女が雇い主だと、これだから困る」
「まったくだ。仕事はつまらんことばっかりだし、規律に五月蝿いし、しかも払いは悪いときた」

ウェルチェクのプタールを殺してデリナルド卿へと報告し、それから治安維持のために国境付近の警備をしていたところ、そんな声が傭兵たちの中から聞こえた。どうやらノマールの村で土を掘り返させてプタールの死体を埋めさせたのが気に食わなかったらしい。あるいは彼らの山賊まがいの行動をランが許可しなかったためか。
ランは彼らの文句を無視することにした。ランが女で規律に五月蝿いのは事実だし、彼らが金で雇われている以上は文句は言っても反抗はしないだろう。

今夜はスワディア王国の街、プラヴェンに一泊することにする。スワディア王国の中では有数の規模を誇る街なので、傭兵たちが何か仕出かさないか心配だった。
宿をとって傭兵たちに翌日朝の集合時刻だけ伝えると、彼らはめいめいに散っていった。ランも手に入れた装備品などを売り払うために武具屋へ向かった。
道中えらく界隈が賑わっていたので店主に尋ねてみると、どうやら闘技場でトーナメントが開かれているらしい。
賞金は出るんですか?」
「出るよ。飛び入りで参加もできる。出場しなくても闘士に賭けることはできるけど……」店主はランを上から下まで眺めまわしてから、「女の人だけど、もしかしてあんた、騎士さんかい?」
「騎士というほどの大層なものではありません」
「でも腕に覚えがあるんだろう? そんなにでっかい弓を持ってるし……。よし」と店主は手を叩いた。「もしあんたが出場するんなら、おれはあんたに賭けよう。期待してるよ」

店主を期待させたからではないが、ランは闘技場へ急いだ。開始時間ぎりぎりだったが、参加登録を済ませる。
「大将、あんたもか」
そう言ったのはランに文句を言っていた傭兵のひとりだった。にやにやと腕を組んで、余裕そうな表情だ。
「今まで追い剥ぎ相手の楽な戦いばかりだったからな……、今度はおれの強さを見せてやる。あんた、もしおれがあんたに勝ったらこれからの報酬を3倍にしろよ。わかったな」
彼は言うだけ言って、ランの返事も聞かずに厠のほうへと行ってしまった。

(3倍は無理だな……)
賞金が出るのでもともとやる気はあったが、これは負けられないと気を取り直す。
ランは支給される武器と馬を検分しに行った。
(ランスか……、参ったな)
どうやらこの街での試合は馬上槍による試合らしい。馬は得意だが、馬上槍は使い方は知っていても実際に使ったことは一度もない。
これでは勝ち残るのは難しいかもしれない。緒戦はできるだけ様子見に回ろう。



そう思っていたが、初めてのランスの扱いは意外と悪くはなかった。敵を馬上から突き落とす要領で通すせば威力が自然と乗る。ランは初戦、もっとも多くの闘士を倒して次の試合に進んだ。
これはいけそうだと感じたランは、自分にいくらか賭けることにした。レートはまだ高まっていないため、優勝すれば2000.ディナル以上が戻ってくる計算になる。

ランは優勝した。途中から傭兵との約束を忘れていた。彼の姿を見なかったが、いつ負けたのだろう。
賞金を貰って意気揚々としたランの目に、街路の奥で喧嘩が起きているのが見えた。男1人と複数人という、あまり正当には見えない状況ではあったが、声を聞く限りではどうやら借金の取立てのようだ。きちんとした理由があれば殺しはしないであろうし、放っておこうと思った。
だが殴られているほうの男の声が聞こえてきて、ランは引き返した。金を返せと殴られているのはランの隊の傭兵だった。トーナメント前に約束を勝手に作り上げたあの男だ。

ランは男たちに近づき、「なにがあった?」と尋ねた。
金の取立てをしている男たちはトーナメントで優勝したランのことを知っていたのか、やや警戒した様子で、金を貸したのだが返すあてがないと言われたのだと事情を説明してきた。
どうやら傭兵の男はトーナメントで自分が優勝することを信じ、金を借りて酒場で呑み、さらには自分に賭けた挙句に途中で負けたらしい。
「いくらだ?」
500ディナルですよ」
借金取りの男の言った金額に、ランは溜め息を吐いた。闘技場で得た金額の五分の一近い。しかし見捨てるわけにもいかなかった。

ランは男たちに金を払い、傭兵の男を宿へと連れて帰った。
「すまねぇ………」男は項垂れて、心底申し分けなさそうだった。
「給金から天引きだからな。利子は戦場で返してくれ」

利子を返す機会は案外早く巡ってきた。



プラヴェンを出たランたちが遭遇したのは、8対64という圧倒的な兵力差のカーギット国のティリダ卿の軍隊だった。

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