KutoとDidiは、Waking Cloudの道案内を受けて、様々な場所を回った。罠の解除戦前の地図の入手は大したことはなかったが、Yao Guai退治には苦労した。White Legsから奪った銃が無ければ、全員殺されていたかもしれない。まったく、このZionは危険な地域だ。

 残る一仕事を終えるため、KutoたちはZionの西区域、戦前のものであろう飛行機械が山岳に突き刺さる一角に来ていた。
「向こうに見えるのが、White Legsの駐屯地
 とWaking Cloudが最後の仕事の場所であるところのテント郡を指差す。あのWhite Legsをどうにかしてこい、というのがDanielから頼まれた最後の仕事であった。
 どうにか、というのは、つまりは撃退してこい、ということに他なく、全く人使いの荒いことだと溜め息が出てしまう。
「あそこで間違いんですか?」とKutoは尋ねる。わざわざ戦いに赴いて、別の処を攻撃したのでは馬鹿げている。
テントの近くに立っているTotemが見えるだろう。あれはWhite Legsが戦の前に用意する物だ。だから間違いない」
「Totemって、なんですか?」
「Totemは、Totem」
 と説明し難いのか、難しい顔になったWaking Cloudに助け舟を出したのは、Didiであった。
「Totemっていうのは昔インディアンが祭っていた、象徴のようなものです。様々な動物の形をしていますが……、その個々人を守ってくれます。あれはTotem Poleです。崇拝している対象を祭るための偶像ですから、基督教でいえば磔の像みたいなものですかね」
 Waking Cloudを見ると、吃驚している。どうやら彼の言葉は合っているらしい。
 なぜDidiがそんなことを知っているのかと聞くと、彼ははにかんでこう答えた。
「ぼくは1/16インディアンで、1/8はアイルランド人なんです

 彼の説明は、ほとんど理由になっていないような気がするが、Kutoはとりあえず頷いて返す。Waking Cloudが話を元に戻す。
「White Legsは戦の前に、己の力を高めて解放するために、Totemに祈りを捧げる……。今なら奇襲できる」
 やはりそんな作戦になるか、とKutoは背中に掛けているGrenade Launcherに触れた。Happy Trail Caravanの遺品である。擲弾を使えば初めは混乱させられるだろうが、KutoとDidi、それにWaking Cloudの3人きりですべてのWhite Legsを相手に出来るかと言われたら、非常に厳しいと言わざるを得ない。

「何か別の方法は有りませんか?」
 そう発言したのはDidiだった。
 初め、彼も自分と同じことを考えているのかと思ったが、よくよく聞いてみると、違った。彼は「なんとか争いにせずに済ませられませんか。戦いが始まれば、少なからず死者が出てしまいます。何とか死者を出ずに収めたいのですが………」

 思えば出会ってからこれまで、彼は一度たりとも人を殺していない。何某かの信念が有るのだろうが、よくもまぁ、このWastelandでそんな信念を貫こうと思ったものだ。Kutoは驚きを通り越して、呆れてしまった。

「たぶんDanielさんも、同じことを思っているのではないでしょうか」
 と、そんなふうに説得を締め括ったDidiに対し、意外にもWaking Cloudは頷いて同意した。
「確かに。Danielは、そういう人だ。それに、彼らもWhite Legsの戦士だ。幾ら奇襲を掛けたところで、すぐに反撃してくる。正攻法では勝てるかどうかは危うい」
 前者についてはともかく、後者については同感だったので、Kutoもとりあえず同意しておく。「でも、どうするんですか?」
あのTotemを盗んでしまうというのはどうです?」
「それは名案だ」とWaking Cloudが手を打つ。「White Legsにとって、戦いの前にTotemが消えるのは、不吉の兆し。たぶん、戦い止めるはず」

(名案、ね)
 Kutoにはどうしてもそうは思えない。確かにTotemを上手い具合に奪えれば、それでWhite Legsを撃退したのと同じ効果は得られようが、誰も傷つけずにTotemを奪うのは、奇襲を掛けて全員を倒すことよりも難しい。
 果たして、そう思った通りに行くものだろうか。

 Totemを盗むだけなら少人数のほうが良いだろうということで、言い出しっぺのDidiが名乗りをあげた。
「こういうことなら、任せてください」
 と彼はよく解らない自信を全身を漲らせていた。

Perk: Silent Running (走行中のステルスペナルティを打ち消し)

 Didiを送り出し、KutoとWaking CloudはWhite Legsの駐屯地近くの物見小屋で待った。
 が、Didiは戻って来なかった。「30分もしないうちに戻って来られるだろう」などと言っていたのに、一時間以上経過しても姿を見せない。
「まさか、見付かって捕まったのでは………?」
 不安になってKutoが言うと、Waking Cloudはすぐに首を振った。「いや、それは有り得ない」
「どうしてですか?」
 何かDidiの無事を確信できる理由でも有るのか。そんな期待を篭めての問い掛けであったが、その期待はすぐに打ち砕かれた。
「Totemを盗もうなんてしている者が見付かったら、すぐに殺される。だから捕まるなんてことは有り得ない」
 Kutoは溜め息を吐くことしか出来なかった。

 何時までも待っていても仕方がないということで、Didiの後を追うことにする。しかし、不安だ。Kutoは銃の腕前が良いわけではないし、Waking Cloudに至っては銃を持っておらず、獣の爪のような篭手と投げ槍しか持っていないのだから、戦闘力としては不安が残る。

 そんな不安を抱えながら、気配を殺し、じりじりとWhite Legsの駐屯地へと向かったKutoたちが目にしたのは、テント傍に横たわるWhite Legsの死体だった。
(殺したのか………)
 幾ら口では殺したくない、殺さない、などとは言っておきながら、やはり己の身が危険に曝されれば他人の目が無ければ、こうして簡単に殺すのか。
「いや、違う」
 まるでKutoの心を読んだかのようにWaking Cloudが死体の様子を見て言う。近づいて確かめてみれば、確かにその死体の身体には、矢傷どころか銃創さえ無い。有るのは何か獣に引っ掻かれたか、噛み付かれでもしたような傷ばかり。
 殺人者が誰なのか、少し進んでみて判った。巨大なCazadorが横たわっていた。

 ●Cazador 放射能汚染によって変異した巨大な蛾。猛毒を有し、特に巣に近づく者に対して積極的に襲い掛かる。

 死んだCazadorには多数の銃創があったが、矢は刺さってはいなかった。どうやらDidiがここを訪れる前に、野生動物とWhite Legsとの間で戦いがあったらしい。
「ここらのWhite Legsは、もうCazadorに壊滅させられているのかも知れませんね」
「だとすれば危険だ」
 安堵の吐息を吐いたKutoに対し、Waking Cloudはむしろ重々しい調子で応じた。彼女曰く、Cazadorは単独で行動はせずに、大抵は巣の周りで番いを作って生きるものなので、この辺りに居るCazadorはこの一体だけではなく、他にも何体かうろついている可能性が高いということだった。
「あの男、人間との戦いには手馴れているように見えたが、野生動物相手では如何か判らない。特に武装から考えれば、Cazador相手は危険だ」

 確かに彼の武器たるCrossbowでは、ひらひらと動き回るCazador相手の命中率は不安がある。装填に時間がかかるというのも、高速で山地を動き回るCazadorには分が悪い。
 出来るだけ周囲を警戒しながら、Kutoたちは急いでDidiの後を追う。White Legsの生き残りがまだ生き残っている可能性が有るので、油断は出来ない。

 遂にWhite Legsの駐屯地の対の端、テントを見下ろす崖の上で、Armored Dusterを着て大きなLeather Backpackを背負う男の姿を見つけた。
「Didiさんっ!」
 叫びかけたKutoの口を、Waking Cloudが塞いだ。

 DidiはCrossbowを構えていた。向けていたのは、彼の背後にいつの間にか迫っていたWhite Legsである。
 そしてその矢が飛ぶ先が、White Legsの腕や足ではないことは、Crossbowの構える向きを見れば明らかであった。その矢は、White Legsの頭の高さを狙っていた。頭に矢が刺されば、死ぬ。
(殺すのか)
 武器を持っている男が目の前に迫っているのだ。当然だろう。そんなふうに思いながら、KutoはDidiが誰かを殺すことを期待していることを自覚した。
(誰も殺さずに生きていくことなんて、出来るもんか)

 Didiの矢が発射された。その矢はおそらく狙い違わずだろう、White Legsの背後に居たGiant Cazadorの頭に突き刺さった。彼が狙っていたのは己に武器を向けるWhite Legsではない、それに襲い掛かろうとする野生動物だったのだ。

 体液を散らしながらも、Cazadorは絶命していなかった。手近な獲物であるWhite Legsに噛み付く。
 第二射が放たれて、ようやくCazadorの動きは止まった。その頃には、噛み付かれたWhite Legsは既に毒と咬傷によって死亡していた。
 Didiは死んだWhite Legsに近寄ると、その目を瞑らせて十字を切った。己を撃とうとした敵を守り、死しても尚弔おうとするその姿から感じたのは、妖精が見えるという牧師以上の異常性であった。


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