捕虜となったランが自力で逃亡してきたことを聞いたスワディア国の王、ハルラウスは喜ぶ様子を見せた。おそらくランの身代金を渋って彼女が殺されるか売られるかし、周辺国や傭兵たちから非難の視線をかけられるのが厭だったのだろう。


「まぁそう気を落とすな」とハルラウス王は軽い調子で言った。「そなたには期待している。頼みたい依頼もあるが、今は街にて英気を養うが良い」
しかしランは言うとおりにできるほど立ち直ってはいなかった。プラヴェンの騒がしい街に繰り出すのは辛く、すぐに宿に戻ろうとした。

帰り道、街路の向こうで諍いの声が聞こえた。視線を街路へと向けると男たちが争っていた。1対複数。数日前の出来事を思い出し、ランはそちらに向かった。
するとひとりでやられていたほうの男がランに向かって手を振った。
「おおい、助けてくれ、ラン
名前を呼ばれたものの、その男に見覚えはなかった。しかし相手がランの顔を知っている以上は助けないわけにはいかなかった。
「なんだ、てめぇ」と暴行をふるっていたほうの男のひとりがランを見て言う。
スワディアの雇われ傭兵だ。何があったのか知らないが、複数でひとりに暴力をふるうというのはあまり感心できたことではないな」
本当に感心できないと思っているわけではなかったが、とりあえずこの場を乗り切るために言葉を紡ぐ。
「女が偉そうに……」
男がランに向かって足を踏み出しかけたが、他の男たちがその男を引きとめた。何か耳打ちする。
男たちは懐疑の視線をしばらくランに向けていたが、やがて捨て台詞を残して去っていった。

「大丈夫か?」
ランは男の傍に屈み込んで怪我の様子を見た。顔を腫らしてはいるが、骨が折れたり臓器を損傷していたりということはないようだ。
「あぁ、助かった。ありがとうよ、ラン」男は軽い調子で言う。
「失礼だが、以前に会ったことがあったか?」
「面識はないよ。でも知ってる。あんた前にトーナメントで優勝した女剣士だろう? 一杯奢ってくれよ」
「奢るほど金は持っていない」
「まさか。優勝してだいぶ儲けたって聞いたぜ」

ランは男から離れて宿に向かった。
(助けなければ良かった………)
以前にランの隊にいて捕虜の身からランを助けてくれた傭兵の男もけっこう情けない人物だったが、先ほどの男に比べればずっとましだ。彼の姿を先ほどの男に重ねるなどというのは失礼すぎた。

そう思いながら宿に着いたランを出迎えたのは先ほどの男だった。
「おぉ、ラン。先に飲んでるぞ」
「なぜおまえがここにいる。だれだおまえは」
「宿っていえばだいたいここだからな。まぁ座れ。おれの話を聞きたきゃ、一から十まで話してやるよ」
ランは頭が痛くなった。

ブンドゥクと名乗った男は云われない罪で職を追われた脱走兵であると事情を説明してきた。


「参ったぜ、ほんと。雨降ってたからって弩の弦を外していたら鞭打ちで脱走兵よ。あれ以来まともな職にも就けないし、街のごろつきには絡まれる。なぁ」とブンドゥクはランに顔を近づけてくる。口が臭い。「あんた、雇ってくれよ。こう見えてもクロスボウの腕前はちょっとしたもんだぜ」
「厭だ」
「無理すんなよ」
「してない」

そのとき宿に騎士が入ってきた。紋章を見るに、スワディア王であるハルラウスの側近のようだ。
「ランどのはいるか?」
「ここだ」となぜかブンドゥクが返事をする。
「王から依頼を伝えに参った」騎士はランを見つけ、ブンドゥクに対して不審げな視線を向ける。「だれだ、おまえは」
こいつの隊の兵のひとりだ」
「そうなのか、ランどの?」
「そうなんだよ」とブンドゥクが勝手に言う。
ランは溜め息を吐くしかなかった。もうどうにでもなれという気分だ。

騎士から聞かされたハルラウス王の依頼は、プラヴェンの税の徴収依頼だった。
「おぉ、良いね良いね、儲かりそうな話だ」とブンドゥクが合いの手を入れる。
「ランどの、もう少し仲間は選んだほうが良いのではないか?」騎士がブンドゥクに対して眉を顰める。
「仰るとおりで」
言いつつ、ランは気を取り直そうとした。主人のお家復興のために大金を持ち帰るという任務は未だ途上だ。必ず果たさなければいけない。まずはこの税の徴収でハルラウス王に自らの価値を見せなければ。

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