1日目 

サラン朝のハキム帝のお膝元、シャリズの街は砂漠の中とは思えぬほど豪奢だ。行きかう人々は優雅に装飾の施された布地に身を包み、建物には色とりどりの布がかけられている。屋台に布をかけただけの商店はさながらお祭りのようだ。

「お腹減ったなぁ………」

そんな賑わいの中で、セドはひとり石段に腰掛けて溜め息を吐いていた。
隊商団が襲われてからというもの、彼女はそれまで隊商が訪れる予定だった街や村を巡り、所属していた隊商が襲われたという事実を説明した。もはや所属していた隊商が壊滅してしまったのは明らかであり、いまさら取り替えそうというわけではなかった。ただやりかけであった仕事を宙ぶらりんのままにしておきたくなかっただけだ。
道中の路銀が心もとなかったため、馬の荷に括りつけてあった荷物を売って足しにした。このシャリズが隊商が今回の交易ルートで訪れる最後の街のはずだった。

シャリズの商人は、隊商が壊滅したという事実を聞いても、セドを慰めてくれたりはせず、むしろ罵った。隊商が来ないことによる損失が酷いものだったと声高に言い、その損失の埋め合わせをしろと迫ったのだ。
そのためにそれまで何とか残しておいたお金と、路銀がどんなに心もとなくとも手放さなかった馬を売られたのだ。ほとんど身包み剥がれた状態で、それでも金が足りないと言われた。しかしもはや払えるものはない。

「馬だけでも買い戻さないとなぁ………」
といっても、元手も何もなく、商売もできない。売れるものは既に売ってしまった。ふつうの仕事で馬を買い戻そうと思ったら、どれだけかかるかわからない。手っ取り早く金になる仕事が望ましいのだが、さてそんな仕事はあるだろうか。

このまま市場にいると食べ物の匂いにつられて盗みを働いてしまいそうなので、セドは人気のない路地に逃げ込んだ。
セドは足元にあった棒を掴み、上方へと振り上げた。
硬いものに当たった。受け流しながら振り向く。金属製の黒い槌のようなものを持った男が立っていた。お腹を空かせているセドを助けてくれようとしているようには見えない。だいたいそれなら市場で助けてくれるはずで、こうして路地裏に入った途端に鈍器で殴りかかってくるということはありえない。まず間違いなく、強盗だ。
「お金……、持ってないんですけど」

男はセドの話を聞かず、再度襲い掛かってくる。よほどセドが金持ちの、高貴な身分に見えるのだろう。
棒で鈍器を受け止める。その辺で拾ったただの棒切れなので、折れそうだ。

棒が折れる前に、セドは頭突きをかました。
一発だけだとひるんだだけだったので、もう一発。倒れたところに足蹴りをかますと、ようやく静かになってくれた。

(うーん……、どうしよ)

役人の頼りなさは隊商が襲われて以来、よく知るようになった。そうでなくとも、もしこの男が役人と何らかのコネクションがあったとすれば、セドのほうが逆に拘留される可能性もある。
悩んでいたところで、路地の奥から人がやってくるのが見えた。目撃者はどうにかしたほうが良いかもしれないと思い、武器を構えかけたセドだったが、その男はセドを気遣う言葉をかけてきたため、いったん武器を下げる。

その人物はシャリズの商人であり、セドが倒した男は街の警備隊の隊長の手下であると説明した。
「彼らは警備隊の人間ですが、盗賊も同然ですわたしの弟も彼らに誘拐されたんです」とシャリズの商人はセドを宿屋に連れて行きがてら語った。「身代金を要求するつもりなのでしょう。身内は助けなければなりません。しかしわたしは彼らに屈するつもりはない。ものは相談なのですが、あなたは剣の心得があるようです。あなたにわたしの弟を助け出して欲しいのです。もちろんお礼は銀でいたします。いかがでしょう?」

セドはシャリズの商人に買ってもらった鶏肉のサフランソース和えと砂糖菓子を食べるので忙しく、彼の話をあまり聞いていなかった。サランの食べ物は初めて食べたが、美味しい。
「良いですよ」とほとんど話を聞かずにセドは話を承諾した。


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