かくもあらねば/16/05


洞窟という遮蔽物の多い入り組んだ空間は、まさにRanger Fairy Eyeの独壇場といえた。
SiとBoone、それにRexというふたりと一匹きりのメンバーで、洞窟内のLegionを掃討し、捕らえられていたRenolds二等兵の隊の兵士たちを解放することに成功した。

嬉しさと悲しさが半々の気持ちではあった。
Siがまた人を殺した、と、そう言えば彼は、Caesar's Legionの兵士は人じゃない、と言うだろう。だが、Siの手は確実に血で染まっていっている。
今までも、それは同じではあった。しかし彼らを殺戮する目的が少しずつ変わっていっていた。最初はAniseを救い出すためだった。Aniseが死んだと聞かされてからは、彼女の復讐のために挑んだ。そして今は、ただNCRを安全に抜け出すために死体を作り出している。

SiはRangerだ。他の兵士と違い、Rangerは大量生産がきかない。資質あるものだけを選りすぐり、大量の資金を投入して育て上げているのだ、一度作り上げたRangerを、NCRは手放したがらない。
NCRはそのために、Rangerにいくつかの枷を嵌めていた。そのひとつが契約書に示された文面で、それにはRangerの都合による退役には莫大な退役金を必要とするという旨が記されていた。
莫大な金だ。だが払えないわけではない。SiはRangerとしてのこれからの稼ぎをそれに当てることを決断していた。このMojaveでの紛争状況を考えると、数ヶ月で払えるだろう。戦って、殺して、稼ぐことで。
また退役金を払わない方法もある。軍の上部の人間に口をきいてもらえれば、それだけで退役できるかもしれない。その方法を採択するにせよ、Siは戦って手柄を立て、目立たなくてはいけない。

結局、殺さなくてはいけない
もとより復讐の戦いが高潔だったわけではない。しかしそこにはやるせない想いがあった。元はといえば、ただAniseが助けたいだけだったのだ。だが助けられなくて、それで復讐へと走った。だが今はそれすら関係ない。

これで良いのだろうか、とそう思うとSumikaは作戦の成功も喜べなかった。
SiはそんなSumikaの心の裡までは読めなかったようだが、ずいぶんと心配したようだ。Restoring Hope作戦終了後、Forloan Hope駐屯地へと戻ってから、何度もSumikaを気遣うような発言をした。

「ちょっと歩くか」
そう言って、SiはSumikaをNelosonへの散歩へと連れ出した。Rexもついてくる。

なんか怒ってんのかよ、どうしたんだよ、と機嫌を取ろうとするSiは可愛いらしい。以前は見られなかった表情だ。
「怒ってないよ」とSumikaは言ってやった。事実、怒ってはいない。それに軍人であるSiに、殺すな、とは言えない。
でもね、と続けようとしたときに視界に揺らぎが見えた。

生物兵器として改造されたSumikaの視覚は、人間とは少し違っている。捉えることが可能な波長領域が通常の人間の可視領域より広く、また極端な暗がりや光源の近くでも目標を失いにくい。単純に遠いものも良く見え、特に動くものに関しては敏感に捉えることができる。
Sumikaの目が捉えたのは、Nelson近くの丘陵に立つ人影だった。
見覚えがある姿だ。あれは、Kutoか
Sumikaがそう言うと、Siも視認し、マスクを被り、ハンティング・リヴォルヴァーを抜いて撃った

撃つとは思わなかった。
「Si?」
「足を狙った」何でもなさそうにSiは答えた。「くそう、外れたな。追いかけよう。Sumika、サポートしてくれ」
「足を狙ったっていっても……、急に撃たなくても」
「あいつを捕まえるのが今の最重要任務だ」
その通りだ。
その通りなのだが、しかし。

Siは変わってしまった。
以前はSiたちにも余裕があったとはいえ、KutoにAniseの面影を見て、むしろ助けようとしていたことさえある。それなのに今では、発見した途端に撃った。

Siの変化を嘆いている暇はなかった。Kutoは北に向かって逃げ始めており、Siはそれを追いかけている。Kutoはレーザーピストルか何かで反撃をしてきているため、Sumikaがついていてやらないと危険だ。
「Booneをつれてくれば良かったな」
そsiは追跡をしながら言った。確かにスナイパーの彼がいれば、逃げるKutoを撃って足止めすることは簡単なことだっただろう。しかしその考えは暴力的すぎる

Kutoの逃げ足は速かった。SumikaもSiも見失ってしまった。
彼女の姿は見当たらなかったが、しかし代わりにマンホールのような入口を発見した。ここにKutoは逃げ込んだのだろうか。
入口からは、なぜか女の歌声のようなものが聞こえてきていた。


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