68日目

カルラディアで覇権を争っている国々のうち、ベージャー王国を除いたカーギット・ハン国、ノルド王国、ロドック王国の3国とスワディア王国は戦争状態にある。すべての国々と国境を共有しているスワディアは、戦がしたければどこでもできた。

ハルラウス王に臣下の契りを交わしたウルは、スワディアの敵と戦った。ロドック王国ネアルカ卿の94名の軍、カーギット国トゥルグ卿の288名の軍、トゥルグ卿の160名の軍。ウルの軍は数で下回っていたが、野戦であり騎兵の数の差でウルは戦況を覆した。

ある貴族の婦人だという女性に声をかけられたのは、戦場で得た戦利品を街で売り飛ばしているときだった。
スワディア国、デスピン卿に決闘を挑んで欲しい。ネルダと名乗った婦人はそう申し出てきた。
「あなたの強さは知っています、ウルギッド。どうかお願いします。あの男はわたしに関して根も葉もない噂を流して、夫の家名に泥を塗ろうとしているのです。あなたもわたしの噂を聞いたことがあるかもしれません。ですが、それはすべてデスピン卿の作り話なのです」
「失礼ながらご婦人」ウルは貴族の夫人だと知って、できるだけ丁重な言葉遣いを心がけた。「決闘を挑んでどうなるというのですか」
「デスピン卿は名だたる剣の使い手です。剣術にかけては相当なプライドを持っています。失礼ながら、あなたは平民の出。そのあなたに剣で負ければ、目立ったことは仕出かさなくなるでしょう」

(名だたる剣の使い手、ね……)
ウルは早速デスピン卿の領地であるトスダールの街へと向かった。決闘を挑む。デスピン卿は承諾し、トスダールの闘技場で決闘が行われた。
ウルは勝った。

「ウルどの」トスダールから戻る道中、古参のマルニドが馬上で声をかけてくる。「そろそろ聞かせてくれませんか。なぜスワディアに加担したのか。それにあのネルダ婦人の頼みを聞く気になったのかを」
「おれにはおまえがここまでついてきたことのほうが驚きだよ」とウルは応じた。「てっきりスワディアの軍に参加した時点で辞めると思ってた」
「ウルどのは放っておくと何を仕出かすかわかりませんからね。それで、なんでこんなことを?
「さっきのデスピン卿を見たか? あれでスワディアでは剣の使い手で通っているらしい。つまり、スワディアというのはそういう国だということだ」
「どういう意味ですか?」マルニドが眉を顰める。
ハルラウス王が纏めているからだ。駄目だな。あいつは王になるべきじゃない。一代限りだ。次へ続かない。だったら違うやつが纏めたほうが良い」
厭な予感がするんですが」
「どうせ戦争中なんだ。今のままスワディアが覇権を握られると困る。こんな国、ごめんだ。どっちが勝ったほうが良いのか考えてスワディアくんだりまで来たが、決心が決まった」

ベージャー王国領、海岸の街リヴァチェグ。そこにイソラは今身を寄せているという。
ウルは馬を返す。

リヴァチェグに到着したのは夜更けだった。
イソラをどうやって探したものかと考えていたウルだったが、悩む必要はなかった。彼女はリヴァチェクの街門のすぐ裏手に座り込んでいた。

「ウルギッド、ウルギッド!」ウルを見るなり、イソラは駆けてくる。「ウルギッド!」
ウルは馬を下りた。馬に乗ったまま彼女と会話をするのは、あまりにも可哀想だという気がした。
わたしとともに戦う決意をしてくれたのか? わたしとともに、ハルラウスを駆逐し、やつの血塗られた手から玉座を取り戻す用意ができたのか?」
彼女の縋る手は、雪降る夜に外に出ていたためか、ひどく冷たかった。
「そうだよ」ウルは彼女の手を両手で包み込んで頷いた。「あんたを守ることを誓う」

軽い言葉だったが、それは確かに忠誠の誓いだった。

「では行こう」イソラはそう言って笑った。「ともにあの玉座を取り戻すぞ」


0 コメント :

コメントを投稿

 
Toggle Footer