アメリカか死か/04/01 Blood Ties-1

Blood Ties

おれは自分のことを狼だと思っていた
けれど暗くなってフクロウが鳴き出すと
おれは夜がこわくてたまらんのだ
(スー族「変身の歌」 『アメリカ・インディアンの詩』より)

Lynn
Lv. 3
S/P/E/C/I/A/L=8/3/10/5/4/8/2
Tag: Melee Weapon, Science, Unarmed
Skill:
[S]: M.Weapon=35
[P]: E.Weapon=10, Explosives=10, Lockpick=25
[E]: B.Guns=31 ,Unarmed=43
[C]: Barter=16, Speech=16
[I]: Medicine=18, Repair=20, Science=25
[A]: S.Guns=25, Sneak=25
Perk:
[Others] Lawbringer, Charge!, Lady Killer
Equipment: Wattz 1000 Laser Pistol, Vault Jumpsuit,



「見たことのない訪問者と聞いたが、またVaultからとはな」

 Canturburry CommonsでHoffという行商キャラバンの男からJamesらしき男を見かけたという町、Megatonに入って最初に聞いた言葉はこんな内容だった。正確には、人間から聞いた言葉は、だ。Megatonの入口にはCanturburry Commonsでも見かけたロボットが立っていて、それはLynnを見つけると語りかけ、町の入口を開く連絡を出してくれたのだ。どうやら訪問者を迎えるためのロボットらしかった。



 そして巨大な門を潜って町に入って出迎えた最初の人間はカウボーイハットにロングライフルという、まるで西部劇のような出で立ちの中年男性だった。
「しかもインディアンの次は犬連れとはな……」とその男は呆れた様子でそう言った。
「すみません」とまずLynnは謝った。「犬は入っては駄目でしょうか?」

 LynnはCanturburry CommonsからMegatonへ向かう道中で道連れを得ていた。Scrap Yardという看板がされている巨大な廃棄処理施設を彷徨っていた犬だ。


 犬はLynnを見ると尻尾を振って追いかけてきた。他の野犬と同じように襲い掛かってくると始めは身構えたが、その犬はLynnに襲ってくる様子は微塵も見せず、Lynnの後をついてきたのだった。Megatonまで。

「いや、おれの町はインディアンと犬お断り、なんて言わんよ。おれはLucasだ」とカウボーイハットの男は名乗った。「この町の保安官をやっている。ま、自称だがね」
「おれはLynnといいます」

 Lynnは自己紹介もそこそこに、人探しをしているという旨を告げた。自分と同じVaultの人間なのだが、と。
赤い肌のブロンドの女だろう? あの小生意気な」


「え?」Lucasの意外な返答にLynnは思わず声をあげた。「いや……、違いますが」
「あれ? 違うのか?」Lucasのほうも意外そうだった。

 LynnはJamesに関して知りうることを伝え、再度Lucasに知っているかどうか尋ねる。

「いや……、知らんなぁ。すまん」Lucasは僅かに首を傾げる。「Vaultの探し人っていうから、あいつだと思ったんだが……」

 Lucasの言葉から察するに、最近LynnとJames以外でこの町を訪れたVaultの人間がいるようだ。しかし今Lynnが知りたいのはその人物についてではなく、Jamesに関してだ。

 Lynnはこの町で情報を集められる場所はないか、と尋ねた。
「酒場ならMoriartyのところがある。あいつはいろいろと裏事情に通じているし、金目の情報は逃さないから、知っているかもしれんな。Moriartyの酒場だったら町の反対側だ」
「ありがとうございます。当たってみます」

 その場を去ろうとしたLynnだったが、Lucasに呼び止められる。

「今すぐにMoriartyのところへ行くつもりか?」
Lynnは頷いてみせる。
「気をつけろよ。Moriartyは悪人だ。悪人っていうのはだな、あんたの、Vaultの常識と照らし合わせても、ってことだ」Lucasは厳しい表情で言った。「ずっとVaultにいたあんたにはわからんだろうが、このCaptal Wastelandの倫理観はあんたのそれと全然違う。だがな、それでも人間の一線ってものはある。善と、悪の、だ。Moriartyのやつは悪人だ。おれたちの倫理観からしてもな。だからあんた、騙されないように気をつけるんだな」



Moriartyの酒場に着いたときはもうとっぷり日が暮れていた。ちょうど酒場は営業時間のようで、薄汚れたネオンの看板が店の入口で光っていた。

「Jamesを探しにね……」と白い髪と髭の、しかし容貌はそこまで老いては見えない酒場の店主MoriartyはJamesを探しているというLynnの話を聞くと、一度カウンターに引っ込み、それからウィスキーのボトルとコップを持ってきた。「まぁ、飲みな。飲みながら話を聞こうじゃないか」
Moriartyは自分の分とLynnの分、二人分のコップにウィスキーを満たして自分の分に口をつけた。


 自分がアルコールが得意なのかどうかわからなかったが、Lynnもとりあえずウィスキーに口をつける。
「Jamesを探しに来たってことは、あんたもVault101の住人かい?」
「JamesはVault101の住人なんですか?」Lynnはもう一口コップに口をつける。ウィスキーは意外とあっさりと喉を通り、コップは空になった。
 カウンターに置くとMoriartyが勝手にボトルから酒を注ぐ。
「なんだ、そんなことも知らなかったのか? 上手いな、あんた」となぜかMoriartyが褒めてくる。
「彼には一度会ったことがあるだけで……」と説明が面倒だったのでLynnはある程度省いて話す。「名前しか知らないんだが、訊きたいことがあって探しているんです。彼がどこに行ったのか、知っているんですか?」
「ま、知ってはいるよ。あいつはつい最近ここに酒を飲みに来たからな」
「本当に?」とLynnはMoriartyには気をつけろとLucasに釘を刺されていたため、慎重になって尋ねる。もう一度コップを空にする。
「ああ。おれとJamesは昔っからの親友みたいなもんだからな。何処に行ったかも知っているよ。それにしても……」とMoriartyはもう一度ウィスキーを注ぐ。ボトルが空になる。「あんた、強いな。そんなふうにウィスキーを水みたいに飲むやつは始めて見た。勿体無い飲み方だな」
「勿体無い……。そうか、すいません」とLynnは素直に謝っておくことにした。
「あんた、なかなか礼儀正しいな」Moriartyがにっと笑う。「だが情報が知りたいっていうなら別料金だ。そうだな……、100capsってところだな」


「100caps?」
 聞き慣れない言葉に思わずLynnは訊き返した。
「そう高い金額じゃあないだろう? 100capsでJamesが何処に行ったかを教えてやるよ
「capというのは、お金の単位ですか?」

 Lynnの言葉を聞いたMoriartyの表情がどんどんと変わっていく。彼はカウンターに肘をついて手を額に当てた。

「もしかしてあんた、capを知らんとか言い出さないだろうな」
「すいません。知りません」
今のCapital Wastelandの通貨だ……。Nukaコーラのボトルキャップだよ」Moriartyは一度唇を湿らせ、それから尋ねてくる。「それであんた、capは持ってるんだよな?」
「すいません、持ってません」

 Moriartyの腕がカウンターに叩きつけられる。

「てめぇは金も持たずに人の酒を飲んだのか」
「この酒は奢りなんでは………」
「んなわけねぇだろう、おい」Moriartyは今までの穏やかな表情を一変させて強い口調で言う。「巫山戯てんのか」
「まだVaultから出てから日が浅いので……、すいません」
「そうだよな、ちくしょう、Jamesもあの小娘も金のことは知っていたから忘れてたよ」Moriartyは大袈裟な溜め息を吐く。「まぁ、良い。Vault出だったら何か金目のもん持ってるだろう。それ置いてけ。Vaultじゃあ珍しくなかっただろうが、今の世界じゃあ汚染されていない水だって貴重だ。置いてけ」

 そう詰め寄られてもLynnに荷物はなかった。Canturburry Commonsから出る際にはRoyらに食料や水などを渡されて、それはCanturburry CommonsからMegatonへの旅をするには十分に余裕があるはずだったが、慣れない道中でLynnは何度か迷い、しかも道中で犬という道連れができたため、あったはずの余裕は尽きていた。Lynnの所有物といえば今は腕のPip-Boyくらいだ。
「じゃあそれを置いていけ」
「外れません」
 Lynnの言葉は嘘ではなかった。左手のPip-Boyはどういう仕組みなのか、ぴったりと固定されていて外れなかった。Pip-Boyは装着型の携帯用情報端末なので着けたままでも不便ということはないので気にはしていないが。
「気にするな。腕ごとで良い。待ってろ」そう言ってMoriartyはカウンターから引っ込む。
不味いな、とLynnは思った。彼は本気のように見える。

 Lynnのいるカウンター席からサルーンの出入口まで五歩といったところだろう。Moriartyが戻ってくる前に逃げることは一見可能そうだが、Moriartyの腰に拳銃が見えたことを考慮すると危うい。気付かれた時点で撃ち殺されてしまう。
 あの姿になれば、とLynnは考えかけて首を振った。Super Mutantを名乗るReoという巨漢の男と相対したとき、爆発からDominicを守ろうとしたとき身に纏った漆黒のスーツ。あれを身に纏っているときのLynnの身体はとても軽く、鋭い牙や爆発で飛散した破片も物ともしなかった。銃弾さえも防げるかもしれない。

 だが、とLynnはCanturburry Commonsを出る際にDominicから言われた言葉を思い出す。彼はLynnの変身した姿を見て、人前でその姿には極力ならぬほうが良いと言った。
「あんたは……、Vaultで身体改造を受けたのかい?」とDominicは言っていた。
 Lynnは首を振る。Vaultでの記憶は曖昧模糊としてはいたが、身体改造を受けたなどという記憶はない。
「そうか……。あんたがなにものなのかはわからないが……、いや、あんたの事情までは立ち入る気はない。だが人前でその力を使ってはScottと同じようになってしまうように思える」とDominicはひとつひとつ言葉を確認するように言った。「あんた自身も、そしてあんたの周りの人間も、だ。Lynnさん。Scottだって初めはあんなふうではなかったんだ。純粋に町を守ろうとしていたはずなんだ。だがいつしか変わってしまった。あんたもそうなってしまうかもしれない。その奇妙な力は、だからできるだけ使わないほうが良い」

 変身せずにこの場を突破している方法を模索している間にMoriartyが出刃包丁を携えて戻ってくる。本気の目つきだ。もはや人目は気にしていられない。
Lynnがそう決意したとき、店の隅のほうにいた女がカウンターを回ってMoriartyの近づいた。
「なにやってんの、Moriarty」




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