かくもあらねば/15/01
The House Always Wins
ハウス氏は諦めない
1
(あの人、大丈夫だったかなぁ………)
Platinum Chipを奪い、BooneとED-Eを連れてTopsを出た後、KutoはLucky 38へ歩を向けながら考えていた。
心配しているのは、Good Springで出会った、あの牧師についてだ。Bennyの信用を得るために、彼を利用してしまった。.
いちおう、彼の知人らしい医者に、牧師が怪我をしている旨は伝えはしたが、22口径の弾丸とはいえ、頭を撃たれたのだから、重態かもしれない。銃弾が脳に達していた場合、現代の技術ではまず間違いなく治らない。
(ま、考えても仕方ないか)
Kutoは医者ではない。今から駆けつけたとして、何もできることはないだろう。心配して、容態が変わるわけでもない。親指でPlatinum Chipを弾く。
キャッチする瞬間に声をかけられたので、思わず取り落としそうになってしまった。Mr. Houseが言うには、このPlatinum Chipには重要なデータが入っているそうなのだ。破壊してしまったら不味い。
Booneが声をかけてきたのかと思ったが、そうではなかった。Kutoの背後に立っていたのは帽子から革靴まで、Stripでも珍しいくらいの正装をした男だった。
(78点くらいかな)
嫌いなタイプではないな、と思う。些か細身だが、力強そうな印象は悪くはない。
問題は服が似合っていないことだ。こんなきっちりとしたスーツではなく、もっと野生的な格好のほうが似合うだろう。たとえば、Caesar's Legionの戦士の格好とか。
そこまで考えて、Kutoはこの男が誰なのか気付き、血の気が引いた。
この男は、Legionだ。Niptonで出会った男だ。
NiptonのCaesar's Legionは、何者かによって襲撃されて全滅したと思ったが、どうやらこの男は違ったらしい。見る限り大きな怪我もないので、おそらくその襲撃者がやってくる前に撤退していたのだろう。
「騒ぐな。護衛の男に何か伝えようとすれば、殺す」
男がそう言わずとも、Kutoに抵抗する気はなかった。ここはNew Vegas、NCRやLegionも介入できない場所なのだ。殺すといっても、脅しのはずだ。とはいえ、Legionのこと、頭に血が昇れば何を仕出かすかはわからないが。
Kutoが頷いてみせると、男は、Vulpes Incultaだ、と名乗った。
「おまえはCaesarのお眼鏡に適った。今までのCaesar Legionに対する無礼は許そう。Caesarの慈悲は二度はないぞ。よく聞け、Kutoよ」とVulpesは言う。「CaesarはFortification Hillでおまえに会うことを望んでいる……。これを受け取れ」
Vulpesが渡してきたのは、銀色の円盤のついたアクセサリーだった。Caesar's Legionの紋章が彫ってある。メダリオンというのかもしれない。
「Caesarが授けられた贈り物だ。Nelsonの南、Cottonwood Coveまで来い。Cursor Lucullusにこれを見せれば、Caesarの地まで渡るための許可証となるだろう」
Kutoは受け取ったメダリオンを握り締める。これをこの場で投げ捨て、踏みつけ、唾を吐きかけたら、きっとVulpesは襲いかかってくるだろう。それを実験する気はない。
「どういうことですか?」とだけKutoは尋ねた。
「Caesarのもとへ行くがいい。それでわかるだろう」
そう言い残すと、Vulpes Incultaは踵を返して去っていった。
会話の時間は1分程度だっただろう。しかし1時間ほどにも感じた。Caesar's Legionという集団は、そう感じさせるだけの威圧感がある。
彼がKutoの知り合いだと思って気を遣ったのか、少し離れた場所で待機していたBooneとED-Eが近づいてくる。
「だれだ?」
「あ、いえ……」Booneの問いに、Kutoは反射的に首を振った。彼に、Legionの話題を持ち出すわけにはいかない。「えっと、仕事の依頼で」
「仕事?」
「運び屋です。たまにやってるんです」
「なるほど。次はその運び屋の依頼があったところへ行くのか?」
Booneはあっさりと納得してくれた。
「はい……。あ、でもその前に」とKutoはPlatinum Chipに関することを思い出した。「またLucky 38に寄っても良いですか?」
「かまわん。おれとED-Eは、前と同じで、そこらで待ってる」
Booneには、Lucky 38の経営者とKutoは古い知り合いである、と伝えてある。彼は人の言葉を疑わないタイプなのか、それとも詮索好きではないだけなのか、前回も特に異論はなく、KutoがMr. Houseと会っている間はStripを散策して待っていてくれた。といっても、BooneがED-Eとふたりで散歩をする様子など、まったく思い浮かばないのだが。
今回も、BooneとED-Eとは別れ、KutoはLucky 38の最上階へと向かった。
「Kuto、いらっしゃい。Mr. Houseが奥の部屋でお待ちよ」
エレベータを出たところでKutoに声をかけてきたのは、胸部モニタに女性の顔を映したSecuritronだった。
Janeという名のそのSecuritronは、おそらく実際の人間の人格を転写しているのであろう。Kutoにとってはもっとも怖気を生じさせるもののひとつだったが、今はそれほど気にならなかった。今、Kutoの頭の中は、Legionからの意図の読めない召集があったということでいっぱいだったのだ。
Mr. Houseを映すモニタの前に立ち、今はひとまずLegionのことは忘れよう、とKutoは頭を切り替えた。Legionも、New Vegasへの進出を狙う組織のひとつだ。Mr. Houseにとっては疎ましい存在に違いない。
『Platinum Chipを取り戻したようだな』
Mr. Houseがモニタとスピーカーを通じて語りかけてくる。
「この通りです」
どこにカメラがあるのかは知らないが、KutoはPlatinum Chipを掲げてみせる。
モニタの前の隙間が開く。どうやらここにチップを入れろということらしい。Kutoは指示通りにした。
『ふむん、こんなに小さなものだとは………』
Mr. Houseはこのモニタやスピーカー、様々な機械が一体になった装置を通して、Platinum Chipを目にしたらしく、感嘆の声をあげた。
彼は生身の姿を晒すことなく、常にこの装置を通してKutoの前に現れた。
だがKutoは、彼が機械ではなく、人間であることを疑ってはいなかった。たとえ彼が、200年以上前にVegas地域に向けて撃たれた核兵器をすべて撃墜したという伝説をもっていると聞いても、その考えは揺らがなかった。大方、200年前とは別の人間で、正体がばれるのが怖くて人前に出られないというところだろう。
Kutoにとって重要なのは、彼が伝説のMr. Houseかどうかということではなく、New Vegas地域にとって絶大な権力を持っているということだ。
『これを見つけるために、20人以上の採掘者を雇ってSunnyvaleを探させたものだよ。これに彫られている2077年の10月22日の翌日にはわたしの手元にこのチップが届くはずだった。残念なことに、先に爆弾が落ちてきて、配達は完遂されないままだった……。ようやく本願が叶った気分だよ』
「一体そのチップは、なんなんですか?」
『百聞は一見にしかずという言葉がある。きみの疑問に答えるには、実際に見てみるのが一番だろう……。地下に案内しよう』
0 件のコメント:
コメントを投稿