かくもあらねば/17/11
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Last Luxuries
.308弾がカジノで発見したAutomatic Rifleによってフルオートで叩き込まれ、Ghost Peopleは吹っ飛んだ。いちいち追撃をかけて四肢を切り裂き、あの赤い霧を抜く必要はなく、頭を失ったGhost Peopleはばたりと倒れた。
Level UP: 21→22
New Perk: Jury Rigging
「これで最後か?」弾切れになったAutomatic Rifleを放り出し、Siは尋ねる。
「たぶん……、そうみたいですね」
そう答えたのは鎖を精一杯伸ばして柱の影に隠れていたKutoだった。きょろきょろと辺りを見回すと、安堵した表情で、おつかれさまです、などと言って出てくる。SiとしてはSumikaに尋ねたつもりなのだが。
いつの間にかカジノ内部に、Ghost Peopleたちが侵入してきていた。少数であるとはいえ、得体の知れない化け物である。脅威であることには間違いなく、しかしSiにとっての懸念はGhost Peopleの存在そのものではなかった。
「Sumika、大丈夫か?」
「たぶん……。うん、今のところは、大丈夫」
彼女の声調がいつもどおりのものであることにほっとしつつ、Siは言った。「あの化け物たちのことじゃないぞ」
「え? 違うの?」
「おまえのことだよ」ふぅと大袈裟に溜め息を吐いてやる。「あれが侵入してきたってことは、たぶんあの赤い霧も入ってきてるってことだろう。体調は大丈夫か?」
「あ、うん」
姿は見えなかったが、Sumikaが慌てたように頷くのがわかった。
「そうか」
「Si……、優しいね」
この場でいつまでももたついているつもりはなかった。今はそこまで赤い霧の濃度は濃くないようだが、いつこのカジノ内部も外と同じような状態になってしまうか、わかったものではない。
Dog/Godには対処した。残りはふたり。
首輪つきを探してSiたちが向かったのは、ホテルの客室のような場所だった。
「なんか出そうな場所ですね」
これとか、と言いながら、Kutoは両の手を肩のところまで持ち上げ、垂らしてみせた。幽霊が出る、とでも言いたいのだろう。しかし妖精と比べれば、幽霊などなんでもない。だいたい、Sierra Madreに繁茂しているGhost Peopleなどは、亡霊と変わらない。
そんなふうに考えていると、急に女の声が聞こえてきた。
『Sinclair? Sinclair、いるの?』
明らかかに人間のものではないノイズのかかった声に、Kutoがびくりと震えてSiの腕に抱きつく。「な、なんですか、今の?」
「セキュリティプログラムの音声だろう」
手近なドアを開けて見てみると、思ったとおりに薄ぼんやりと光る女の姿があった。他で見たような警備員の制服を着ておらず、ドレス姿だが、セキュリティに間違いなかろう。近づくと、危険だ。
そう教えてやったが、Kutoの不安そうな表情は変わらなかった。
「なんでセキュリティが男の名前を叫びながら徘徊するんですか?」
「そういうサービスだろう」
「意味がわかりません」
「ここは戦前はホテルだった場所だろう。警備服の人間がうろついてたら、おちおち休めない。だからドレス姿の女が警備をしているというわけだ」
「ごめん、わたしもSiの理屈はわからない」
そんなふうにSuikaに言われてしまったので、未だKutoは食い下がる姿勢を見せていたが、言い争うのを辞めた。だいたいこんなに賑やかにしていたら、セキュリティに見つかってしまう。
警備に見つからぬように辿り着いた場所は、スウィートルームらしき部屋に通じる両開きの扉だった。戸が開き、SiがPolice Pistolを突きつけると同時に、相手もこちらの額に銃口を突きつけてきた。
硬直を破ったのは、Kutoの声だった。
「Chris?」
「やっぱり、あなたたちか」
そんなふうにChristeanが言いながら銃口を降ろすのを見て、Siは驚いた。
「喋れるようになったのか?」
「この部屋に、Auto-Docがあってね」Christineは一度咳をしつつも、女性らしい声で応じる。「少し……、喋るのが辛いけど、なんとか」
●Auto-Doc
戦前に作られた自動医療機械。
診断から治療プログラムの作成、投薬に施術と、あらゆる治療を一通り行うことができる。
「良かったねぇ」
Kutoが無邪気な笑顔を浮かべるのを見て、Siは心が動かされそうになった。彼女はCaesar's Legionに組している可能性があり、NCRに所属しているSiにとっては敵だ。このSierra Madreでは爆弾首輪と鎖で繋がれているために一蓮托生、協力し合っているわけだが、Mojave Wasetelandに戻ったら、銃を突きつけなければならない相手なのだ。
Siは首を振り、雑念を消し去った。今はとにかく、この場所から脱出しなければならない。この首輪を断ち切って。NCRの犬はもう懲り懲りなのだ。さらに首輪をつけられるのは、ごめんだ。
「あなたたち、今もElijahの命令を聞いて行動しているのね?」
Christeanの問いかけに頷いたのは、Kutoだった。「いちおう、そうなりますね。機会があったら、どうにかしたいんですけれど」
「Elijahのために行動しているってわけじゃないのね?」
「言うことを聞かされている、だ」とSiは言ってやる。「カジノの外と同じだ」
「じゃあ、目的地は同じね」Christeanは決意を湛えた目で言った。「あの男を、殺して」
「言われなくても、そうするつもりです」
即答したのはKutoで、やはり恐ろしい女だとSiは感じた。
「わたしはあの男……、Elijahのことを、ずっと追っていた」とChristeanは語る。「あいつは生きてはこのカジノから出すつもりはない。あの糞っ垂れが仕出かしたことは、言葉じゃ言い表せないくらいの悪行。だから、殺す。打ち殺す」
「何かあったんですか?」
「個人的な事情……。ここじゃない、もっと遠いところ。Big Emptyとかいう場所でね、この傷をつけられる前に、いろいろあってね。ま、”Empty”だなんてのは嘘っぱちな場所だけど」Christeanは肩を竦める。「そうそう、あの男が使っている銃やホログラム発生装置、それにこの首輪なんかは、そこで見つけたもの」
「じゃあ、解除もできたりとか………」
「さすがにそこまではできない。わたしができるのは、せいぜいカジノの外で見せたように、起爆までの時間を長くできるくらい。ただ、起爆装置を破壊か隔離かすれば、安全に外せる」
「ふむ」Kutoは頷く。「やっぱり、Elijahさんを殺さないと駄目ってことですね」
うん、とChristeanは頷く。「チャンスはあの男が金庫へ向かうときだけだと思う。残念ながら、わたしはElijahに警戒されているから、金庫までは辿り着けないと思う。いちばん警戒されていないのは、あなたたち。わたしはあなたたちのことを信じることに決めた。だから、あなたたちに彼を殺すことをお願いしたい」
そう言って、Christineは何かを投げて寄越した。Kutoが受け止めきれずに零しそうになったところを、Siがキャッチする。
「おぉ、牧師さま、ナイスキャッチです」
「運動神経と反射神経、悪すぎだろう」
「女の子はこんなもんです」
「女の子だ?」
SiとKutoのやり取りを見てか、Christeanは笑った。久しぶりに声をたてて笑ったのであろう、苦しそうな笑い方だった。「あなたたち、ほんとに良いコンビみたい」
「で、なんだ、これ? どこの鍵だ」
Christeanの言葉は無視して、Siは尋ねた。
「ここの女主人……、いや、違うかな。このカジノの主人がいちばんに迎えたかった女性の、洋服箪笥か、金庫か何かの鍵」
「で、それがなんなんだ?」
「彼女の肉声が入ったホロテープが何処かにあると思う。それを使えば、カジノのシステムを掌握できると思う。適当に使って」
そういえば、Elijahは声がどうのと言っていたか。特別ゲストとして登録されていた声が同じ、とかなんとか。もしやそれは、Christeanのことか。ならば、なぜ彼女の声がその声と同じなのか。
「さぁ」と彼女は肩を竦めた。「たまたまじゃないの」
「ふむ」
「たぶん、その特別ゲストとかいう人だけど……、彼女の亡骸は、この奥にあった。大量のMed-Xとともに、ね」ちらりとChristeanは背後を振り返る。「医療カルテを見る限りじゃあ、何か末期の病気だったみたい。戦前の技術でも治療できないような、不治の病で、たぶん酷い痛みがあったんだと思う」
「そのおかげでこの部屋にAuto-Docがあったわけで、Chrisも喋れるようになったってわけですね」
明るい声で、Kutoは物事を肯定的な方向に持っていこうとする。その様子を見てか、Christeanは小さく笑った。「そうかもね」
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