35日目


突然の休戦は、セドたちにとってはほとんど事故のようなものだった。
しかしいかに予想を超えた出来事とはいえ、カーギット・ハン国のベリール卿の依頼達成を失敗したという事実は揺らがなかった。

セドのような傭兵が貴族の信頼を得ることは難しい。
が、一方で信頼を失うことは容易い。もっとも、これは貴族相手に限らない話かもしれないが。

カーギットで功を立てることは難しくなった
さて次には、と話し合いで次の目的地として出たのは、ベージャー王国だった。ベージャーを推したのは主にレザリットとクレティだった。
レザリットの論はまず、ベージャーは駄目だ、というところから始まった。
「サランの前はベージャーにいたことがある。イスミララの城で領主の手兵を訓練していた。いや、訓練させようとしていた、というところか。ベージャー人は規律というものを知らん。少し厳しくすれば音を上げる。命令を聞く気がない。唯一の取り得は弓くらいのものだが、それが通用するのもカーギットやノルド相手のこと。サラン相手には弓で完全に優位とは呼べぬし、スワディアの鉄騎兵は矢の雨を潜り抜けてやってくる。一度懐まで潜り込まれたら、これはもう駄目だ。散り散りになって逃げてしまう。ロドックの兵などは騎兵の突撃を正面から食い止めようとし、事実食い止められるのだが、比べてベージャーはもとより食い止めようという気概がない。駄目だ、駄目だ
だから良いのだ、というのがレザリットの結論だった。弱い。だから良いのだ、傭兵が兵力を売り込む隙間があるのだ、と。

一方で、クレティが提案したベージャー行きの理由は単純なものだった。生まれ故郷がベージャーだから、たまには里帰りしたい、と。
特に反対もなかったため、ベージャー行きが決定された。
といっても、これまでサランやカーギットで活動をしてきたセドたちには、ベージャーの貴族へのコネクションはなかった。イスミララの村でドル卿の命を受けて徴税を行ったり、賞金稼ぎまがいのことをしたりとしていたが、そんなことで十分な稼ぎが得られるべくもなく、資金の枯渇は部隊の士気にも影響していた。

カトリンから、部隊を抜けたいと、そう告げられたのは、彼女とサランで出会ってから30日が経った頃だった。
彼女はいろいろと理由を述べてきたが、セドが引き止めにかかると、「あなたの友人が気に入らないのだ」と、そう告げた。フィレンティスのことだというのは名指しされずともわかった。彼女はあくまで、兄弟殺しの男が気に入らないのだ。

それ以上には引き止められなかった。
そしてフィレンティスも、カトリンが抜けたということに責任を感じてか、部隊を離れた。

振り返れば、新たに引き入れた隊商兵以外には、セドの下に残ったのはレザリットとクレティだけになってしまった。
気を落とすなと、ふたりともそう元気付けてくれたが、仕事も見つからず、仲間も離れ、それで気を落とすなというのは無理な相談だった。
何より、寒さが堪えた
ノルドの猟師として生まれ育ったセドには、寒さがただただ辛かった。

そんな心も財布も寒いときに、ベージャー王国、メリガ卿の隊とぶつかった。

元より彼が女性が戦場に出ることを好まない人間だったのか、それとも出会ったときに礼を尽くさぬセドに腹を立てたのか、それはわからないが、メリガ卿は雪中で出会ったセドに、夫の部屋から武器を持ち出してきたのか、とそう声をかけてきた。
この武器は、軍は、傭兵団は、自分のものだと、そう言い返してやった。なんなら、切れ味を試してみるか、と。
メリガ卿は激昂した。喧嘩を売っているのかと、女ごときが、と。

彼の言葉はまさに的を射ていた。セドは喧嘩を売っていた

そうしてまったく生産性のない、恨みも信念も欲もない、ただ気を晴らすためだけの戦いが始まった。

自軍 セド(傭兵)
兵数 55人


敵軍 メリガ卿(ベージャー王国)
兵数 87人


勝敗 勝利


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