4日目

油断していなかったといえば嘘になる。
だが戦いに臨むウルの心は、いつもどおりのリラックスしたもののはずだった。油断は油断だが、心にゆとりを持っていた程度で、決して手加減をしたわけではなかった。

海沿いのノルド王国の街、ティール。初めの目的地をティールに設定していたウルは、街まであとわずかというところでに出くわした。その賊は農民たちに襲い掛かっているところで、ウルは農民たちを助けるために賊を追い払うことにした。
こちらの人数が30人に対し、賊は21人と数の優位があり、しかも敵はひとりも馬に乗っていなかった。いわゆる海賊で、馬も扱えない連中だと簡単にウルは追い払えるつもりでいた。

しかしノルド王国の海賊は、単なる馬のない賊とは違った。
馬上の敵の勢いを殺す槍や投げ斧の扱い、地形を熟知した戦術、統制された戦い方。一方でウルは慣れない砂だらけの柔らかな地面で馬を操るのに手こずった。

丘向こうの敵が手斧を投げてくるのがわかる。急にシルリムが崩れ落ちる
ウルは砂の上に投げ出された。転がる視界の中で、足に斧の刃を受けて苦しむシルリムの姿が見えた。

ウルは矢を弓につがえて手斧を投げてきた敵に向かって射かける。
矢は円形の盾によって防がれる。
仲間たちのほとんどが地に伏していた。迫ってくるのは敵の賊だけだった。

ウルは弓矢を捨て、刀を抜いた。
「ウルどのぉっ!」
唯一馬に乗って生き残っていたマルニドがウルの背を担いで馬上へ持ち上げた。
馬はそのまま賊から逃げる形で走り続ける。

「シルリムが………!」
彼女は幼い頃からともに過ごした、ウルにとっては親友のような馬だった。
ステップの草原で馬はなによりも大事な生き物だ。馬は移動手段であり、労働力であり、衣服や武器の材料であり、食料であり、楽器であり、そして友であった。

「戻れません」
マルニドは叫ぶように言う。
実際、ウルたちに向かって海賊たちは弩弓や斧で追撃を仕掛けている。戻ればウルたちも殺されるだけだ。ウルにはそれがわかっていた。しかし納得できるものではなかった。

シルリム。
しなやかな脚、美しい鬣。広大なステップを見通す澄んだ瞳。優しい背中。
砕かれたシルリム。

ウルと彼は辛くもティールの街まで逃れた。幸いなことに、彼の馬に積んでいた大部分の交易品は無事だった。
ウルはそれら交易品を金に換えると、その金で馬を買い、酒場で騎傭兵を雇った。

ウルは彼らを引き連れ、ティールの周辺、海賊が現れるという地域を巡り、今度は物量と隙のない戦術で海賊を殲滅していった。容赦なく。

前へ

0 コメント :

コメントを投稿

 
Toggle Footer