174日目

血みどろである。

ノルド王国に士官してから早、4ヶ月。セドたちはサラン朝、ウィーヤ城にいた。現在サラン朝はノルド王国だけではなく、ロドック王国に対しても戦争を仕掛けている。大してノルドは先日まで相対していたカーギット・ハン国と停戦条約を結び、目下のところの敵はサラン朝のみ。比較的余裕の感じられる戦況であった。

とはいえ戦況と、一家臣であるところのセドの戦いぶりはあまり関係がない。戦場に出る兵士が常に命の危険と隣り合わせであるように、常に最前線に出でて戦わなくてはならないセドも、いつ死が迫るかわかったものではない。
そんなセドたちにとって重要なのが、戦場の選び方だった。ノルド王国の家臣である以上、戦わなくてはならない。戦って俸給を得るわけで、となると十分に価値の高い行いをしなければならない。これまで特段大きな戦果を挙げていないセドたちには、城を落とすことが望まれた。

目をつけたのがウィーヤ城であった。サラン朝との領地の間には、今はロドックが奪い取ったかつてサランの首都、シャリズがある。速攻で攻めれば、援軍は来ない。
なるほど援軍は確かに来なかった

  • 種別
    • 攻城戦 ウィーヤ城(サラン朝)

  • 自軍 セド(ノルド王国)
    • 兵数 90人
    • 損害 89人(53人死亡 36人負傷) 
  • 敵軍 サラン重装歩兵(サラン朝)
    • 兵数 209人
    • 損害 209人(199人死亡 10人負傷)
  • 勝敗
    • 勝利

しかし敵は200に対してこちらは90と、約2倍の戦力差があったのだ。しかも城攻めである。

城は奪った。しかしこちらの死者は50名以上と、暗澹たる結果であった。
おそらく生き残った者の中でもっとも体力の残っていたセドは、血塗れのままに城内を歩き、生き残った者を探して歩いた。

「ここだ」
小さな声が聞こえたのは城壁の上を歩いているときであった。突入のときにかけた梯子は死体の重みで折れてしまっている。
小さな声だったので城壁の下からかと思ったが、どうやら城壁の上からのようだった。こちらも突入時に作られた死体の山が大量にあり、声はその中から聞こえていた。

死体を弾き飛ばして、中にいた人間を引き摺りだす。レザリットであった
「どうなった?」
どうやら彼は、無事のようだ。否、無事ではないだろうが、大きな怪我はないらしい。
「勝った」と短くセドは答えた。
「そうか」レザリットの返事も同様に短かった。
「たくさん犠牲が出ちゃったけど……、でも」これでようやく、城持ちのちゃんとした家臣だよ、みんなに楽させてあげられるよ。セドはそう言った。
それはどうかな、とレザリットは言った。

なぜ彼がそんなふうに意地悪なことを言うのか理解ができなかったが、事態はまさしく彼の言うとおりになった。

ウィーヤ城を報酬として望むとノルド王、ラグナール王にしたためた手紙の返事の書き出しがこうである。ウィーヤ城を奪取するに際しそなたが示した勇敢な戦いは、云々。それは良い。問題は末文だ。

『わたしに示された城の領有要請であるが、残念ながらこれに応えることはできない。その代わりに900ディナルを下賜する。そなたが戦役で蒙った損害にあてるがよい』

つまり城を渡さないというのだ。自分の領土に入れると、セドを確かな臣下として認めぬと、そう言うのだ。
そうしてリバーサイドの過ごしやすそうな土地柄のウィーヤ城は自分のものにして、そのくせジャミヤード城という、砂漠と山岳に囲まれた過ごしにくい、しかもカーギット・ハンと隣接しているような土地を渡そうと、そう言うのである。
50人の仲間が死んだ戦場で憚るのである。許せるものか。

「リバーサイド云々はともかく、言ってることはわからんでもない」だが、とレザリット。「こうなることは目に見えていただろう。一度や二度の勝利で、王が女に土地を恵んでくれるはずもない
でも、とセドが反論する前に言ってくれたのはクレティだった。「セドはその辺の男よりも戦いが上手いし、十分に戦功も立ててると思うよ。街のトーナメントでだって、何度も優勝しているし、二倍近くの敵にも勝ったし」
だが女だ」とレザリットは返す。「それだけで十分だ」
「そんなのって、ない」
「それがカルラディアの考え方だ。厭なら他の土地に移るしかない」

なんであろうと、気に食わないものは気に食わない。身体の芯から湧き出てくる考えを捨てて、どうして真っ直ぐに歩けるだろうか。

それでも自分はこの城を手放したくないと、セドはそう主張した。

「国と対立することになるんだぞ」とレザリット。
「わかってる」
なら、と彼は言った。「とりあえず政を執り行う人間が必要だな」

どうやらレザリットはセドの考えに協力してくれるらしい。意外だった。どうも彼は実利を求めるタイプに見えたのだが。

「その前にさ」と言ったのはクレティである。
「なんだ」
「その前に、新しい国の名前、決めないと」

セドナ自治領
それが新たに打ち立てた国の名前だった。

自治領は良いとして、セドナってなんだよ」とレザリット。
わたしの名前
最低のネーミングだな」

とにもかくにも、こうして新たな国が成立したのであった。


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