SarahはLynnに向かって右手を差し出す。彼はちょっと戸惑ったようだったが、Sarahの手を握ってくれた。Power Armorの金属製のグローブに包まれているとはいえ、ちょっと緊張する。
「あ」
 Lynnがなにやら声をあげたので、思わず手を放す。
「なんだ」
「いや……」Lynnは自らの右腕の手首を左手で包むように握る。そして大きく息を吸った。
何か怪我したのか? さっきの戦闘でか?」
 訊いてから、わざわざ質問するようなことでもなかったと思い直す。Super Mutant Behemothは体重1トンを越える化け物だ。その巨体の化け物から繰り出される攻撃を、Lynnはあの異常な能力のあるスーツを着ていたとはいえ、受け止めたのだ。怪我していないはずがない。その怪我が、顔を顰める程度で済んでいる(しかも戦闘中は普通に戦えていた)というのも異常な気もするが。

 Sarahは心の中で少し逡巡してから言う。
「折角だから、手当てをするよ」


 もう一人のVaultからの旅人である少女、Ritaの手当ては終わっていた。彼女は父親を探してこのGalaxy News Radioまで来たのだという。彼女がいなければBehemothの退治も危うかったかもしれない。
 道中で保護したときは面倒な拾い物だと思ったが、意外なほど役に立ってくれた。肉親を探して急いでいたというのはわかるが、別れ際に話ができなかったのが少し寂しく感じた。Sarahが住んでいるBrotherhood of Steelの本拠地、CitadelにはSarahと同じくらいの年頃の女性はほとんどいないから、Ritaとの出会いは新鮮に感じたのだ。

 Galaxy News Radioの中の駐屯部屋でLynnの手首を診てやる。折れてまではいないようだが、手首が赤く腫れていた。固定をして包帯を巻いてやる。
 手当ての間、話題もなかったので、Brotherhood of Steelの話をした。Brotherhood of Steelの根本の目的と、それを捨て置いて人命救助を優先させているCapital WastelandのBrotherhood of Steelの現在の行動指針のこと。本来の目的は旧世代の遺産の発掘と保護であるということ。Sarahの父親が東海岸のBrotherhood of Steelの指導者で、彼が人命救助を優先させる旨を公布したこと。その父親を尊敬しているということ。最後は自慢話のようになってしまった。そんな話も、Lynnは興味深そうに聞いてくれた。

 手当てが終わる。
「当分はあまり動かさないように」
「ありがとう」
 Lynnは包帯の巻かれた手首を見つめて言った。もう丁寧語ではなかった。彼が想像していたよりもSarahが若く見えたからなのか、親しみを感じたからか、どちらだろう。
「骨が折れていないとはいえ……、よく戦えたもんだな。そのスーツが凄いのか? さっきの、あれ、あのスーツは、なに? いえ、知らないということは聞いたけれど、どういうスーツなの? 脱ぐときは一瞬だっただろう? ということは、着るときも瞬時に着れるのか? 変身するみたいに」
「いちおう」とLynnは頷く。「でも……、変身できるときと変身できないときがある」

(自分でも変身って呼んでるんだ……)
 Sarahはちょっと可笑しくなった。確かに変身という以外に表現はできないのだろうし、Sarahも変身という言葉は使ったが、Lynn自身も自分の身体に起こる現象のことを変身という、日常生活では使わないような表現をしているというのが可笑しい。しかしそれには触れないでおいてやる。

「変身できないときって?」
 Lynnは今まで何度か変身できなかったときがあったということを話した。
 Sarahはちょっと考えてから、「地下だと駄目とかではないの? 理由まではわからないけど……、たとえば何処かのラジオ局から変身に必要なコードとかが送信されていて、そこと相互通信できる状態じゃないと変身できないとか」と言ってみた。
「そうなのかな………」Lynnは自分の両手をじっと見る。「でも、外の世界にはこういうスーツはないんだろう? だったらおれのいたVaultで作られたってことなんだろう。でも、Vaultは核戦争以来、ずっと閉ざされていたはずだ。だったらVault内部で作られたスーツと、Vaultの外にあるラジオ局との間で相互通信が必要というのは変な気がする。まさかVaultが作られる200年も前に変身用のコードが作られていたとかじゃない限りは」

 言われてみれば、Lynnの言うことはもっともだ。彼のスーツがVaultで作られたものなら、スーツ自体が外で使用されるのを前提としていたとしても、その制御コードなどはVault内部にて生成されたものであるはずだ。外のラジオ局から電波を受け取って変身しているのであれば、他の誰かが彼に変身コードのようなものをかけ、それを持ち出し、ラジオ局にセットしたということになる。しかもラジオ局単体では送信はできても受信はできないので、受信装置のようなものも必要だろう。広域をカバーするようなものだと、かなり巨大になる。輸送にはかなり苦労するだろう。不自然だ。

 あるいはSarahの推測が間違っていて、Lynnが変身できない理由はもっと他にあるのかもしれない。

「手当て、ありがとう」Lynnは首を動かして部屋の入口を振り返った。「そういえば、さっきの子は?」
「Ritaのこと?」
「Rita?」Lynnは小さく首を傾げる。「あの、赤い肌とグリーンの瞳の……」
「彼女の手当てはとっくに終わった。怪我はそんなでもなかったんでね。あなたのおかげ。彼女もあなたと同じで、Galaxy News Radioまで人を探しに来たんだって。父親を。だからもう行っちゃった」
「そうか……」
 Lynnが何か考えるような表情を見せたのが印象的だった。彼は、Ritaに関して何か特別な感情を抱いたのだろうか。

 ラジオ局のパーソナリティ、Three Dogに話を聞きたいというので、Sarahは二階の放送室にいるとLynnに教えてやった。
「いろいろとありがとう。助かった」とLynnは階段のところで振り返って言った。


助けられたのはこっちのほうだ。Lynnがいなかったらわたしたちは全滅だった。みんな死んでいた。ありがとう。今日は救援要請を受けてここまで来たけど、わたしたちはいつもはCitadelというところにいる。もし近くまで寄る機会があったら………」
 言いかけて、SarahはBrotherhood of Steelの本来の任務を思い出す。過去の科学技術遺産の収集と保護。Vaultの技術も過去の技術遺産に該当する。Sarahの部隊は彼女の父、Elder Lyonsの技術の収集よりも人命救助を優先すべしという理念に賛成しているものばかりだが、Citadelにはそうではないものもいる。
「いや、できれば寄らないほうが良いな」とSarahは言うことにした。「本当に、ありがとう。また会おう」

 Lynnと別れ、Sarahは後始末のためにラジオ局の外に出た。死んだ隊員たちを弔ってやらなければなるまい。
 外に出ると生き残った隊員たちが待ち受けていた。
「遅かったですね、隊長」と隊員の一人、Gladeが言った。「あの男のスーツ、明らかに過去の技術遺産ですけど、良いんですか?
「助けてもらったんだ。助けてもらったのに無理矢理拘束してCitadelまで連れて行くっていうのは礼儀に反する」Sarahは隊員たちの表情を見る。にやにやしている。「なんだ」
「いや、あの男の顔が良かったから助けてやったのではないかな、と」Gladeは隣の隊員の顔を見る。「Kodiakが」
「いやそういうことを言っていたのはGladeだけです」とKodiak。
「嘘を吐くな、おまえだろう」とGlade。
「おまえら両方だろう」とDuskが横から言う。
 Sarahは大袈裟に溜め息を吐いてみせた。
「おまえらは長生きするよ……」


 そしてSuper Mutant Behemothの襲撃で荒れ果てたラジオ局前の広場を眺める。
 Super Mutantの死体とBrotherhood of Steelの死体。壊れた車両の外装とまだ燃えている死体や木片。戦闘で壊れてしまった塹壕や武器類。酷い荒れ果てようだ。
 Sarahは隊員の死体のひとつに近づき、首からドッグタグを取った。そこには名前と性別、年齢、所属が書かれている。彼女はそれを握り締め、それから隊員たちと一緒に死体を埋葬する作業を始めた。

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