かくもあらねば/09/06
6
King演劇学校に戻ってThe KingにOld Moment Fortで聞いたことを報告する。演劇ステージの前の定位置にはThe Kingとサイボーグ犬のRexのほかにPacerという以前に入口で番をしていたが、そのひとりと一匹は無視することにした。
「ふむん、NCR兵士ね……」The Kingは報告を聞くと満足そうに頷いた。「Stripのほうに大使館と駐屯地ができてからは、彼らはあまりこちらには来なくなったんだが……、もし本当にこちらに頻繁に出入りしているようなら、何か理由があってのことなんだろうな。NCRがNew Vegasを乗っ取ろうとしているという噂は信じたくはなかったが、いまとなってはそうも言ってはいられないようだな」
そう言ってThe Kingは次なる仕事、NCRの動向の調査を与えてきた。
「あ、そうそう、モヒカン女はどうだった?」とTheKingは付け添えるように言った。
「刺されるかと思ったよ」Siは肩を竦める。
「たまんねぇな」The Kingは手を叩いて笑った。「ついでに彼女にも話を聞いてきてくれ。Followersの連中は意外なことに詳しい。Julieは頼りになる。ただあんまり喋りすぎないでくれよ。彼女はひとりでなんでもやろうとするタイプだからな」
どうもThe KingはJulieという女性に対して悪い感情は持っていないようだ、とSumikaは思った。Julieについて話すときに彼は嬉しそうだ。
わからないでもない。Julieは見た目は奇異だが、素敵な女性だ。無償で身を投げ出して人を助けようとしている。Aniseも彼女のような人間だった、というと、きっとSiはあんなモヒカン女と一緒にするなと怒るかもしれない。
「きみがThe Kingsのメンバーだとは知らなかったな」と演技学校の前で待っていたArcadeがさして意外そうでもなく言った。「てっきりNCRだと思っていたんだけど」
「どっちでも良いだろう。それともNCRじゃないと不安かい?」
「そういうわけじゃないよ。ぼくはNCRじゃなくて、きみについてきたわけだしね」
(ち、近いなぁ………)
なぜか無駄にArcadeはSiに対して近い。そんなに近寄る必要がないだろうという距離をとる。しかもよく触ってくる。精一杯の抵抗としてSumikaは威嚇するが、Arcadeは気付かないし、Siは何を変なことをやっているのだという視線で見てくるので悲しくなる。
(SilasもSilasだよ………)
そう、彼は基本的に鈍いのだ。わかりきっていることだ。わかりきっていることだけに腹立だしい。
Old Moment Fortに戻ってSiとSumikaはJulieを探した。ちなみにArcadeはいまのうちに研究材料の荷造りをするということで、自分のテントのほうへと行ってしまった。
Julieはすぐに見つかった。モヒカンなので目立つ。彼女は患者の手当てをしているようだった。
Siは手を挙げたが、彼女はSiを見つけても冷めた目で見返してすぐに作業に戻った。
「Si、嫌われてるんじゃない?」
「嫌われるようなことは何もやっていない」
「何もやってないから嫌われたんじゃない?」Sumikaは意地悪く言ってみせる。
「なるほど」
なぜかSiは納得した様子を見せてJulieのほうへと歩いていく。なんとなくはらはらしてしまう。
「なにか用?」と患者の手に包帯を巻き終えてJulieがテントから出てくる。言動からはだいぶん嫌われているらしいことが見て取れる。「見ての通り、いま忙しいんだけど」
「薬を持ってきたんだけど」
「え?」Siの言葉を聞いたJulieが目を丸くする。「本当に? いくつ?」
Siは雑嚢からFixerを2つとRad-Awayを1つ取り出し、Julieに分け与えた。薬はどれも貴重品だったが、Sumikaは咎めなかった。Julieならきっとこれらの薬を良いことのために使ってくれるだろう。
「ありがとう。小さな投資でも、きっといつかFreesideを良くする一歩になると思う」Julieは薬を受け取り、じっとSilasの青い瞳を見つめる。「もしかして、なにか用?」
「それはさっきも訊かれた」とSiは肩を竦める。
「違い意味で訊いたの。だってあなたって、なんの見返りもなしにこういうことしそうなタイプじゃないもの」
Julieは馬鹿ではない。物で釣ろうというSiの考えにも気付いている。
もちろんSiが善意ではなく、Julieとの関係を良くして円滑に話を聞きだそうとしているのだといことはわかっていたが、それがとりわけ悪いこととは思わなかった。行為そのものが世のため人のためになるのだ。それに行動に従って心が移り変わっていくという場合もある。
Siはもったいぶるのをやめて言った。「最近のこの界隈の話が聞きたいだけだ」
「話、ね……」Julieは少し意外そうな表情に見えた。「ま、それくらいだったら。あの患者の治療が終わったら行くから、その辺で待ってて」
Julieに言われたとおりにテントの周りをぶらぶらしていると、やがて一仕事を終えたらしいJulieがやってきた。彼女は空いているテントの中にSiを招きいれ、サボテン茶を淹れてくれた。
FreesideにいるNCR兵について尋ねると、「ちょっとなら知り合いもいる。Elizabeth Kieran少佐とか……。わたしの友人で、貧しい人々のためにここから西にある小屋で物資を配っているの。知ってる?」
Siは首を振った。とはいえベガスにいるNCRについてはある程度記憶しているはずだ。
「そのNCR兵に関してなんだが、Freesideの人間を襲った可能性があるとThe Kingは考えている」
(言っちゃって良いのかな………)
Siの発言を聞いたSumikaは少し心配になった。The KingはJulieにはあまり多くを語らないでほしいと言っていた。大丈夫だろうか。
Julieは悩ましげな表情になる。
「The Kingsが最近何か考えていると思ったら、そういうことだったの……。忙しくてそこまで知らなかった。あなた、The Kingsなんだっけ?」
「牧師だよ」
「ああ、そんなこと言ってたね。The Kingsでもなく、NCRでもなく、ただの牧師だと」Julieは頭に手を当てて少し考える様子を見せた。「もしあなたがこれからそのことについて何か調べるつもりだったら、Elizabethと話してみて。彼女はFreeside地区のNCRの責任者だから、もし信頼してもらえれば何か話が聞けると思う。わたしの名前を出してくれれば、きっと信用してもらえると思うけど」
「なんでそんなに手助けしてくれるんだ?」
「荒事になりそうなんでしょう?」Julieは溜め息を吐いた。「あの子、人が好いから心配なの。さっさと解決してね。牧師だかなんだか知らないけど、怪我人が出ないうちに」
「了解」
ラフに敬礼。
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