。そこには黒塗りのバイクが待ち構えていた。
「そのバイク……、Lynn用に新しく作ったものと、古いものの使えるパーツを合わせたものなんだって。Rothchildが作ってくれた。父さんがあなたの同行を許可したのは、たぶんこのバイクがあなたにしか使えないからだと思う」
「使えないって?」
と問いながらRitaはバイクに跨る。
「もともと、そういうふうに設定してあったんだって。あなたととLynnにしか使えないように。Enclaveに奪われても厄介だから。その設定が残ってる」
「設定変えればいいじゃん」
「バイクに人工知能を搭載しているらしいんだけど……、それが設定の変更を拒んでいるらしいの。詳しいことはRothchildに訊かないとわからないけど、簡単には変更できないって」
「わたしがハンドル握ってないと動かないの?」
「というより、あなた以外の命令を受け付けないってかんじかな。あなたが後部座席でも乗っていれば動くし、乗っていなくても音声認識である程度は動くらしいよ」
「成る程、じゃあ」とRitaはCyber Armの右腕でSarahの肩を叩いた。「Sarah、運転は任せた」
「なんで?」
「わたしはPower Armor着れないんだから、弾除けが前にいないと危ないでしょ」
そんな会話をしているうちに、Citadelのクレーンが動き始める。SarahはPride隊に指示を出し、Ritaに準備を急がせる。
「そういや、さっきElder Lyonsが言ってたLiberty Primeって何?」
といつものラフな服装ではない、Recon Armorを纏って戻ってきたRitaがバイクの後部座席に乗って訊いてきた。
「見ていればわかるよ」
クレーンに釣られて現れたのは、巨大な鋼鉄の巨人。
戦前戦略戦闘兵器、Liberty Prime。
「成る程ね。巨大ロボってわけだ。ジャパニメーションじゃないか」
とRitaが愉快そうに呟いた。エンジン始動。Sarahはバイクのアクセルを捻る。
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