アメリカか死か/05/05 Following in His Footsteps-5
「Vaultが人体実験施設? そうだよ。知らなかったの?」
「なに、知らなかったの? ショック?」
意外とそうでもない、というのが本音だ。
Vaultに入ってからの曖昧な記憶では、確かにVaultというのはただの核シェルターではないということを示していた。いやに潔癖な空間、白衣を着た研究者たちの存在、管理された行動範囲。
だが直接的に何かしら実験を施されたという記憶はない。
「この前の……、なんだっけ、Vault101は違うって話だけどね」とMoiraは思いついた言った。
Vault101 。診療所のDoc Churchも同じ施設の名前を出していた。なぜか。
Lynnがそれを尋ねると、Moiraは意外なことを言った。
「最近、あなたと同じで、Vaultから出てきたって子がいたの。お父さんを探しにって……、その子がVault101の出身。あそこは他のVaultとは違って、純粋な人間の保存を目的としてたんだよね」
「純粋な、人間?」
「そう。要は、核戦争の影響を受けていない人間のこと。核戦争で遺伝子に一切の障害を受けない人間を……、たぶん後々の実験対象として残すために保存されていたって話。だから、実験対象ではあるんだけど、直接的に何か弄られたわけではないってわけ」
そういえばMoriartyからJamesを探しているという、もう一人の人物の話を聞いた気がする。Vault101出身の、女性。彼女がなぜJamesを探しているのかは知らなかったが、親子だったのか。
「その人の名前は?」
「え? さぁ………。忘れちゃった。あんまり人の名前覚えるの、得意じゃないから」
訊いた相手が間違っていた。とはいえそこまで気になるわけでもない。どうせJamesを探していれば行き着くだろう。
「ところで、きみはどこのVault出身なの?」
「Vault121ですが」とLynnは言った。口をついて出てくるこの数字は、記憶が曖昧ではあるものの、Lynnの住んでいたVaultの番号なのだろう。
「121?」Moiraは首を傾げた。「でも、あなたの背には113って書いてあるね」
Lynnは自身の背中を見ようとした。Vaultのジャンプスーツの前のファスナーを開け、首とスーツを最大限に回転させて背中のナンバーを見る。
113。
121ではない。
Vault113。
その数字は後から書き換えられたものではない。見間違いでもない。確かに113とある。
だがLynnにはVault113なんて番号にはまったくの記憶がない。LynnがいたVaultは、Vault121だ。間違いない。間違いないはずだが、曖昧な記憶がその確信を妨げる。
いったい自分は何者なのか。
今まで何度もされた質問を、Lynnは自分自身にした。
「さて、できたっと」
ようやくバイクの修理は完了した。
いささか錆付いてはいるものの、しっかりとした作りに見える。しかも迷彩塗装までされていた。
「さて、約束どおりそのバイクはきみにあげよう。燃料は満タンだから。燃料がなくなったら、ま、料金次第で給油してあげる」とMoiraはセンタースタンドを外す。
Lynnはバイクに跨り、ギアをニュートラルから一速に変えた。ギアを僅かに緩めながらアクセルを噴かす。激しい音とともに前方への推進力が生まれる。
「よし、ちゃんと動くね。よしよし、よしよし」とMoiraはご満悦だ。
Lynnは二速、三速と試してからMegatonの入口の脇にバイクを停めた。バイクはそこまで巨大ではないが、精悍な様相で、立派な佇まいだった。何かしらわくわくする。不思議な気分だ。
Moiraが工具箱の奥から取り出してきたのは上下一揃いの服だった。Lynnの着ているジャンプスーツとは違う、Capital Wastelandの住人が着ているような一昔前の服だ。
「きみのジャンプスーツは目立つからね。Vaultの住人なんて、Raiderから見れば良いカモだ。だから普通の服に着替えたほうが良いよ。手伝ってくれた駄賃」
Lynnは快く受け取り、礼を言った。
翌日、LynnはGalaxy News Raidioへと出発した。
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