かくもあらねば/19/02



「Si、やめて! Silas!」
 背後でばたばたと忙しない足音や、咎めるような声が聞こえる。しかしそれらが意味するのが何のか、Siにはわからなかった。ただ理解できたのは肩のところで叫ぶ、小さなSumikaの呼び声だけだ。
 彼女に手を伸ばそうとして、Siは自分の手がべったりと血で汚れていることに気付いた。酸素を豊富に含んだことを示す鮮やかな色の血だ。

 目の前に血塗れの男が倒れていた。緑色の目を開き、ぴくりとも動かずに倒れ伏すその男は、Silusという名のLegion百人隊長だ。

「なんてことをしてくれたの……」
 いつの間にか、隔離された部屋にBoyd大尉が入ってきていた。彼女はSiを押し退けてSilusに駆け寄り、傷の手当をしようとする、が、無駄だ。もはや死んでいる刺したのはSiだ。だから、間違いなく相手は死んでいる。

Perk: Cowboy(ナイフによる威力増加)
Perk:  Confirmed Bachlor(男性への攻撃の威力増加)

「糞っ垂れ、今まで積み上げてみたものが台無しよ! 大佐になんて報告すりゃ良いの……」
 Boyd大尉はひとしきり嘆いた後に、Siに向かってカードキーを投げつけてきた。
「鍵はくれてやる。だからさっさとどっかへ消えてよ。この南部のインポ野郎」

NCR: Imfamy Gained

「Si、行こう、ね?」
 そんなふうにSumikaに促されるようにして、Siは尋問室を出た。BooneとRexが無言で出迎えた。

 Siは血を拭き取り、調査を再開した。Boyd大尉から話を聞くことはできなくなったが、他の目撃証言などから、管制塔に人が出入りしているのは25時頃の深夜だということがわかった。
 時間を潰すため、食堂に向かう。腹が減っていたというのもあったし、そういえばHsu大佐が厨房の機械をどうにかして欲しいと言っていたことを思い出したからという理由もあった。自分がしてしまったことのせめてもの罪滅ぼしに、厨房機械の修理をしてやる。昔から教会で細かい作業を得意としていたSiには、簡単な修理だった。

Challenge: Repair≧80→Success

「おお、直ったか!」
 と喜びの声をあげたのは、厨房の管理人であるFarber伍長である。
「やぁ、これで豆と玉葱と玉蜀黍の胡椒のせだけの生活から解放される。いやぁ、ほんと、助かった。感謝するぜ。といっても、おれにはここの利用料金を安くしてやることくらいしかできないが……」
「じゃあ適当に、なんか作ってくれ。二・五人前くらい。あと、犬の分も水と食べ物を頼む」
「それくらいなら、大歓迎だ」

 Farber伍長が料理を作っている間に、SiとBooneは席に着いた。
 Booneは何も言わなかった。彼の瞳はサングラスで隠れており、何処を見ているのかさえわからない。が、Siは自分の仕出かしたことが咎められているような気がした。
「あの男には話をされた」
 Siは先ほど殺した、LegionのSilus百人隊長との間にあったことを吐露していた。
「最初はおれやNCRを馬鹿にするような話だけだったが、そのうち、女を攫ってきて奴隷にしたとかいう、自慢話になった。それで、急に頭に血が昇って………」
 ちらとBooneを見やれば、彼の表情はまったく変わらなかった。Siの話を聞いているのかさえ怪しい。
(そうか、こういうやつだったんだよな………)
 Siのことなど、まったく興味がないらしい。Siは話したのを後悔した。黙ってFarber伍長が食事を運んでくるのを待つ。

 飯が来てからは、特に会話もなく、静かな食事の時間となった。切り分けるときに幾つか応答があっただけで、Sumikaさえもほとんど喋らず、唯一Rexだけが新鮮な水と犬にしては濃い目の食事を貰って、嬉しそうにしていた。
 しばらくそのまま黙ってナイフとフォークを動かしていたが、なんとなく気になって、Siは物を入れるためではなく口を開いた。
「あんた、奥さんがLegionに売られたって話をしてたな」
 Booneは無言で視線を持ち上げた。そのまま下げる。言葉にしてみれば、なんだ、それがどうした、そんなところか。
 あんたはそれで、どうしたんだ、話してくれないか、とSiはそんなふうに話を振ってみた。

「おれは彼女の行方を追跡した。彼女が連れて行かれたのが、この前行ったCottonwood Coveだ」とBooneは淡々とした口調で語り始めた。「あのときおれはひとりだったし、その場には100人近いLegionがいた。だからおれは……、彼女を撃った
 あまりにもあっさり言われたので、Siはすぐには反応できなかった。
 結局、言葉を返したのは、SiではなくSumikaとなった。「撃ったの? 助けたんじゃなくって?」
助けるのは不可能だった。だから安らかに眠ってもらうことにした。奴隷になるんだったら、死んだほうがましだ。おれは間違ったことをしたとは思っていない」

 Booneはそれきり黙ってしまった。
 彼と自分との意外な共通点に、Siは驚きを隠せなかった。愛する女をLegionに奪われ、死んだ。違いはAniseは自害したということだが、Booneの妻はBooneが殺したという点だ。

(死んだほうがましだ?)
 そうなのか。ならば死んだAniseは、それで良かったということなのか。確かに彼女は自分で死を選んだわけだが、それで、それで良かったのか。

(いや、助けるべきだった)
 Siは心の中で呟く。助けるべきだった。そうだ。そう思ったからこそ、自分の場合はNCRに入って身体を鍛えるたのだ。復讐のためだけではない。いざというときに、誰かを守れるように。
 それが間違いなのだとしたら、今までの自分の人生はなんだったのだろうという気がしてくる。おれは、いったい、今までの人生を何のために費やしてきたというのだ。


 夜になる。
 管制塔の入口で侵入者を見張っていたSumikaは、急いでSiの元へと戻り、彼の肩に留まった。「誰か入ってった」と告げる。
「誰だ?」
「ごめん、灯りも何も持ってなかったから、暗くて顔は見えなかった」
この暗闇で灯りも持っていないというと、かなり怪しいな」
 言って、SiとBooneは行動を開始した。管制塔へと向かう。

 Sumikaは肩に留まったまま、じっとSiの様子を観察した。憔悴している様子なのは、ただ張り込みに疲れたためというだけではなかろう。
 Legionを殺すことなど、NCRのRangerであるSiには当たり前だ。彼はRangerとして、拷問の術さえ心得ている。

 だが殺さぬように情報を吐かせよという任を請け負っていたというのに、自分を見失って殺害してしまったなどということは初めてのことだった。
(最近、不安定だな……)
 Siの精神が不安定になってきたのはいつからだろう。Sierra Madreから帰ってきてから? Stripのカジノで頭を撃たれてから? Mojave Wastelandにやってきてから?
 いや、もっと前だった気がする。ずっと、ずっと前から。慕っていた女性が連れ去られ、Legionへの復讐を志した日から。

だのに改めて、最近不安定だなと感じるのは、少し前までは彼の精神が酷く安定していたからだ。Sierra Madreでは、彼は優しかった。あのときはKutoがいたからだろうか。Aniseによく似た女性が。

「明日13時にパトロールがFiendの支配領域に入る。地雷の準備を頼みたい」
 管制塔に入ると、何某か話している声が聞こえてきた。明らかに逢引から発せられるものではなく、何処かと通信していると見て間違いない。スパイだ。

 そしてその声は、聞き覚えのあるものだった。

Picus、当初の任務はどうなっている?』
爆薬は既に設置を終えた。列車の出発と同時に爆破させる予定だ」

 その声に応じて、Siが動いた。

「ここで何をやっている?」
 と言ったCurtis大尉の表情は凍り付いていた。
 彼はもはや誤魔化す気もないのか、ホルスターの9mm Pistolへと動く。

 その動きに反応して、Siが弾かれたように動いた。ホルスターのHuntig Revolver+を引き抜く。

Perk: Quick Draw (ドローの速度増加)

「トイレを探していてな」
 Siは答え、Curtis大尉を撃ち抜いた。

Perk: Cowboy(リボルバーによる攻撃の威力増加)
Perk: Gunslinger (リボルバーによるV.A.T.S.の命中率増加)
Perk:  Confirmed Bachlor (男性に対する攻撃の威力増加)



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