犬である以外に仕事はない
Nothin' but Hound Dog


「雪だ……」

SiとSumikaは大陸南部、戦前はテキサスと呼ばれていた地域の出身だ。南部は見渡す限りの草原、森林、そしてプレーリーで、雪など一度も見たことがなかった。
雪が見えるのは遠くに見える山脈の峰部分であるが、それでもSumikaには新鮮だった。
「ねぇねぇ、向こう行ってみようよ」
SumikaはSiの肩に降りて声をかけたが、完全に無視された。酷い。確かに今は同行者がふたりいるが、彼らとは十分距離をとっている。だいたいうちひとりは人間ではないので、問題にならない。

その人間ではない同行者、Rexに横目で視線をやる。彼はSumikaの視線を感じてか、ガラス玉のような眼球を動かしてSumikaを睨み返してきた。人間には近くされないSumikaだが、獣には近くされてしまう。彼の顎はSumikaを飲み込めるほどに大きくて、怖い。Siのコートのポケットに隠れる。

SiとSumikaがNew Vegasより遥か西にある山岳地帯にやってきたのは、The Kingに個人的な依頼として、最近調子の悪い飼い犬であるサイボーグ犬のRexを治療して欲しいと頼まれたからだった。Rexはサルベージャーが発掘してきたサイボーグ犬をThe Kingが買い取り、Old Moment Fortで治療してもらったという経歴があるらしい。

The KingはJulie FarkasならばRexの力になってやれるだろう、と行ってSiたちをOld Moment Fortへ送り出した。Julieはというと、The KingsやStrip地区の治安の問題、それにSiたちについていろいろと文句を言いつつも、Rexの体調を見てくれた。
(あのふたりって、やっぱり仲が良いのかな………
The Kingはともかく、Julieのほうは彼をあまり好んでいないふうだが、しかしThe Kingsの影響力は認めているふうでもあった。

Rexはどうやら脳に問題があるらしい。
高度な手術技術が必要なため、治療はOld Moment Fortでは難しい、というのがJulieの言だった。
「あんたらでも無理なのか」とSiが言う。
「ぼくの専門は薬学だ」とArcade。
「わたしも、のことはちょっと……」Julieは少し逡巡してから言った。「彼を治せるかもしれない人に心当たりはないわけでもないけど……、その人、Jacobstownにいるらしいの。Dr.Henryって人なんだけど」

Jacobstownに行かなければRexは治せないとThe Kingに伝えると、The Kingはすぐさま反応した。
「まずな、Rexは鼠が嫌いなんだ。Giant rats、Molerats、なんでも駄目。絶対に近づけてくれるなよ。守ってやってくれ。あと帽子も苦手だから、被ってるやつを近づけないように。Rexが可哀想だからな。なんで帽子が嫌いかって? たぶんhatとratで発音が似てるからだろう。そんなのどうだって良いんだけどな。とにかく頼む。Rex、おれとしばらく離れることになるけど、泣かないでくれよ。いや、泣いても良い。いざとなったらすぐ戻って来い。Siのことは見捨てて良いから。おまえはうちの子だからな。やっぱり行かないことにするか。おれのことが好きだだもんな、Rex?」
「そんなに心配なら、あんたが連れて行け」とSi。「Jacobstownだ? そんな遠いところに誰が行ってやるか」
いちおうThe Kingは地元のギャング団の首領だ。Siの彼に対する言動は、聞いていてはらはらする。
「おれは忙しいんだよ。頼むよ。Rexが懐いているのはおれとおたくだけなんだ。可哀想だと思わないか、助けてやってくれよ。例の女が来たらよ、すぐに連絡がつくようにしておくからさ」

結局押し切られる形で、SiはThe Kingの依頼を引き受ける形となったのだ。


雪山を背景にしてはしゃぎまわるSumikaは、まるで雪の妖精のようだ。
彼女の姿をもっと見ていたかったが、寒いのかコートのポケットの中に引っ込んでしまった。冬用の衣服を引っ張りだしているようだ。

「ところでさ、Si」
着替えながらSumikaが言う。Siとしてはあまり無防備な格好のまま話しかけられたくはなかった。「なんだよ」と小声で返事をする。
「Jacobstownって、どっかで聞いたことなかったっけ? なぁんか、聞いたことがあるような気がする名前なんだけど………」
「ある」
「あれ、やっぱり? うーん、どこだっけ……」
「Black Mountainだろ」
「あ、そうだ」Sumikaが思いついたように言い、すぐに声が重くなる。「ってことは………」

「あそこかな」とArcadeが前方を指差す。見えるのは丸太の柵で囲まれた集落のような村と、その前で番をしているSuper Mutantたちの姿だった


0 コメント :

コメントを投稿

 
Toggle Footer