Ritaは眉根を寄せて、唇を捻じ曲げた。露骨に嫌そうな顔である。
 可愛らしいともいえる顔立ちの少女なだけに、ここまで悪感情を露呈されると、Lynnの心は痛かった。
「いや……、きみがG.E.C.K.を探すなら、まず間違いなく最初はVault 101だろうと思ってね。GECKそのものは無かったとしても、ほかのVaultの記録が残っている可能性もあるだろうから。それで、ここまでは先回りしてたんだよ。きみがCitadelを出てくるまで、けっこう時間があったし」
 喋りかけてみたものの、Ritaの反応は皆無に近かった。

 沈黙が訪れてから、彼女はポシェットをMoiraの店のカウンターに置いて、中を探る。何かを引きずり出して、どうするのかと思えば、それをLynnに向かって投げつけてきた。
 幸い、投げつけられた物体の速度は遅かった。キャッチしてみれば、それは掌で握れる程度の大きさの縫いぐるみ、ココペリの人形だった。Rivet Cityで、意識を失ったRitaが握って離さなかったものだ。
「返す。あんたのだろ。Bryanから聞いた。だからもうついてくるな」
 そう言って、RitaはMoiraの店を出ていこうとする。
「いやちょっと待って」
「触るな」
 伸ばした手を、Ritaに払いのけられる。横で見ていたMoiraが愉快そうに口笛を吹いた。
「おまえとわたしは関係ない」
「あのバイクは、おれのなんだけど」
「借りてく。終わったらBOSにでも返す」
「流石に、そりゃあ自分勝手過ぎる」
「知るか」
「Vault 101に入りたいんじゃないの?」
 切り札を切れば、振り返ったRitaの頬が引き攣っていた。

「おまえはそれで、駆け引きをしているつもりなのか」
「いや、そういうわけじゃないけど……」Lynnは溜め息を吐いてから問うことにした。「あのさ、なんでそこまでおれのことを嫌うの? いや、嫌ってる理由はわかるけど、極端すぎやしないか? まだ碌々話し合ってもいないのに」
「痴話喧嘩だったら余所でやってね」というMoiraの茶々は無視された。
「話し合う気はない」そう言って、Ritaは矛先を変えた。「Moira、Vault 101のパスワードは知ってるか?」
「Amataだって。A, M, A, T, A。Amata」と、Moiraはあっさり答えてしまった。「最近ラジオ波で通信してたから、Megatonの人はみんな知ってるよ」
「通信?」
「んー、なんか、緊急の事態だから、誰か助けてくれ、みたいな」
「ありがと。代金はカウンターに置いたから。じゃあ」
 と言って、Ritaはさっさと出て行ってしまう。


 Lynnは慌てて外に出ようとするのだが、Ritaの手で閉じられたドアが開かない。向こうから抑えているのか。いや、これは違う。
ドアにつっかえ棒でも噛まされたかな」とMoiraが呑気な口調で言う。「止めてほしいよね、こういうの、ほんと、ひとの店なんだからさ」

 Lynnは急いでMoiraの店の2階まで上がる。窓を開けば、既にMegatonの入り口のほうから遠ざかってゆくバイクのエンジン音が聞こえていた。
 Lynnは跳躍した。変身。黒いスーツを纏って地に降り立つ。最近、どうも変身が軽くなっているような気がするが、気にしてはいられない。Megatonの住人に見られることも気にせず、Lynnは全力で走った。Vault101の位置は、Lynnもラジオ波に乗せられていた緊急通信は聞いていたから知っていた。


 Vault 101の入り口、簡素な木の扉の前に改造された青のバイクが止まっていた。まだエンジンは温かい。が、木扉の奥から重い物が動く音が聞こえ始めていた。Vaultの鉄扉だ


 木扉を殆ど体当たりするように開ければ、Vault内部に入っていくRitaの姿があった。RitaもLynnに気づいたようで、中へ走ってく。操作パネルでドアを閉めるつもりだ。

「待………!」
 待て、言ったところでRitaが待ってくれるはずもなかった。だからその言葉を吐き出すぶんだけ、Lynnは走った。
 歯車の形をした扉が完全に閉じる。


 Ritaが舌打ちした。LynnはVault 101の中に入っていた。ぎりぎり、鉛扉が閉まる直前で間に合ったのだ。
 己の身体を見やる。室内に入ったからか、それとも走る必要がなくなったためか、既に変身が解けていた。
 と、目に入ったものは己の身体だけではない。Vautの床。整備された床。その上の血。血の元となる死体。 



「死体が……!」
「Jim Wilkinsだな」とRitaが鼻を鳴らして言った。もうひとつ、奥の通路にいる死体を指さす。「あっちは、Steve Armstrong」
「もしかして、知り合い?」
「おまえはVaultに住んでてほかの住人を知らなかったのか? 顔見りゃ、わかる」
「Vault 101は、死体が転がっててもおかしくない程度に危険なところなのか?」
「Wastelandに比べりゃましだ」Ritaは嫌そうに髪を掻く。「人の家に勝手に入ってきて、文句だけは言うのか」


 そんなふうに言い合っていると、どたどたと足音が聞こえてきた。
「誰だ!? 手を挙げろ! どうやってここまで入って来たのか知らないが……」
 扉を開けて現れた人物は、警備の防護服とヘルメットを纏った、精悍な顔をした男であった。
Officer Gomez………」とRitaは手を挙げた。両手ではなく、片手を。「久しぶり」
「きみは……」Gomezと呼ばれた男は、目を見開いてRitaを見つめた。「生きていたのか。外の埃で汚れてるせいか、最初はわからなかったな」


「どこも変わってないよ」
 Ritaはそう言って、笑った。
 それはLynnが初めて見た、Ritaの安堵の表情だった。

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