かくもあらねば/31/03
Sumikaの感触が完全に消えた。
目が見えないのは、眼球の機能が失われたからではない。血が瞼を塗りつぶしているからだ。
耳が聞こえないも、そうだ。爆発で、鼓膜が一時的に駄目になってしまったのだ。
だが何も触れないのはなぜだろう。手は動くし、感覚もあるのに、Sumikaがいるべき場所に彼女の暖かさがない。
己の腕に手をやる。括りつけた紐の先を辿る。紐がある。ベルベットの布がある。布は縛られたままで、解けてはいない。なのに、何もない。触れない。何も感じない。そこにいるはずのSumikaを、感じられなくなった。
見えないだけでない。
聞こえないだけでない。
触れなくなった。その温かさを、柔らかさを感じることすらできなくなってしまった。
彼の目が見えず、耳も聞こえていないのがKutoには判った。未だ銃を握ってはいるが、もはや狙いはつけられまい。
また、牧師がRaulの弾丸の数を数えていたように、Kutoも牧師の銃に装填されている弾の数は数えていた。.357口径の彼の銃は6発装填で、もはや1発しか弾丸が残されていないはずだ。
KutoはMariaを構えた。
「さよならですね」
と言ってみるが、やはり反応がない。ふらふらと、手を動かすだけだ。
ふぅと溜め息を吐いて引き金を引く直前、Kutoはこの牧師の名前を聞いていないことに気付いた。
「あぁ……、そういえば、名前、なんでしたっけ?」
問い掛けてみたが、耳が聞こえていないのだ。反応はなかった。
ああ、そうだ。爆発の余韻で耳が聞こえていないのだ。血で目が潰れているのだ。
目が見えているはずがない。
耳が聞こえているはずがない。
それなのに彼の銃口は、違わずKutoを狙っていた。
Sumikaの姿は見えなくなってしまった。
その愛らしい声を聞くこともできなくなってしまった。
いまや体温を感じることすら叶わない。
それでも、それでもなお、SiはSumikaの存在を信じていた。
(あいつはずっと、おれのことを守ってくれた)
Siが守らなくてはいけないはずなのに、彼女は守ってくれたのだ。
ならばこの銃口は、間違いなく敵を狙っている。彼女が敵を狙うように動かしていてくれる。引き金を引く力がなくても、Siを助けるための努力をしてくれている。彼女は、彼女は確かに生きている。
Siはそう信じたから、たったひとつの弾丸を放つため、迷わず引き金を引いた。
目覚めると病院だった。Mojaveからやや東にある、NCRの管理下にある病院だ。
身体中、傷だらけであったが、生命の危機に曝されるようなほどではなかった。目も耳も治っていた。しかしSumikaのことが見えず、聞こえず、触れられないというのは変わらなかった。
それでも、SiとSumikaと繋ぐ紐は切れてはいなかった。食事や果物を取り分けてやると、それがいつの間にか減っていた。人は小鳥か何かが食べたんだろうと言っていたけれど、Siは信じていた。Sumikaが生きているということを。
だから何度も何度も話しかけた。
「なぁ、もう終わったんだってさ。NCRも無事じゃあなかったけど、Legate Laniusは殺したし、Caesarももう終わりだ。あとは残党が残っているくらいだよ。除隊も認められた。とりあえず、怪我が治るまではこの病院にいても良いってよ。怪我が治ったら、いや、歩けるようになったら、出て行こう。とりあえず最初は東にでも向かおうと思うんだ」
Siは諦めなかった。
だがある日、結び目が閉じていた。結ばれていたベルベットの布が、Siの手首に結ばれていたのだ。解けただけならまだしも、自然に結び直されるはずもなかった。Sumikaが自分で解き、Siの腕に結びなおしたのだ。
妖精はSiのもとから去った。
だがまだ諦めない。かくあらねばという夢は、まだ消えてはいないのだ。
「暑っい………」
Mojaveの砂漠の中で、Kutoは汗を拭う。その手が額の傷に触れ、途中で止まる。牧師に撃たれた傷だ。信じられないような幸運で、銃弾はKutoに軽傷しか負わせなかった。額に傷が残っただけだ。
あの牧師は、頭の傷が原因で妖精が見えるようになったらしい。最後に彼と対峙したときの動きは、まさしく自分以外の何者かの助けて受けているようであった。本当に妖精がいるのかも、と思えるほど。
ならば、同じような傷を受けた自分にも妖精が見えるようになるのだろうか。そんなふうに思って、Kutoは微笑んだ。
とりあえず、生きている。Caesar's Legionは壊滅し、残党を残すばかり。NCRも大きな打撃を受け、Kutoを追うような余力はない。
また旅を続けることができる。
生きていれば、なんでもできる。
歩いていく。生きていく。
さぁ、頑張ろう。
目が見えないのは、眼球の機能が失われたからではない。血が瞼を塗りつぶしているからだ。
耳が聞こえないも、そうだ。爆発で、鼓膜が一時的に駄目になってしまったのだ。
だが何も触れないのはなぜだろう。手は動くし、感覚もあるのに、Sumikaがいるべき場所に彼女の暖かさがない。
己の腕に手をやる。括りつけた紐の先を辿る。紐がある。ベルベットの布がある。布は縛られたままで、解けてはいない。なのに、何もない。触れない。何も感じない。そこにいるはずのSumikaを、感じられなくなった。
見えないだけでない。
聞こえないだけでない。
触れなくなった。その温かさを、柔らかさを感じることすらできなくなってしまった。
*
彼の目が見えず、耳も聞こえていないのがKutoには判った。未だ銃を握ってはいるが、もはや狙いはつけられまい。
また、牧師がRaulの弾丸の数を数えていたように、Kutoも牧師の銃に装填されている弾の数は数えていた。.357口径の彼の銃は6発装填で、もはや1発しか弾丸が残されていないはずだ。
KutoはMariaを構えた。
「さよならですね」
と言ってみるが、やはり反応がない。ふらふらと、手を動かすだけだ。
ふぅと溜め息を吐いて引き金を引く直前、Kutoはこの牧師の名前を聞いていないことに気付いた。
「あぁ……、そういえば、名前、なんでしたっけ?」
問い掛けてみたが、耳が聞こえていないのだ。反応はなかった。
ああ、そうだ。爆発の余韻で耳が聞こえていないのだ。血で目が潰れているのだ。
目が見えているはずがない。
耳が聞こえているはずがない。
それなのに彼の銃口は、違わずKutoを狙っていた。
*
Sumikaの姿は見えなくなってしまった。
その愛らしい声を聞くこともできなくなってしまった。
いまや体温を感じることすら叶わない。
それでも、それでもなお、SiはSumikaの存在を信じていた。
(あいつはずっと、おれのことを守ってくれた)
Siが守らなくてはいけないはずなのに、彼女は守ってくれたのだ。
ならばこの銃口は、間違いなく敵を狙っている。彼女が敵を狙うように動かしていてくれる。引き金を引く力がなくても、Siを助けるための努力をしてくれている。彼女は、彼女は確かに生きている。
Trait: Wild Wasteland
Siはそう信じたから、たったひとつの弾丸を放つため、迷わず引き金を引いた。
*
目覚めると病院だった。Mojaveからやや東にある、NCRの管理下にある病院だ。
身体中、傷だらけであったが、生命の危機に曝されるようなほどではなかった。目も耳も治っていた。しかしSumikaのことが見えず、聞こえず、触れられないというのは変わらなかった。
それでも、SiとSumikaと繋ぐ紐は切れてはいなかった。食事や果物を取り分けてやると、それがいつの間にか減っていた。人は小鳥か何かが食べたんだろうと言っていたけれど、Siは信じていた。Sumikaが生きているということを。
だから何度も何度も話しかけた。
「なぁ、もう終わったんだってさ。NCRも無事じゃあなかったけど、Legate Laniusは殺したし、Caesarももう終わりだ。あとは残党が残っているくらいだよ。除隊も認められた。とりあえず、怪我が治るまではこの病院にいても良いってよ。怪我が治ったら、いや、歩けるようになったら、出て行こう。とりあえず最初は東にでも向かおうと思うんだ」
Siは諦めなかった。
だがある日、結び目が閉じていた。結ばれていたベルベットの布が、Siの手首に結ばれていたのだ。解けただけならまだしも、自然に結び直されるはずもなかった。Sumikaが自分で解き、Siの腕に結びなおしたのだ。
妖精はSiのもとから去った。
だがまだ諦めない。かくあらねばという夢は、まだ消えてはいないのだ。
*
「暑っい………」
Mojaveの砂漠の中で、Kutoは汗を拭う。その手が額の傷に触れ、途中で止まる。牧師に撃たれた傷だ。信じられないような幸運で、銃弾はKutoに軽傷しか負わせなかった。額に傷が残っただけだ。
あの牧師は、頭の傷が原因で妖精が見えるようになったらしい。最後に彼と対峙したときの動きは、まさしく自分以外の何者かの助けて受けているようであった。本当に妖精がいるのかも、と思えるほど。
ならば、同じような傷を受けた自分にも妖精が見えるようになるのだろうか。そんなふうに思って、Kutoは微笑んだ。
とりあえず、生きている。Caesar's Legionは壊滅し、残党を残すばかり。NCRも大きな打撃を受け、Kutoを追うような余力はない。
また旅を続けることができる。
生きていれば、なんでもできる。
歩いていく。生きていく。
さぁ、頑張ろう。
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