74日目

夜の平野を駆ける。

「何か作戦があるのか?」
ウルは併走するイソラに尋ねた。馬上のイソラはウルの騎馬軍の中でも動じるふうもなかった。馬に乗り慣れている。身体を売って生活をしていた女がここまで馬を操るとは考えにくい。本当にスワディアの女王なのかもしれない。
「作戦?」イソラは首を傾げる。
「これからの革命のための作戦だよ」
「そんなものはない」イソラは笑顔だ。
「頼りになる人間は、だれかいないのか?」
「ウルギッドがいる」
「おれ以外で、だ」
「なるほど、気になるか。ならば答えよう。スワディアの諸侯21名、うちウルギッドを除いた20名すべてがハルラウスについている。スワディアの町は4、城は5、村は17あるが、われわれが所有するのはひとつもない。目の前に立ち塞がるのは無数の敵だ。そんなものの前に、策など何の意味があろうか

つまり何の考えもなかったということだ。これは勝ち負けを算段する以前の問題かもしれない。
「まぁ心配するな、なんとかなるさ
ウルが溜め息を吐くと、イソラはそう言った。

最初の戦闘はその翌日、夕方に起きた。スワディア王国領地を目指して行軍中のウルたちが出くわしたのはレガス卿の軍だった。軍議などでウルの顔を見知っていた彼は、ウルとイソラが革命軍を立ち上げたことを知ると、攻撃を仕掛けてきた。幸い騎馬の差があったため、ウルの軍は安全に勝利することができた。

(だが………)

できるだけ被害が出ないように戦ったとはいえ、確実に死者や負傷者は出ている。何の後ろ盾もないこの状況では、僅かな被害の積み重ねが大きな被害になりかねない。この時点では勝利したとしても、いつかは敗北に繋がる。
だからといって進まないわけにはいかないだろう?」ウルの言葉を受けて、イソラは答えた。「大丈夫、なんとかなるさ

イソラの言う「なんとかなる」が実現したのはヴィンクード城に近づいたときだった。ヴィンクード城からやってきた騎馬隊が近づいてきた。
戦の下知をしかけたウルだったが、早馬はその騎馬隊がわずか3騎で、しかも白旗を振っていると告げてきた。
「来たか」とイソラが言った。

その騎兵隊を率いていたのはスワディア国、ヴィンクード城の領主であるクライス卿だった。
クライス卿は供の2騎とイソラとウルの前まで引き立てられてきた。引き立てられたとはいっても、彼は馬に乗ったままだ。武装解除さえしていない。白旗を振って恭順の姿勢を見せてきた以上は丁重に扱わなくてはならない。
「久しいな、クライス卿」とイソラが言った。「ついにハルラウスを玉座から引き摺り下ろすときが来たか」
「きさまはなんだ」とクライス卿は馬の上から言う。
王の顔を忘れたか、クライス卿よ」

クライス卿は顔を顰める。「知らんな、だれだ」
「皇女イソラだ」とウルが口を挟む。本当に彼女がスワディア国の正当な後継者なのか、知りたいという気持ちもあった。「覚えていないか」
「仮にこの女がイソラ皇女だとして、わたしが彼女に会ったのは20年近く前のことだ。顔なんて覚えていないし、覚えていたとしても子どもの頃とでは顔が変わっている」
「わたしが反乱軍を興したことを知って、ともに戦おうとしてくれたわけではないのか?」とイソラが首を傾げる。
「降参はした。したが、それは単に戦力差があって勝てようはずもなかったからだ。おまえたちの軍に入ってやっても良いが、勘違いしないでほしい、おまえたちのためではない。わたしはハルラウスが気に入らないだけだ」
「なるほど、これがツンデレだな」とイソラが言った。

理由がなんだろうがどうでも良かったが、これでクライス卿の治めていたヴィンクード城とその近隣村であるルドゥナが反乱軍の傘下に入ったことになる。残りは町は4、城が4に村は16。
次の目標はヴィンクード城からほど近いデルキオス城。治めている領主は戦上手で名高いトレディアン卿。一筋縄でいくはずもなかった。





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