かくもあらねば/17/06


女は明らかに混乱しているように見えた。

SiとKutoがいたのはSierra Madre北西にある病院区画の病棟である。ここに囚われているというCollar 12を救うために、SiとKutoはGhost Peopleを退け、トラップを解除し、戦前から残るセキュリティ・ホログラムを潜り抜けてようやく病棟の奥、Collar 12の信号が発信される辺りまでやってきたのだ。もっともGhost Peopleと戦ったのも、トラップを解除したのも、セキュリティ・ホログラム発生装置を破壊したのもすべてSiだが。
奇妙な診療所だった。戦前から残る設備だが、明らかに戦前のものではない、真新しい死体が放置されていた。首が吹き飛んだその死体の傍にはSiたちの首にも巻きついているものと同様の首輪が落ちており、その死体たちの死因は簡単に推測がついた。

が、診療所の奥で発見した女はそれ以上に奇妙だった。
身に着けているのはよく医者が着ているようなカーゴパンツにタンクトップで、それだけ見ればWastelandでは日常的な格好に見える。しかし女の顔にはまるでパッチワークのような縫い痕が刻まれており、白いタンクトップに飛び散った血痕と相まって、何かしらの凄惨な行為を連想させる。

明らかに尋常ではないその様子に、Siは反射的にPolice Pistolを構えていた。
同時に女も身構え、腰に手をやる。何か武器を取り出すかのような動作で、しかし彼女の腰元には何の武器もなかった。女自身、しまったという顔になる。どうやら、武器がないことに気付いたようだ。

「Collar 12か?」
Siは警戒を保ったまま問うた。Kutoがほとんど無警戒、無防備なのだから、Siだけでも緊張感を保たねばやってられない。
女はSiの問いかけに口を開きかけ、しかし表現したのは沈黙だけだった。

「あの、牧師さま」
対峙するふたりの間に割って入ったのはKutoだった。もしかして、この子、喋れないのでは、と。
「喋れない?」
Siが言葉を繰り返すと、女は注意深く頷く。どうやらその通りらしい。

「えと……、ですね」
Kutoは女に無警戒にも近づいてゆく。わたしたちは、あなたを助けに来たんです、ええ、本当ですよ、ですから、もう安心してください。全然悪い人じゃないですから、ええ、ですからほら、牧師さまも銃は下ろして、と彼女は言う。
そう主張されてしまっては、頷くしかない。とりあえずホルスターに銃は仕舞うが、警戒は保つ。

「わたしは、Kutoです。こちらは」とKutoはSiに手をやり、考え込む表情。「えっと、牧師さまです」
何を悩んでいるかと思ったら、Siの名前か。この女は、Siの名を覚えていないのか。いや、よく考えればそもそも彼女の前で名乗っただろうか。
どちらにせよ、この女が自分の名前を覚えていようがいまいが、どうでも良いことだ。Siはそう考えることで気を落ち着かせた。
「それで、あなたのお名前は?」
はい、とKutoは両手を差し出す。どうやら手の上に名前を描け、ということらしい。まったく、Wastelandとは思えぬ無防備さだ。
女も戸惑った様子を見せながら、Kutoの掌にゆっくりと指を走らせた。

「C、H、R、I、S、T、I、N、E……、Christine?」
ゆっくりと女、Christineは頷いた。
「じゃあ、Chris。一緒に行きましょう。そのほうが安全ですよ」
Kutoの表情は、まるでHELIOS-Oneで数多くのNCR兵士を殺害し、TopsではSiを利用してBennyを殺した人間のものには見えず、まったくの無警戒で慈愛に満ちたものであると感じられた。Christineがこの場にいた理由は不明だが、彼女にとっても悪くない申し出のはずだ。
だが彼女は何度も首を振った。

「何が気に食わないんだ」と苛々してSiは尋ねる。
牧師さま、もうちょっと言い方があるでしょう、とKutoが窘める。「ねぇ、Chris。何か心配事があるんだったら、わたしたちが手伝えますよ。何しろわたしたち、運命共同体みたいですから
Kutoはそう言って、首輪の仕組み、ひとつが爆発すると他のすべても一斉に爆発してしまうことやスピーカーから発せられる信号によって長らく信号が妨害され続けているとやはり爆発してしまうことについて説明した。
Christineは少し考え込むような動作をした後、スピーカーやPip-Boy、首輪の間で何度も手を往復させた。
Challenge: INT, 5
Result: Failed
なんだ、とSiは尋ねる。「スピーカーを停められるとでもいうのか?」

Challenge: Explosion, 60
Result: Success
じゃなくて、とKuto。「爆発するまでの時間を長くできるってことじゃないですか」
Christineは額面上は真摯なKutoの言葉に戸惑っていた様子だったが、やがてゆっくりと頷いた。仕組みはわからないが、どうやら彼女はスピーカーの効果を幾らか緩和できるらしい。この辺りのシステムに詳しいのだろうか。
「それは助かりますね」と笑顔でKutoが言う。「そのぅ、爆破までの時間を延長して助けてくれるってことは、一緒に来てくれるって、そういうことなんですよね」
Christineは曖昧に頷く。ありがとうございます、とKutoが彼女の手を握る。

これでともかく、指定された3人が揃った。Dog/GodとDeanは広場で待たせている。早く戻らなければ。Siはふたりから少し離れたところで焦っていた。時間がない。
SiはポケットのSumikaに手をやる。布で包まれた彼女の身体は、いつもより幾分熱いように感じる。呼吸も早く、短い。姿が見られないのがもどかしい。Sierra Madreの空気は小さな彼女にとっては、あまりにも有害だ。

病院を出たSiたちを、Ghost Peopleが待ち受ける。こんなやつら、相手にしている場合ではない。投擲される槍をかわし、SiはPolice Pistolを突きつけた。

Companion: Christine, Joined
Perk: Signal Interference, Gotten (首輪爆破までのカウント延長)

Quest: Find Collar 12: Christine, Finished
[残り0人]


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