アメリカか死か/06/06 Galaxy News Radio-6

 変身。


 光速で発射される実体のない弾丸。そのすべてがLynnには見えていたが、かわすのは容易ではなかった。発せられる弾丸が風化しつつあったコンクリートを抉り、土を掘り返し、砂埃が巻き上げられ、すぐに視認もできなくなる。

 両腕を顔の前で交差させ、頭部を守る。Lynnは両足に力を込め、砂煙を切り裂いて跳び上がった。近くの倒壊した建物の二階に着地する。


「いない……?」
 すぐに男たちもLynnが消えたことに気付いたようだった。射撃を止め、警戒しながらあたりを見回している。すぐにLynnにも気付くだろう。
 彼らは何者なのだろう。Lynnがこれまで見てきたRaiderの服装とは違う。そもそも彼らはLynnをLynnであると認めて攻撃してきたようであった。Raiderはそんなことはしないはずだ。彼らにとって人間は区別なく、新鮮な食料なのだから。

 Raiderではない。

 ではなんだ?

 Lynnを知っているのか?

「あれは……」
 男の一人がLynnを見つけた。銃を構える、がすぐに撃たない。
「なんだあいつは!」もう一人の男が言う。
「構わん、撃て!」最初にLynnに声をかけてきた男が叫んだ。

(このスーツを知らないのか?)
 ということは、Vaultに入っていた頃のLynnを知っている人物というわけではないのだろう。Lynnを殺す理由があったとしても、それはLynnがCapital Wastelandに出てから生じた理由のはずだ。
 男たちが再度撃ってくる。全身に弾丸を浴びつつ、Lynnは再度跳躍した。太陽を背にし、彼らの背後へ着地する。

「どこへ……!」三人の男たちは背後のLynnに気付いていない。
腰元からナイフを抜いた。指の間に、両手に二本ずつ。
投擲する瞬間にLynnは迷いを抱いた。彼らは人間だ。Super Mutantではない。元人間ではなく、今人間なのだ。

 やらなければやられるだけだ、というLucky Harithの言葉が思い起こされる。今、この土地はアメリカ合衆国ではない。Capital Wastelandという名の土地なのだ。防衛することを裁く法はない。
 Canturburry CommonsでLynnはScottを殺した。もちろん殺そうと思ってではない。Dominicを守るために投げつけたものが爆発物であったというだけで。しかしLynnは投げつけたものが何かしら引火性の物体であるということはわかっていた。わかっていて投げたのだ。殺したようなものだ。

「殺せ!」
 Lynnの心の引き金を引いたのは、自身や仲間を鼓舞するためであろう叫ばれた男たちの言葉だった。



「やつを探して……」
 言い終わる前に、投擲されたナイフが4本、2人の頭部に2本ずつ刺さっていた。リーダー格らしき男を残して二人とも倒れる。死んだ
 リーダー格の男は2人の仲間が殺されたことを知ると、Lynnに向かってレーザーガンの弾を乱射した。
 Lynnは右手の手甲から抜いた針状のナイフを男の手へと投げる。電撃が流れて男がレーザーガンを取り落とす。

 拾い上げる前にLynnは男に近づき、顔面を殴りつけた。男は宙で縦に二回転し、背中から地面に落ちた。



「おまえたちはなにものだ?」
 Lynnは男の首を掴むと持ち上げ、今まで何度もされてきた問いを逆に問いかけた。
「なぜおれの命を狙う?」
「おまえ……、なんなんだ………?」
男の返答が分を弁えないものだったので、Lynnは首を持ち上げている右手の力を一時的に強めた。


「おまえはなにものだ?」
 問うてから首を締め付ける力を緩める。
Talon社………」男は苦しそうに喘ぐ。
「目的は? なぜおれを殺そうとした?」
「依頼を受けて……」男が喋るたびに、鼻から血が出た。「Talon社は傭兵企業だ……。あんたの首には賞金が賭けられていて、それで……」
「賞金? その賞金を賭けたのはだれだ?」
Burkeという男だ………」
「Burke?」
 そんな名前の知り合いはいない。

 否、思い出した。Megatonで会った中に、そんな名前の男がいた。奇妙な男だった。  Burkeに出会ったのはMoriartyからJamesの情報を買うための情報料である100capsを稼ぐため、Megatonの自称市長兼保安官であるLucasの依頼を受けて、Megatonの象徴でもある不発弾解体の依頼をこなしているときだった。
 休憩のために切りの良いところで解体の手を止め、Moriartyの店で休んでいた。そのときに黒いスーツと帽子の、Megatonには似つかわしくない小奇麗な装いの男、Burkeは話しかけてきた。
「Megatonの爆弾、あれ、解体ではなく爆発させてみたらどうだ?」
 Burkeは真剣な表情でそのように言ってきた。Lynnは冗談だと思ってそれ以上の話を聞かずに不発弾の解体に戻った。解体が終わってもう一度Moriartyの酒場に行ったとき、既にBurkeという男は消えていた。


「Burkeというのは、いつもどういう服装をしている?」LynnはTalon社の男を絞り上げる力を強めて尋ねる。
「あいつは……、いつも黒いスーツと帽子を被っている……」男は苦しそうに喘いで言う。「小奇麗なスーツだ……」

 やはりBurkeというのはLynnがMegatonで出会った男のようだ。
 つまりBurkeはLynnにMegatonを爆破させるつもりで、しかしその依頼をLynnが断り、不発弾の信管を外して決して爆破しないようにしてしまったから、その恨みを晴らすためにLynnの首に賞金を賭けたというのだろうか。しかしなぜMegatonを爆破しようとしたのか。

「BurkeはなぜMegatonを爆破しようとした?」
「Megatonを……?」男は目を細める。「そんなの、知らない……。BurkeはTalon社の人間じゃない。ただ金は沢山持っていて……、よく依頼をしに来る」
「ではBurkeは何処の組織に所属しているんだ?」
「だから、知らないんだ。Talon社じゃない」
「嘘を吐くな」
知らないんだ……」男は咳き込む。「だからもう………」
「本当のことを言え」
 Lynnは首を絞める力を強める。
 Talon社の男は口を開き、逃れようともがく。
「Burkeはどこにいる?」
 男が急に脱力した。首の骨が折れたのだ。

 Lynnは男の身体を開放した。


 変身が解ける。

 Lynnはその場を後にした。三つの死体だけがその場に残った。


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