13
Heist of the Centuries

「あっぶねぇ………」
首輪の信号音が止まったのを確認して、Siは思わずそう口走った。

Deanを殺した直後に、SiとKutoの首に嵌められた爆弾首輪が、スピーカーが近くにあるときと同様に作動を始めていた。Elijahの弁によれば、他の首輪つきが死んでも、すぐに別のフロアに移動すれば連鎖反応はしないという。Elijahは他のふたりの首輪つきをも殺そうとしていたのだから、彼の言葉は真実なのだろうという予想だったが、信用はしきれなかった。なので、実際にフロアを移動して、首輪の反応が停止したときには、心の底から安堵を感じた。

「Sumika、ちゃんと付いてきてるか?」とSiは確認する。
「うん、大丈夫……」Sumikaは応じ、しかしすぐに何かに気付いたように、「あ、でも……」と呟く。

「いやぁ、心臓が止まりかけましたね」
息を切らせて、しかし表情は笑顔でそんなことを言うKutoに向かって、SiはHolo Rifleの銃口を構え、引き金を引いた。
Kutoが一歩も動かなかったおかげで、銃弾は彼女の背後にいたGhost Peopleを直撃、頭が四散した。またGhost PeopleたちがCasinoに侵入してきたのだ。
「牧師さま、さすがこういう状況には慣れていますね」
きょとんとしていたKutoも、Lever Action Shotgunを構えてGhost Peopleへと向け、引き金を引いた。Siとは違って狙いはいいかげんなものだが、散弾ゆえに拡散した弾はGhost Peopleの身体を貫き、四肢を捥ぎ取る。

おまえもな、とはSiは言い返さなかった。Kutoに対し、得も知れぬ不安感を抱いていたためだ。
SiとKutoは、Mojave Wastelandでは敵対している仲だ。NCRのRangerであるSiをKutoは殺害しようとし、逆にSiは彼女を撃った。Sと同様に、Kutoも恩讐の日々を忘れてはいないだろう。
(だというのに、なぜ何も仕掛けてこない?)
Rangerの殺害を企んではいても、このElijahを倒してこの爆弾首輪を外すまでは、Siを手に掛けるわけにはいかない。それは理解できる。だが、何もしてこないというのは、不安だ。

Ghost Peopleを撃退し終えた後、Siたちはカジノの金庫へのセキュリティを解除するため、Tampicoで見つけたVeraのディスクをターミナルにセットした。楽曲が流れ出て、通常営業状態に戻った旨が示される。

「で、なんだ、そのドレスは?」
金庫へと向かうために、エレベータのあるホテルフロアに向かいながら、SiはKutoの服装について尋ねた。Tampicoで分かれたときとは違い、彼女の服装はドレス姿になっていたのだ。Siがタキシードを着ているので、まるで戦前の風景そのままだという気がする。もっともSiは、戦前の風景をこの目で見たことがあるわけではないが。
「いやぁ、こういうの着てけば、Deanさんが油断するかな、と思って」と言いつつ、Kutoは走りながらドレスのスカートの先を摘んでみせる。「正解でしたね」

Wastelandは荒廃した世界だ。常に死と隣り合わせで、他人を脅かさずに自分の生存空間を保つことは容易ではなく、人殺しなど日常茶飯事だ。Siとて、無数の人間を葬ってきた。
だというのに、当たり前のようににっこりと微笑むKutoに、Siは本能的な恐怖を感じた。

ホテルフロアまで行くと、スウィートルームにてChristeanが出迎えた。
「ようやく金庫まで行けるようになったってわけね」
「Elijahさんのほうは、どうすれば良いんでしょうか?」とKutoが尋ねる。
「金庫まで行けば、勝手についてくると思う。反撃は、そのときかな」

金庫へ向かうエレベータは、スウィートルームから通じる通路の先にあった。
その先へと向かいながら、Christeanが急に問いかけてきた。
「なんで……、彼女の記録が残っていたんだと思う?」
「彼女?」
「鍵になってた、Veraって人。カジノのシステムは、200年も、ずっと待ってたわけでしょ。そんな強固なシステムを、彼女の声ひとつで動かせるようにしてたのは、うん、なんでかな、って思って」

こいつはナイーブになっているな、とSiは思った。過去の人間が何をどう考えていたとて、それは今を生きるSiたちには関係のないことだ。無論過去から学べることもないではないわけだが、戦前と戦後では、世界は大きく様変わりしてしまった。歴史を省みることさえ難しいのだから、いちいちあずかり知らぬ他人の心情など判断するだけ無駄というものだろう。
そうした無意味なことに意味を見出そうとしているのだから、Christeanは何かに悩んでいるということなのだろう。それで神経質になっている。

さてどう返答すべきか、などと考えていると、Kutoが口を開いた。簡単なことです、と前置きしてから、こう言った。
「愛です」
「愛ね」とChristeanは肩を竦めた。「それにしちゃ、女のほうはここで死んでて、男のほうは姿かたちも見えないんだけど」
エレベータのロックが解除行っていた彼女は、ふと手を止めた。
「やっぱり、わたしも………」
「あんたはついてくるなよ」とChristeanが言い切る前に、Siは言葉を被せた。
「どうして? 元はといえば、Elijahに恨みがあるのはわたしで……」
「恨みがあるのは、こっちも同じだ。こんな首輪をつけられたんだから。だから恨みとか、そういうのはもう問題じゃない。おれが言いたいのは、あんたはあの男と出会ったら、すぐに殺そうとするんじゃないのかってことだ。あんた、あの男を殺せればそれで良いと思ってるんだろう」とSiは告げる。「それじゃあ、困る。あんたと違って、おれはここから生きて出たいんだから
Challenge: PER(7)
Result: Success
しばらくSiと見つめあった後、ふ、とChristeanは息を吐いた。「あの男の仕出かしてきたことを考えれば、殺しても飽き足らないくらい……
「あんたに巻き込まれて死ぬのは、ごめんだ」
「わたしだって死のうとしてるってわけじゃない」
でも、とChristeanはその後の言葉は続けずに、ターミナルへ向かう。エレベータのロックが解除される。
「幸運を祈ってる」とChristeanはエレベータのドアから退き、道を作る。「あの男は、本当に手ごわい。最後まで気を抜かないで」

エレベータで地下まで降りた先は、すぐに金庫というわけではなかった。何をしているのかよくわからない、しかしその存在だけはやたらと主張する大型の機械類が蠢く空間だった。200年も昔から、一時も止まらずに動いているのかもしれない。
やはり戦前から機能し続けているのであろうセキュリティを越えて金庫まで辿り着くのには苦労した。
「このターミナルから、金庫の扉が操作できるみたいですね」とkutoは途中にあったターミナルの鍵盤を叩きながら言う。
彼女が操作している間、Siは金庫の扉周辺を探索していた。すると何かが床の下を通るパイプの上にあることに気付いた。Sumikaを置いて、Siはそのパイプに向かう。

パイプの上にあったのは死体だった。白骨化しており、年齢や性別すら定かではない。近くにはホロテープが落ちており、それには、このカジノはきみへの贈り物だ、と書かれていた。書いた人間の名は、Fredric Sinclar。宛名はVeraDeanと敵対し、Veraを愛し、そしてこのSierra Madreカジノを作り上げた男は、こんなところで死んでいたらしい。
「Si、金庫の扉が開いたみたいだよ」
Sumikaが床上から声をかけてきたので、SiはSinclarの死体と別れた。

ターミナルから戻ってきたKutoとともに金庫に入ったSiが目にしたのは、黄金が積まれた眩い部屋で、なるほどさすがは金庫だな、と感心すると同時に、落胆もした。この場にあるのは確かに価値があるものなのかもしれないが、逆にいえば、金で買えるものだらけだ。Siには興味がない。
一方で、Kutoはといえば、目の前の黄金に目を輝かせていた。







0 コメント :

コメントを投稿

 
Toggle Footer