「一頭では少なすぎる、二頭では物足りない。そうっ、だからおれの名はっ」
階段の上で仁王立ちしていた男が勢い良く頭を下げ、そして持ち上げる。その勢いでかけていたサングラスが少しずれた。男は気にせずに叫んだ。


「毎度お馴染み、Three Dogだ!

 Lynnは階段の途中で立ち止まり、このサングラスとニットキャップというCapital Wastelandには似つかわしくない、しかし前々世紀でのいかにもなDJという出で立ちの男を見返した。
 どう反応すべきかと逡巡してみたが、別に相手と同じく奇怪な応答をしろと強制されているわけでもあるまい。

「Lynnです。Vault121から……、Jamesという人を訪ねて来ました」
Jamesを訪ねて?」Three Dogは少し考えるような間を取った後、笑んだ。「そうかそうか、なるほど……、うん、なるほど。ま、とりあえず座ろうじゃないか。立ち話もなんだ」

 Three Dogに促され、奥の部屋に入る。ハムラジオやマイク、音声再生機など今の時代では希少になっているであろう機械類が大量にあった。Three Dogは機器の前の椅子に座り、Lynnにはソファに座るように薦めた。

「さて、まずはありがとう、だな」Three Dogは両膝の上に手の平を乗せ、大仰な様子で頭を下げた。「GNR前のSuper Mutant掃討に手を貸してくれたそうじゃないか。しかもBehemothとかいう怪物も一緒に退治してくれたとか。いやぁ、ここは聖戦の生命線だからな、基本的にはBrotherhood of Steelの連中が守ってくれるんだが……、今回はBehemothのせいで彼らだけじゃ危なかったとか。いやぁ、本当に助かった。ありがとう。これで戦い続けられる。あんたには感謝してもしきれないな。感謝の気持ちを込めて、今日の夜は特番であんたの特集で行こう。うむ、『Galaxy News Radioを救った謎の男、Lynn。彼の強さと正義に迫る』とだな」
「いや、そういうのは………」
「じゃあ『Super Mutantを倒す愛と正義の使者、その名はLynn』と」
「いや、おれはですね、Jamesの行方さえ教えてもらえれば………」
「うーん、そうか……。いや、しかしラジオで宣伝していれば有利になるぞ。世の中そんなもんだからな。良いことすれば宣伝してやるし」
恥ずかしいので
「Jamesの行方か………」
 なぜかThree Dogは顎に手をやり、首を捻った。Jamesの行方を知っているのではないだろうか。
「知らないんですか?」
「いや、知ってる。知ってるよ。うーむ……」Three Dogは溜め息を吐いた。「知ってるんだがなぁ……」
「何かあるんですか?」
「そう、何かがある」Three Dogは神妙な表情で頷く。「このCapital WastelandでおれやJamesは人類のために戦っている。人類を守る、聖戦だ。このアメリカという土地に二度と破壊を生まないための戦いを繰り広げている……。だがいつまでも戦い続けることはできない。聖戦も普通の戦いと同じだ。疲れてくるし、弾も切れる。銃も壊れることもある。今はそういう状況なのさ」
 Three Dogの大仰な台詞が何を意味しているのか、Lynnにはさっぱりわからなかった。


 だがLynnは、おまえはなにを言っているのか、などとは言わなかった。Three Dogの喋り方は大袈裟なものだったが、サングラスで隠れた目許からは真剣な様子が読み取れた。
「ま、わかりやすく言えば、だな」Three Dogは歯を見せて笑った。「おれはラジオの放送がしたい。おれのラジオを世界中に届けたい。だがこの近くのラジオ塔のひとつが故障しちまったみたいでな……、ま、それで困っているってわけよ。困っている。そう、困っているんだ。酷く」
「はぁ………」

 これは自分を助けよという催促だろうか、と思いながら、Lynnはとりあえず相槌を打った。Canturburry CommonsでもMegatonでも、安易に他人の頼みを聞いたばかりに予想以上の面倒に巻き込まれてしまったのだ。今回はそれは避けたい。あんなことを何度もやっていたら、命がいくつあっても足りない。

 Lynnは話をJamesのことに戻そうとして口を開きかけたが、Three Dogに言葉を被せられて制される。
「それで、だ。実を言うとおれはあんたにJamesの場所を教える代わりに、ラジオ塔の修理に行ってもらおうとしたんだよ。Brotherhood of Steelの連中はいるが、ここの警備も必要だからラジオ塔の修理には行ってもらえないし、おれが外に出たらRaiderやSuper Mutantたちにすぐに殺されちまうからな。あんたがBehemothとかいう化け物相手に戦ったって聞いたとき、これは好都合だと思った。思ったんだがなぁ……、ギブ・アンド・テイクというにはもうあんたから受け取っちまっているんだよな、と今気付いた。既にラジオ局を守ってもらったわけで、それ以上に要求するというのはどうなのだろうか、と思って迷っているわけだよ、おれは。おわかりかな、このThree Dogの心境が」
「まぁ、いちおう」
「というわけで、だ」Three Dogは腕を組む。「どうだ、Lynn、行く気になったかな?」
「いや……」
「そうは言わずに。楽しいぞ、ラジオ塔の修理は」
「いや、えっと、何の話ですっけ?」


 結局、博物館からアンテナを取ってきてWashintong Monument近くのラジオ塔の修理をした。
 いいかげん人の頼みをほいほい聞くのはやめよう、とLynnは後悔したが、ラジオ塔から見る朝日は美しく、その後悔の念はすぐに消えた。


 ラジオ塔を出て、Galaxy News Radioへ通じる地下鉄駅入口へと向かう。

 近づいたところで複数の人影が見えたため、Lynnは立ち止まった。Super MutantやRaiderかもしれない。しかしよくよく観察してみると体格は明らかに普通の人間であり、Super Mutantではない。服装はやや厳つかったが髪型は普通で、Raiderのような奇抜な髪型や色をしていない。普通のCapital Wastelandの住人だろう。


 そう思い、彼らを素通りしようかと思ったが、駅前でたむろしていた男たちはLynnの姿を見ると銃を取って近づいてきた。歩みはゆっくりとしていたが、明らかにLynnに向かってくる動きだった。Lynnは逃げようかと考え、しかしそんな余裕はないと思い直す。

 Capital Wastelandに出てから他人に恨まれるような行為をした覚えはない。Moriartyの店でただ酒を飲んだくらいだ。ということは、あの集団がLynnに対して銃を構えていたとしても、人違いだろう。


 しかしLynnの前までやってきた三人の男の、一番前の一人は言った。
「おまえ、Lynnか?」
 迷ったが、頷いた。「そうですが……」


「死ね」


 男の手に握られた銃からレーザー光線が発せられた。

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