天国/04/262日目
1257年12月03日
262日目
白の一角獣、ヴァルディム庶子公を玉座に着かせんがために兵力増強せんと黒色槍騎兵と戦うこと、ならびに一生の相棒となる青毛駿馬と出会うこと
Name: Bill
Sex: Male
Level: 26
HP: 65
Attributes: STR18/AGI15/INT14/CHA13
Skills:
【STR】鋼の肉体6/強打6/弓術6
【AGI】武器熟練4/馬術4/馬上弓術4/略奪4
【INT】訓練5/戦略5/経路探索1/観測術1/荷物管理1
【CHA】捕虜管理2/統率力4/取引1
Proficiencies: 弓265/長柄武器257/片手武器110
Equipment: 壮麗なバシネット/ベージャー・ラメラー・アーマー/アワーグラスガントレット/錆びた鉄の脛当て
Arms: 重いポールハンマー/黒檀の剛弓/大袋入りの黒檀の征矢/重厚な騎士用ヒーターシールド
Horse: ノーブルウォーホース
Companion: マンスール/カミーユ/バエシュトゥール/ヴァルデム
「従軍か、死か」
襲い掛かってきたのはあちらだが、言っていることだけを鑑みれば、むしろこちらのほうが賊軍だ、とマンスールは傍らの男、かつての隊長であり、現在の解放軍ベージャー軍団長である男、ウィリアムの言葉を聞いて思った。
「何が、従軍か、死かだ」と言い返すのは対峙する黒色の鎧を身に纏った軍団の隊長格らしき男である。「おまえら、ベージャー王国を正当な王の手に取り戻すとか嘯いてる反乱軍だろう」
「反乱軍じゃない。解放軍だ」
「そんなことはどうだって良い。おれたちゃ黒色槍騎兵だぞ。流れ者だ。人のためには戦わん。だいたい、要求してるのはこっちのほうなんだ。有り金出しやがれ。卑しくも正当なベージャーの血筋を騙るくらいだ。そこのお坊ちゃんは、だいぶん溜め込んでるんだろう。厭なら鋼の味を教えてやる」
黒色槍騎兵の隊長が槍の穂先を持ち上げて指したのは、ウィリアムの背後に隠れるようにして馬に乗っていた男である。口髭を蓄えているが、まだまだ若さの残る顔立ちの青年という年齢の男こそ、ベージャー解放軍の主、ヴァルディム庶子公である。
槍の動きにつられるようにして、ウィリアムはヴァルディムを振り返り、その顔を窺う。一見して、戦いをするべきか否か戸惑っているように見えるが、そうではないことをマンスールは知っている。
「ウィリアム、マンスール」と静かな声色でヴァルディムは言った。「やってしまいなさい」
槍を持て、弓を取れ、ウィリアムが号令をかける。戦いが始まった。
黒色騎兵隊は僅かに60騎、しかしそのすべてが馬に乗った騎兵であり、精兵である。対してこちらは114名の兵がいるものの、騎兵は2割ほど。他の多数は弓兵だ。攻城戦ではともかく、野戦ならば騎兵は2倍程度の兵力差ならば覆しうる。
が、それでも戦わなくてはならない。何せヴァルディムが言ったのだ。やってしまいなさい、と。つまりは、戦え、と。より正確にいえば、精兵を集めるなんて七面倒くさいこと忘れて、ぶちのめせ、と。
野戦
解放軍ベージャー 対 黒色槍騎兵
自軍 114名
ビル(解放軍ベージャー)
敵軍 60名
黒色槍騎兵(黒色槍騎兵)
結果 勝利
対騎兵において、平野での野戦では、如何に精兵とて、弓兵と歩兵中心の部隊では勝ち目がない。ましてや解放軍ベージャーと黒色槍騎兵では錬度の差が大きい。
が、ここは完全な平野ではない。丘があり、窪みがある。騎兵は急勾配において、上り坂なら速度が落ちる。丘に陣を敷いて矢を降らせ、混乱したところを少数の騎兵で横腹を叩き込んでやれば、それで仕舞いだった。
戦には勝った。が、戦いに勝つことがこの戦いの目的というわけではなかった。ウィリアムは得意の弓矢よりは重いポールハンマーを担ぎ、捕虜の獲得に精を出していた。
捕らえた20名の槍騎兵を並べ、改めて問う。
「従軍か、死か」
「馬鹿にするな!」と馬も槍も取り上げられ、それでも威勢の良い黒色槍騎兵が叫ぶ。「われわれは黒色槍騎兵だ! 何処の馬の骨とも知れぬ輩に……」
皆まで言わずに男の喉に矢が突き刺さった。
「死か」
ベージャー解放軍による革命の具合は上等とはいえなかった。
マンスールやウィリアムがベージャー革命軍の主にして、自称ベージャー王国の正当なる後継者であるところのヴァルディムに出会ったのは2ヶ月ほど前である。彼はベージャー王国を正しく導くために、ヤレグロク王と倒して革命を為そうとしていること、そしてそのために白の一角獣の力を貸して欲しいという旨を告げてきた。
革命が為された暁にはウィリアムを元帥に任命するだの、報奨金は幾らでも用意するだの、いろいろと条件を出されたが、ウィリアムはそれらの条件をほとんど聞く様子なく首を縦に振った。
金や地位が目的だったのではない。マンスールにはわかる。ウィリアムの胸中にあったのは、復讐の炎だ。家臣として迎え入れておきながら、白の一角獣を簡単に裏切ったヤレグロク王に矢を突き立てようとしているのだ。
こうして白の一角獣は解放軍ベージャーとなった。
脱走兵であるカミーユは、知人から「名のある人物」として頼るよう言われたヴァルディムに庇護してもらおうと思っていたらしいが、逆に守らなければいけない立場になった。また、先日の戦い以来、行方不明になっていたバエシェトゥールも見つけることができた。
反乱軍を鎮圧せんとするベージャー王国の部隊を撥ね除けながら、白の一角獣は勢い乗っていた。まずは数ヶ月前まで治めていたハヌンの村を領地とする国境のネラグ城を落とし、次にベージャー王国の喉元に食い込もうとした。
が、そこからは上手く進まなかった。何せ相手は国一つ、こちらは正当な後継者を有しているとはいえ、反乱軍に過ぎない。
戦力が足りない。
そう判断したヴァルディムは、精兵を集めさせることにした。こたびのカーギット国の黒色槍騎兵討伐の目的は、単に近隣の賊の討伐のみならず、優秀な兵士を集めることでもあった。
「従軍か、死か」
再度弓に矢を番え直し、ウィリアムが問う。
鏃で狙われた先の男はといえば、先ほど目の前で仲間が無慈悲にも撃たれた光景が脳裏に焼き付いてか、言葉も出ないようだった。
そのまま沈黙が続くと、矢はその男の喉元、すぐ傍に突き刺さった。
「手が、滑った」
ウィリアムが射撃を失敗するはずがない。脅しだ。
「わ、わかった! あんたの隊に加わる!」
そう言った男の喉にも矢は突き刺さった。
「気持ちが篭っていない」
捕虜は寝返った直後が最も脱走しやすい。寝返ったふりをして逃げ出す兵が少なくないからだ。だからウィリアムは、脱走したらどうなるかという見せしめのために、殺した。
それからしばらく、問答は続いた。残った捕虜は結局、8人ぽっちだった。
「十分ですね」
と、そんなふうに応じるのはヴァルディムである。
「手錬ばかりなのでしょう。雑兵30人より役に立つでしょうし、生き残るでしょう。ウィリアム殿やマンスール殿を見ていれば、量より質であるということはわかります。そもそも弱兵ならば、いるだけ邪魔です」
穏やかな顔ではあるが、言うに事欠いて物騒なことを言うものだ、とマンスールは思った。この男を担ぎ上げて、ウィリアムは本当にベージャーを打ち倒すつもりなのか。マンスールは不安だった。
馬に乗りながらちらりと横を見やると、白の一角獣に加わったばかりのカミーユも不安そうな顔をしていた。戦争から逃げ出せたと思ったら、またしても戦場に赴かなくてはならなくなったばかりか、こんな無残な光景までも見せられたのだ。眉根を寄せ、視線を背けても仕方がないだろう。
「大丈夫ですか、カミーユ」
マンスールが声をかけると、カミーユは疲弊の様子がありありと見て取れる顔色ながら、気丈にも微笑んでみせた。「大丈夫です……。戦争なんですから、こういうこともありますよね」
「疲れたなら、休んでいてもいいんですよ」
「いえ、ほんとに、大丈夫です」とカミーユは首を振り、それにしても、と言葉を続けた。「マンスールさんも、ウィリアムさんも、本当に強いんですね。あんなふうに馬を乗りこなして弓を使える人、初めて見ました」
「自分も隊長も、傭兵生活が長いですからね」
まぁこれくらいは軽いものです、などと言いながらも、マンスールは気分が良かった。
「それなのに、どうしてふたりとも、この戦いを決断されたんですか?」
他にもっと良い生き方が、たとえば士官するだとか、そういう道もあったのではないのですか。そんなふうに真摯な瞳で問われれば、マンスールは返答の言葉を選ばないわけにはいかなかった。
「自分は隊長についていくと決めましたから」
「ウィリアムさんに?」
「隊長は少し変わっていますが、面白い方です。自分は以前、彼に救われましたし、彼の行く末を見届けたいと思っています。だから、隊長に従っているだけですよ」
「じゃあ、ウィリアムさんのほうは?」
「復讐ですよ」
マンスールは断言した。
「復讐……?」
「ベージャー王国に殺された女性への、復讐です」
そう前置いて、マンスールはマテルドが死んだ一件について語って聞かせた。強面のウィリアムに対してあまり話しかけぬためだろう、カミーユとウィリアムの仲は良好とは言い難い。ふたりの仲が縮まれば、と思ってマンスールはこれまでのことを説明してやることにしたのだ。語り様によっては無謀にも反旗を翻したウィリアムの過失によって女を死なせてしまったとも取られかねないので、ウィリアムに反感を持たれぬよう、それでいてわかりやすく、マンスールは語った。
「あなたはマテルドに、少し似ています」
説明の締め括りにそう言うと、カミーユが驚いたような表情をしたので、自分の気のせいかもしれませんが、と言い添えた。
ちらと当の本人、隊長のウィリアムを振り返ってみれば、彼は黒色槍騎兵の隊長が乗っていた馬に触れ、良い馬だな、などと言っている。それは青毛の駿馬であった。
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