14

『やっと金庫の中に入れたか。これでSierra Madreはわたしのものだ』
金庫内のセキュリティモニタ越しに、Elijahは歓喜の声をあげた。
『いいか、何にも手をつけるなよ。そこにあるものは……、いや、何か罠が仕掛けられているかもしれないからな。とにかく、そこを出るんだ。一度上まで上がって来い』

「なんでも良いんですから、降りて来やがったらどうですか。こうやってディスプレイ越しに話をするのは疲れるんですけど」
Kutoがそう言うと、隣のSilasがじろとこちらを睨んでくる。言いすぎだ、とでも言いたいのだろうか。とはいえ彼も止めないのだから、それだけ鬱憤が溜まっていたのかもしれない。

『わたしは慎重なんだ』というのがElijahの返答であった。しかし神経質そうな喋り方の中に苛立ちが見て取れた。『そうだな、まずはそこをロックして出てもらわなければ』
「わたしたちをどうするつもりですか? 殺すつもり?
わたしの心配をしているのであれば、それは杞憂というものだ。おまえたちがいなくなったとしても、他に人材を確保する方法はある。おまえたちは、期待以上に有用だったがね……、有能すぎた。もう用無しだ』
「金庫の中身は興味がないので、わたしだけでも命はお助けしてくださいませんかね」とKutoはいけしゃあしゃあと言ってみた。
Elijahが返答する前に、Siがマイクに近づいて言う。「あんたが今、降りてこないっていうんなら、この金庫をぶっ壊すだけだ何もかもぶち壊してやる」
『そんなことをしても無駄だ。すぐに警備が作動するぞ。それに、核戦争にも耐え抜いた金庫だ。おまえたちふたりでどうにかなるものでもない』
「じゃあエレベータをぶち壊してやるよ。それであんたはもう、この金庫に降りてくることはできない」
Challenge: Repair(75)
Result: Success
『馬鹿な。そんなもの、ああ、修理くらい簡単だ』
そう返答しながらも、Elijahの声は震えていた。
「そう思うんなら、エレベータをぶち壊されんのを指くわえて見てるんだな。金庫のことは忘れて、今までどおりにおうちに篭ってろ」
『糞っ、待ってろ、今その首をぶっ飛ばしてやる』
「阿呆。こんな首輪でいつまでも縛ってられると思ったか」とSiは首輪を叩いてはったりを噛ませた。「こんなもん、中のワイヤー切って、もう無効化しちまったよ」
Challenge: Repair(75)
Result: Success
『まさか……、そんなはずが』
そう言い残してElijahからの通信は切れる。

何も考えずに誘き寄せてしまったが、これで良いのか」
「誘導、お見事でした」
と、Kutoは拍手をしてやった。
「まぁ、あとはあいつを倒して、さっさとこのフロアから脱出すれば良いわけだが……」Siは急に自らの肩に首を向けて、Kutoに向けるのとはまた別の口調で喋り始めた。「ああ、大丈夫だって、そんなに心配するなよ」

Kutoは笑いを堪えるのに必死だった。このSierra Madreに来たばかりの頃もそうだったが、彼には本当に妖精が見えていて、それと会話を交わしているらしい。妖精の目を通して戦う男、Ranger Fairy Eye。その滑稽さは、目の前で見ると格別だ。
とはいえ、いもしない妖精に語りかけているなどと嘲笑をすると、彼の機嫌を損ねてしまうことになる。今はまだ、彼の存在が必要だ。

さて、どうするか。息を吐いてそう呟くSi相手に、Kutoは提案してみた。
「こういう作戦はどうでしょう」


SiたちがElijahを迎え撃つに当たっての最大の問題点は、Elijahの装備であった。
まず首輪爆弾を作動させるための起爆装置を持っていることは間違いない。Siがはったりで言った、首輪を無力化を信じている可能性はあるが、それでも念のためにと作動させてはみるだろう。おそらくこの金庫の中であれば、起爆装置に電波は届かないだろうが、迂闊に外に出ると危険である。
次に防具である。戦前の武具に精通しているということで、Power Armorのような銃弾を跳ね返す重装備を持っている可能性は否定できない。相手が老人ひとりとはいえ、こちらの銃弾が通らず、しかも電波によってこちらの首輪を起爆させてくるのであれば、戦いようがないというものだ。

Siは金庫の中で身を隠し、気配を殺していた。Police Pistolを構え、いつでも飛び出せるようにしてある。
Kutoはこの場にいない。今は金塊の束を持って、Elijahと交渉に赴いている。

彼女の立てた作戦はこうだ。敵の武装が確認できない以上、目で見てそれを確認すべきである。それにはひとりいれば十分で、それはKutoが実行する。金塊を見せ、金庫まで誘き寄せる。そしてその間にElijahの装備を確認し、予め作っておいた符丁でそれをSiに伝える。
「危険すぎるだろう」
「それは承知の上です」とSiの危惧に対し、Kutoは応じた。「それに、自信はあります。わたしは、牧師さまに裏切られたことにするつもりです。もともと、わたしと牧師さまは仲が良くありませんから……、それは信じてもらえると思います。それにElijahさんの中で、牧師さまは首輪を外して自由に動いていると考えているでしょう。それなら、牧師さまの行方を知っているわたしは、すぐに殺すべきではない、まだ利用価値のある有用な存在のはずです。ですから、大丈夫です」
そう説得されては、首を縦に振るしかなかった。
武器は必要ないから、すべて預ける。Kutoはそう言って、武装は金庫の中に置いていった。
金庫の中に入ったら、Elijahさんの注意を一瞬引きますので、そのときに攻撃してくださいね」
「どうやって?」
「それは……」かぁとKutoは顔を赤らめる。「秘密です」

金塊を持ったKutoを送り出したのち、深呼吸して、SiはKutoとElijahが金庫までやってくるのを待った。
(遅いな………)
苛立つSiの耳に、足音が響いてきた。

来る。
Kutoの声は聞こえなかった。殺されてしまったということか。否、首輪が爆発したのであれば、金庫の壁越しにも音が響いてくるだろう。では拘束されてしまったのか。これで、符丁によってElijahの装備の露出している箇所を聞き出すことができない。
しかし迷っている暇はなかった。
金庫の入口が開く。
Siは飛び出し、Police Pistolを撃った。初めて直接対面したElijahは、Power Armorどころかまともな鎧も装備していない、ローブを纏ったただの老人に見えた。
その老人の頭は、Police Pistolから放たれた弾丸によって、吹き飛んだ。閉まる金庫の扉によって、Elijahの身体はうつ伏せに崩れ落ちた。

ふぅと息を吐いている暇はなかった。
Elijahは自分が死んだら爆弾首輪が爆発するようにしていたのか、それとも運悪く死体が倒れた衝撃で爆破装置のスイッチが押されてしまったのか、Elijahの死体が崩れ落ちた瞬間に、首輪がビープ音を鳴らし始めていた。
とにかく金庫から、そしてこのフロアから逃げ出さなければ。
そう思って金庫の扉に手をかけたSiは、戸にロックがかけられていることに気付いた。押しても、引いても、びくともしない。
「Kuto! おい、外にいるのか!」
どんと金庫の戸を叩いてみても、外からの返答はない。Kutoは拘束され、猿轡をされているのか。否、そんなはずはない。ElijahがKutoを拘束したのだとしたら、あんなに無防備に金庫に入ってくるはずがないではないか。

Siはようやく、自分がKutoによって閉じ込められたことに気付いた。
爆弾首輪のビープ音がだんだんとその主張を強め始めていた。


自分の手を見ると、姿が霞んで見えていた。どうやらカジノ内部で見つけたStealth Boyの効果時間が切れ始めているらしい。
(ちょうど良かったかな)
Kutoはカジノの外に出たところだった。金庫から持ち出した金塊が重いので、予想のほか時間がかかってしまったが、ここまで逃げ切れば問題はない。既に爆弾首輪も動作を終えており、Kutoの首輪から外れていた。

牧師は思いのほか簡単に騙されてくれた。
Kutoは金庫を出た後、Stealth Boyを使ってElijahをやり過ごし、彼が金庫に入ったタイミングで外のターミナルから金庫の鍵を締めたのだ。後はひたすら、カジノから逃げただけだ。金庫の鍵は中からは開けられない。大量の金塊を得られ、同時にKutoを追っていたNCRのRangerを始末できた。一石二鳥というやつである。

重い荷物を引き摺りながら、ふと牧師の言葉を思い出す。金庫を出てElijahを誘き寄せると言ったとき、彼はKutoを心配する言葉を投げかけてきたのである。まったく、人が好い。自分が殺されるとは思っていなかったらしい。

「さて、帰りますか」
「そんな大荷物持って、いったい何処へ帰るんだ?」
背後から聞こえてきた言葉に、Kutoはぎくりと身体を強張らせた。そんなはずはない。確実に金庫の戸は閉めたというのに、中に彼が閉じ込められるのを見たというのに、まさか。

振り返れば、銃を構えてNCRの牧師が立っていた。

Kutoは金塊の入った袋を捨て、両手を挙げた。
「よくもやってくれたな」と静かな怒りを感じさせる口調で、Siは言った。
「いったいどうやって出てきたんです?」Kutoは落ち着いて尋ねる。「まさか、金庫の扉につっかえ棒しておいた、なんてトリックじゃあないんでしょう?」
「妖精に開けてもらった。それだけだ」

Kutoは噴き出しそうになってしまった。昨今の妖精はターミナルを操作して金庫の扉を開けるのか。それは凄い。

「それで」と身体を震わせて笑いを堪えながら、Kutoは質問を投げかけた。「わたしに何か御用ですか? 後ろから撃たなかったってことは、何か訊きたいことがあるのでしょう? それとも、相手を殺す前に長々と前口上垂れるのがご趣味ですか?」
おまえがCaesars' Legionに組していることはわかっている。やつらの作戦や配置を語ってもらおうか」

なるほど、わかりました、と頷いた後、Kutoは叫んだ。
「助けて、Chris!」

Siはすぐさま反応した。横に跳び退りながら背後に銃を構える。彼の背後には、おそらくはKutoとSiが何らかの理由で仲違いしたと思ったのだろう、騒ぎを聞きつけてやってきたChristeanがいた。
「あなたたち、いったい……」
銃を構えるChristeanで稼げる時間はそう長くはない。次にKutoは叫んだ。
「Dog!」

カジノの屋上から降ってきたのは、統合人格を構成したはずのDog/Godであった。Kutoは彼に催眠をかけて新たな人格を形成する際、いざというときはDogを呼び出せるように工作をしてあった。
SiがPolice PistolをKutoに向けて発射するが、間に割って入ったDog/Godの背中で止まる。
「Dog、Mojave Wastelandまで連れて行って」
Kutoがそう命令を出すと、Dogは頷いてKutoを抱え、Mojave Wastelandに向けて疾走し始めた。Nightkinの全力疾走である。人間であるSiには追いつけようはずもない。

金塊の袋も一緒に持っていって、って言えば良かった)
Dogの肩に乗って逃走しながら、Kutoは後悔した。

Mojave Wastelandに到着し、Dogと分かれた後、KutoはNovacにある自分のアパートに戻り、ベッドに身体を投げ出した。
「あーあ………」
結局、今回の稼ぎはこれだけか、とKutoはひとり呟くと、胸の谷間に入れておいた金塊を取り出した。
死者は金を使わない。ならばせめて生きている人間が使ってやろう。


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