アメリカか死か/06/03 Galaxy News Radio-3

 戦闘が終わるやいなや、鎧の人物が仲間たちの手当てを始める。Lynnが棍棒から守ったリーダーらしき鎧の人物は、どうやらリーダー格のような存在らしかった。

彼らは何の集団なのだろうか、と彼らから離れてLynnは考える。変身したスーツはまだ元に戻らない。いつもなら戦闘が終わるとすぐに元の姿に戻るはずなのだが、なぜだろう。


 Lynnが巨人から救出した少女は、戦闘が終わると気絶してしまった。どう処置すれば良いのか考えていると、鎧を着た人物のリーダーらしき女性がやって来る。
「彼女を治療する」
 女性はそう言い、Lynnの手から少女を奪い取った。もう一人の隊員に彼女の身柄を渡すと、リーダーの女性はLynnに向き直った。
「救援には礼を言う。それで……」

 女性は変わった形状の拳銃をLynnに向けた。
「おまえはなにものだ?」

 いつもの問いかけをされた。しかも脅される形で。
 拳銃の弾丸くらいではLynnのスーツを突き破れないのは実証済みではあるものの、彼女の銃の形状を見る限りでは特殊な弾丸が射出されるのかもしれない。一応、両手を挙げておく。
 しかし今回の問いはいつもに比べてやや難しい。なにものだ、というのはLynnのスーツにのみ問うているわけではないだろう。彼らは何かしらの集団に属する人物だ。下手な答えはできない。もちろん、わからない、などという答えでは撃たれてしまうかもしれない。

「その辺の」Lynnは考えた挙句、こう答えた。「一般市民です」
一般市民は変身しないし、Behemothに蹴りをぶちかましたりはしない」女性は冷たい口調で言う。「そのスーツは、なんだ。わたしたちの敵か。Enclaveの手のものか」
Lynnは舌で唇を湿らせる。
「あなたたちは、なにものですか?」慎重に問いかける。
「われわれは………」全身に鋼鉄の鎧を身に纏った女性は言う。「Brotherhood of Steelだ」
「Brotherhood of Steel?」





 Brotherhood of Steel。アメリカ広域に存在している武装組織であり、その本来の目的は核戦争以前の文明・科学遺産の収集と保護である。

 しかしここ、東海岸のCapital Wasteland地域総司令であり、Sarahの父でもあるElder LyonsはSuper Mutantの脅威に怯える人間を憐れみ、これまで収集した科学遺産を人々の保護のために使うことを目的として掲げた。
 人類の保護。その活動は決してすべてのBrotherhood of Steelの隊員に歓迎されるものではなく、多くの離反者も出してしまったが、Sarahには父の決断は誇らしいものであると捉えていた。何のための科学遺産の保護であるのか。ただ単に収集するだけでは蒐集狂になるだけだ。技術は役に立ててこその技術なのだから。その結果人々の平穏を守ることができるのであれば、これほど嬉しいことはない。

 Brotherhood of Steelの活動は、肯定否定の見方の差はあれど、Capital Wasteland内ではある程度の知名度があるはずだった。

 だが目の前の、この謎のスーツを着た人物はなぜか、Brotherhood of Steelという名前にまったく聞き覚えがないようなニュアンスの返答をした。こんな返答はつい数時間前にも聞いた。Vaultからの旅人であるRitaから
 目の前の男もVaultの人間なのか。そう考えればこのスーツの謎も解けるような気がする。ほとんどのVaultは戦前からの技術を引き継いで研究を行っていたため、Vaultの人間は現代では考えられないような高い技術力を有している場合がある。とはいえ人体実験が主流だったため、無事にVaultを出てこられたものなどほとんどいないという話だが。


「おまえはVaultの人間か?」
 Sarahは銃を構えたまま詰問する。Super Mutant Behemothの棍棒を受け止めた人物にレーザーピストルの弾丸が通じるのかというと怪しい気もするが、とりあえず銃を握っておけば会話で優位に立ちやすい。

 もしVaultの人間ではなく、Enclaveの人間であるのならば、助けてもらった恩はあれど、殺さなければならない。否、もしVaultの人間であったとしても、この高い技術力で作られたらしいスーツのことを考慮に入れると、Brotherhood of Steelの本来の任務としては彼を拘束して連れて帰らなければならないのだ。今は人命救助を任務としては優先させてはいるものの、本分である技術の収集と保護が忘れられているわけではない。

「そうです」スーツの男は頷く。
「どこのVaultだ?」
「Vault……、Vault121ですが」
 Vault121。Brotherhood of Steelでは技術収集のためにいくつかのVaultについては位置や研究内容などのデータがあるが、Vault121というのは記憶にない。未発掘のVaultだ。
今言い淀んだのはなぜだ」
「いや……、なんとなく」
「Vault121の、名前はなんという」
「Lynn」
「Vault121の、Lynn………。そのスーツはなんだ。Vaultの開発品か、それともおまえが何処かで発見したものか」
「それは………」

 男の身体が青白く輝く。思わず引き金に力を込めかけるが、どうにか我慢する。
 青い光というと、臨界状態におけるチェレンコフ光を連想する。ヘルメットのヘッドマウントディスプレイに映る放射線計の値を確認するが、値は0だった。今の青白い光では放射線は射出されていない。
 光の中で男の姿が変わる。全身に身に纏ったスーツが消え、若い男の姿が現れた。一瞬の出来事だった。

(うっ………)

 ちょっと良い男かもしれない。

 そんなふうに思ってしまった。無精髯が気になるが、その割には全体的に清潔感のある端正な顔立ちだ。さっきから思っていたが、低く響く声も悪くない。
「わかりません」
 Lynnと名乗った男がそう言ったが、Sarahは容姿のほうに注目していたために、彼がどういう意味でわからないと言ったのか一瞬気付かなかった。すぐに気を取り直す。
「わからない?」
「話すとちょっと長くなりますが………」

 Lynnはそう前置きしてから、VaultでJamesなる人物に目覚めさせられたこと、記憶があやふやであり、自分の出てきたVaultの場所さえ覚えていないこと、おそらく冷凍睡眠させられていたであろうこと、真相を確かめるためにJamesなる人物を追っていること、Jamesなる人物がGalaxy News Radioに向かったという話を聞いたため、ここまで追いかけてきたということを語った。

「ふむん………」
 Sarahは考えつつ、Power Armorのカメラ機能を使って背後の様子を確認する。隊員たちの治療は概ね終わった。何かあっても対応できるだろう。それを確認したため、Sarahは銃を下ろした。


「もう手を下ろして良い。無礼だったな。救援に感謝する。わたしはSarah。Brotherhood of Steelの東海岸地区Lyons部隊の隊長、Sarah Lyonsだ」

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