かくもあらねば/17/05
5
Siは屈み込み、両の手を目の前に張り巡らされた糸と梁とに這わせた。糸を梁に固定したまま、慎重に糸の張力を緩めさせる。
「どれだけ殺意を込めているのだ」
思わずそう呟きながら解除したその罠は、扉の間に張り巡らされていた。足元に張られた糸に足を引っ掛け、切ってしまうと張力の均衡が崩れ、錘が落ち、その衝撃で備え付けられた散弾銃の引き金が引かれるという仕組みで、その機構自体は特段珍しいものではない。
問題なのは散弾銃の、その銃口が向けられた先であった。
銃弾は普通、頭なり腹なり、急所を狙って向けられるものである。でなければ足なり腕なり、戦闘力を奪うために設置されるものである。
が、いくら狙って設置したとて、生身の人間が狙うわけではない。どれくらいの体格で、どんな体勢で罠にかかるかわからぬ人間は、狙いを逸しやすい。
に対して、今回のこの罠は、発動すれば狙いを外す可能性はない。狙っているのが人間ではないからである。銃口が向いている先にあったのは、ガスボンベであった。これなら狙いを外す危惧はない。銃弾がガスボンベを射抜けば、罠にかかった人間諸共爆発するからだ。
こんな罠を作るとは、なるほどこの辺りにいるという、Collar 14なる人物はよほど性格が悪いらしい。
罠という罠を潜り抜け辿り着いたSiとKutoを出迎えたのは、タキシードを着たGhoulであった。
「まずは座りな。話はそれからさ」
ふたりを振り返ってそう言ったサングラスのGhoulは、ただ隣の椅子に座るようにと促すだけであった。
座れというのだから、座らないわけにはいくまい。Siは警戒を保ったまま、男の隣に座った。
「彼女の声は美しい。そう思わないか?」唐突にGhoulの男は語りだした。「Sierra Madreだよ。あんたも、彼女の声に誘われた口だろう?」
あの淫靡な声に誘われ、やってきたら、これだ。そう言ってGhoulの男は押し殺したように笑った。え、馬鹿みたいな話じゃあないか。間抜け面して、なんでこんなところにいるんだ、ってな。
どうやら男はDog/Godとは違い、SiやKutoたちの事情に通じているようであった。あるいは自分も同じような体験をしたのか。
どちらにしろ、男の物言いには腹が立った。ひとつ銃口でも突きつけてやろうかと、そう思ったSiをGhoulは制した。
「おっと、下手なことはしないと良い。あんたの座っているその椅子に、とても吃驚するような異変が起きるぞ」そう言って、Ghoulは肩を揺らせて笑う。「尻がぶっ飛ぶくらい、吃驚なことがな」
「やっぱり」
そう言ったのは背後に立つKutoであった。
「おい、やっぱり、ってなんだ」
「いや、ほら、生き馬の目を抜く世界ですから、座布団に爆弾を仕掛けるくらいのことはするかな、なるほど、やっぱりそれくらいはするんだ、という納得です。べつに全部織り込み済みで神父さまのことを座らせたわけじゃあありませんよ?」
言いながら、Kutoは一歩二歩と爆発に巻き込まれぬように下がっていく。言い訳すればするほど胡散臭くなる理屈と言動であった。
「それは神父さまの心が汚れているからではないかと……」
「そんなわけがない」
「笑わせてくれるなよ。あんたら……」
ふたりのやり取りを見て、Ghoulはくっくと声を殺して笑っていた。
「まぁ、なんだ、嬢ちゃんも彼氏のことが心配だったら、下手なことはしてくれるなよ。彼氏の尻がチェリーパイみたいに真っ赤になるぞ」
「まぁ、彼氏だなんて……」そんな、とKutoは頬に手を当てる。「神父さまとは、そんな関係じゃあありませんわ」
「そんなことはどうでも良い」それより、とSiは言ってやる。「下手なことはしないほうが良いのはあんたのほうだ。ふたりとも、いや、三人ともぶっ飛ぶことになるぞ」
Challenge: Explosion 25
Result: Success
「おれの母親はもう死んでる」
「冗談が通じないな」Ghoulは大袈裟に肩を竦めた。「ま、あんたが何を言おうとも、おれはこのスイッチを押すよ。だから、大人しくするんだな」
ああ、ちょっと、と拳を握って持ち上げる仕草のGhoulに縋りついたのはKutoであった。もし本当にSiの座る椅子に爆弾が仕掛けられているのなら、それが爆発して困るのはSiだけではない。Kutoも、そして隣に座るGhoulも死ぬのだから、当然の反応であろう。
「わかりました、わかりましたよ」とKutoは懇願の表情を見せる。「話を聞きますってば」
Challenge: Speech 25
「そうそう、観客はそうじゃなきゃな」
Ghoulは満足そうに頷いた。
Result: Success
「おれだって馬鹿じゃない。わかってるさ、このかっちょいいネクタイがぴーぴーぴーぴー、五月蝿く鳴ってるのが、どういう意味かってのはな。だが、詳しいことは知らん。あんたらも同じような首輪をしてるじゃあないか。それで……」
「わたしは駆け引きがしたいわけではないですから、正直に言います」言いかけたGhoulを制してKutoは口を挟む。この均衡が厭らしい。「あなたが死んだらこちらの首輪も爆発しちゃうし、逆も然りということです」
Ghoulは一瞬、驚いた表情になったが、すぐに強張った笑顔を作った。
「まったく、厄介なこった。運命共同体ってわけか。こいつは参った」
「そういうわけで」
そういうわけで、だ、とSiは右腕に全神経を集中させながら言う。もしこのGhoulがおかしな真似を仕出かそうとしたら、指のひとつでも動かす前に、その頭をホルスターのPolice Pistolでぶち抜いてやろうと、そう気を張り詰めて。
「この椅子がぶっ飛ばされたら、あんたの首がぶっ飛ぶことになる」
が、Siの警戒は無用なものとなった。
「オーケィ、オーケィ」
Ghoulは両の手を持ち上げた。その掌を広げて見せると、握られていたのはただのSiera Madreチップであった。
「なるほど、死がふたりを分かつまで、いや、三人か、とにかく、一緒ってわけだ。オーケィ、相棒。Dean Dominoだ。よろしく。で、どうするよ?」
Companion: Dean, Joined
Perk: Unclean Living: Gotten
Quest: Find Collar 14: Dean Domino, Finished
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