McCarran駐屯地の建物の中に入って責任者の人間と話す。責任者の人物は入口で出会った兵士と同様にいぶかしんでいたが、しかし彼は入口の下っ端の兵士と違ってSiが不審人物なのではないか、敵意のある人物なのではないかと思っているふうではなかった。敵意がないことは理解しており、彼らが問題しているのはSiの言うことを聞くべきなのかどうかということのようだ。

McCarran駐屯地に入れてもらうときよりも長い時間を要して、ようやく返答があった。列車に乗っても良いが、書類に記入しろとのことだった。Siが頷くと、責任者の男は書面を何枚も持ってきた。想像以上の面倒さにSiもSumikaもうんざりした。
書類をようやく書き終えて提出したところで、建物が揺れるかのような物音が響いた。地震かと思って慌ててSumikaは注意を上方へ移す。

Siも隠れかけ、しかし周囲の人間がまったく動じていないことに気付いてか動きを止めた。今まである程度慇懃に対応していた周囲のNCR兵が笑い出す。
「今のは列車の発車する振動だ」と今まで対応していた男が言った。「南部からやってきた方には初めてかな?
Siは頷く。あまり悔しそうな表情には見えない。事実初めてなのだから仕方がないということだろう。それよりも彼は列車が発車してしまったことのほうを気にしているようだ。

次の列車の発車時刻を尋ねると、責任者の男は意地の悪そうな顔で、今日の便はすべて発車してしまったので明日を待て、と言った。
「なんだか歓迎されていないみたい」とSumikaは言う。
Siは曖昧に頷いた。

「疲れちゃったね」テント張りの駐車場に出て、Sumikaは息を吐いた。もう日が暮れてだいぶん時間は経っていたが、テントの周りには数多くの兵士がいた。メタルアーマーを身につけた賞金稼ぎの姿もある。「あんな態度取らなくても良いのに……」
自分たちのテリトリーを荒らされるのが厭なんだろう。ま、仕方がない。歓迎されないだろうというのは聞いていた通りだし」
Siはテントを見て回る。McCarran駐屯地の責任者には、空いているテントに泊まって明日の朝発車する列車を待つように言われている。
「わたしたちは確かに部外者かもしれないけど、でも、あんな態度ってないよ。わざと意地悪したりとか……」
「珍しいな」
「え? なにが?」
「そういうふうな態度なのが」
Sumikaはコートのポケットから出てSiの肩に乗った。「何か、変?」
おれが怒られるかと思った
「どうして?」
「いつもそうだから。礼儀正しくしろ、だとか」
「そうかなぁ……?」
今日のSiはちゃんと誠意ある対応をしていたと思うが、いつもはもっと敵愾心剥き出しだ。だから彼の言うとおり、今まではよく嗜めることがあったのだろう。

彼が変わったのはRaulと出会ってからかもしれない、とSumikaは思った。自分より遥かに長い時間を生き、研鑽し、それをまったく誇らないGhoulに彼は惹きつけられているようだ。
RaulはSiが書類に記入している間、暇だからと言って外に出て行ってしまっていたが、あるテントの中で彼の姿を見つけた。ほとんどがNCRの軍服を着ている中に作業着姿なので、Ghoulの容姿も相まって非常に目立つ。


Raulは椅子に座り、テーブルを挟んだところにいる老人と何かを話していた。老人もNCRの兵士のようだったが、装備は他の兵士のようなアサルトライフルではなく、細工の施されたボルトアクションライフルだった。そのテントの中の兵士の多くは赤色のベレー帽を被っていた。彼らはNCRの一般兵のように目的もなくぶらついているというふうではなく、賞金稼ぎのように自分の存在を誇示しようとしていることはなかった。彼らはみな黙々と仕事をしているか、個々人のスナイパーライフルの整備をしていた。
First Reconだね」Sumikaは言う。

●First Recon
NCRの特殊部隊。狙撃に特化しており、800ヤード離れた場所からヘッドショットができるだけの技量のある兵が集められているといわれており、Rangerとはまた別のNCRの強力な戦力となっている。

Siたちがテントに近寄るとRaulも気付いたようで、老人に手を挙げて会釈をした。老人のほうも笑って頭を下げ、それから手を差し出す。がっちりと握手をし合ってからRaulはテントを出てきた。
「面倒な事務処理は終わったかい、ボス?」
「あんたが縁側で茶呑み雑談やってる間にな……」SiはRaulの肩越しに先ほどまで彼と会話を交わしていた老兵を見る。「だれだ、あれ」
Corporal Sterlingだよ。彼との会話は考えごとをするのに良い経験になった」
「あんたの知り合いか?」
「いや、そういうわけじゃない。ところで」とRaulは話題を変える。「列車に快く乗車させてくれる、って話にはならなかったみたいだな。その顔を見ると」
「明日まで待たされた」と時系列の狂ったことをSiは言う。
「なるほど」とRaulは小さく笑った。「しかし良い経験になっただろう。電車を逃すっていうのがどういうことか」
「愉快ではないな。泊まるところを探さなきゃならん」
「当てはないのか?」
「空いているテントを使えと言われたが、何処のテントが空いているのかわからん」
「ふむん」Raulは少し考えるような仕草を見せ、「じゃあ彼に訊いてみるか」と言った。
「彼?」
「Corporal Sterlingだよ」


Raulが話を通すとSterlingという老兵は快くテントの中にSiを迎え入れてくれた。
「やぁ、どこかで会ったっけ、なんて言う必要はないよ。はじめましてだね」First Riconの老兵、Corporal Sterlingは白い髯を蓄えた顔をくしゃくしゃにして手を差し出した。
「あんたは人の顔を覚えるのが得意みたいだな」SiはSterlinの手を握る。警戒を見せないのは、Raulの紹介した人物だからかもしれない。
「記憶力は良いんだ」とSiの敬意を払っているとはいえない態度に対してもSterlingは微笑んで応じた。「こういう商売だからね。人の顔はよく見なきゃならん……。それにきみのことはRaulから少し話を聞いていた」
「なるほど」とSiはRaulを一瞥した。
「助かるよ」Raulは目を泳がせて言う。「でも空いているベッドなんてあるのか?」
「だいたいいつも一つは空いてる」
「おい、それじゃあSiが床に寝ることになってしまうじゃないか。美女相手ならともかく、おれはふたりでひとつのベッドなんて厭だ」Raulが真面目な顔で言う。
「何を勘違いしてるんだ。床に寝るのはRaul、あんただ」とSterlingが笑った。「冗談は置いておいて、もうひとつ空いている。最近欠員が出てね。死んだとか傷を負ったってわけじゃないから、縁起の悪いベッドでもない。そこを使ってくれ」

ありがとう、と素直にSiがお礼を言ったのでSumikaはちょっと吃驚した。「ほら、お礼を言って」とSumikaは今まさに言おうとしたのだ。

これもRaulの影響なのだろうか、とSumikaは思い、ちょっと寂しくなった。ベッドに案内された後、Siは銃の整備をする前にSumikaのために風呂のお湯を沸かしてくれた。自主的にこういうことをしてくれるのはよほど機嫌の良いときくらいしかない。
コップの風呂に浸かりながら、SumikaはSiの変化を寂しく感じた。彼にはもっと奔放で、横暴でいて欲しかった。それを窘めたかった。Sumikaは自分の考えを思い返して情けなく感じた。
テントの破れたところから星空を見上げる。星に願う。神さま、どうか、と願いかけて、願い事が思いつかないことに彼女は気付いた。

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