1458年03月15日
357日目
蠍、二百にて千と当たること


Name: Rana
Sex: Female
Level: 18
HP: 55
Attributes: STR12, AGI15, INT12, CHA12
Skills:
【STR】鋼の肉体4, 強打4, 豪投4
【AGI】武器熟練3, アスレチック5, 乗馬2, 略奪3
【INT】訓練2, 戦略2, 観測術2, 荷物管理2, 治療2
【CHA】説得3, 捕虜管理1, 統率力4
Proficiency: クロスボウ177, 長柄武器164, 火器113
Equipment: 貴婦人の頭布, サランの鎖の上着, 痛んだ薄片の篭手, 粗雑なLeather Steel Greaves
Arms: エレガント・ポールアックス, 重い投擲斧, 狩猟用の弩弓, 大袋入りの鋼鉄のボルト
Horse: 重い駿馬
Companions: ユミラ, バートル


 雨が降っていた。



 馬の身体がひどく熱い。このまま襲歩を続けていれば、足が完全に駄目になるか、もんどりうって倒れるかするだろう。それでも馬に拍車を掛けぬわけにはいかなかった。

 ドロクバ、シャリズ、アーメラッド。主要な4都市のうちの3つをカーギット・ハン国に奪われた今、バリーエの街はサラン朝にとっての生命線といっても過言ではない。
 街は人と金を産む。そして戦争にとって最も重要なのは、戦略でも戦術でも、武器や兵器でもない。人と、金だ。その二つさえ揃えば、軍隊を作ることが出来る。だからこそ、街は重要なのだ。

 そしてその最後の街、バリーエがカーギット・ハン国の兵に囲まれようとしているという連絡が入った。時悪く、サランの将はほとんどが奪われた他の城や街の奪還へと赴いていて、バリーエには僅かな守備隊しか残されていなかった。たまたま近くに居たのが、ウズガに寄っていたラナの隊である。
「放っておけ」
 ラナの中のフライチン女伯がそう叫んでいた。
「だいたいおまえは、なにをやっているのだ。おまえにハキム帝の暗殺を命じてから2ヶ月も経っているのだぞ。それなのに、え、おまえはなにをやっていたんだ。暢気に領地を見回ったり、賊を退治したり、敵国と戦ったり、いつからおまえはサランに染まったのだ? わたしへの恩を忘れたのか?」

 だがその言葉よりも、もっとはっきりと見えるものがあった。サランの最後の砦たるバリーエには、ラナにとって守るべきものがあるのだ。

 なんとか、間に合った。まだカーギットの軍勢は攻城梯子を作っている段階のようである。敵と接触しないように大きく迂回して、バリーエの街に入る。
 バリーエには取り残された数十名の守備隊と、領地を持たない貴族たちの妻子が居た。戦を指揮できるような貴族は居ない。しぜん、ラナが作戦指揮官に成る。兵たちを見張りや監視の任に当たらせ、他は休ませる。


「敵はかなりの大軍みたいですね」とラナは街の各地を見て廻りながら、守備隊長に言う。「となれば、相手の兵糧が尽きるのを待つほかないでしょう。現在の戦力比は?」
「こちらは守備隊とラナさまの兵、全員で240人です」
 240人。悪くない数だ。街の守備塔に全方位を見張らせるように配置し、さらに四人一組で交代の見張りをさせても、まだ余裕の有る数である。
「対して敵は……」と言った守備兵の声は震えていた。「およそ1200人です」

 240対1200。

「紋章は、アカダン卿、カラバン女伯、ドゥンドゥシュ卿、ベリール卿、クラムク卿、ナスゲイ卿、ウルムダ卿、グラッセン伯爵、トゥルグ卿……、カーギットの半分以上の戦力がこのバリーエに集中しているようです」
絶望的だな」
 と一緒についていたバートルが言った。
 確かに、彼の言うとおりだ。ここ2ヶ月ほどで僅かながらとはいえ、戦のなんたるかを知ったラナにも、この戦力差が圧倒的なものであるということは理解できた。如何に二重の守備壁を敷いたバリーエとはいえ、1000を越える敵に囲まれてはどうしようもない。おまけにバリーエは孤立した地であり、援軍も期待できない。いや、援軍があったとしても、1000を越える軍隊に太刀打ちするのは不可能に近い。

「ラナさま、降伏しましょう。この戦力差は、どうにもなりません」
  守備隊長の声は、震えてはいたものの絶望を讃えたものではなかった。ラナが降伏すると思っているからだろう。白旗を振ったとなれば責任を追及されるだろうが、現在の防衛戦の指揮官は彼ではなく、ラナだ。責任を問われるのもラナで、ならば彼がすることはといえば、己の安全を考えるだけで良い。
 バートルの意見も、彼と同じようである。元はといえば、彼はロドックから密命を受けた人間だ。サランがどうなろうと、知ったことではないのだ。

 だがラナは首を振った。
 降伏できない理由が有った。既にカーギット陣営に使者を送っており、降伏の条件を告げられていた。そして敵は、ラナがこのバリーエで何よりも守りたいものを要求していた。

 降伏の条件は3つ。
 ひとつ、バリーエを引き渡すこと
 ひとつ、5000デナルを身代金として差し出すこと。
 ひとつ、バリーエに滞在しているハキム帝が息子、アジズを捕虜として引き渡すこと。

 攻撃は到着したその日の夜に始まった。



サラン朝 対 カーギット・ハン国
サラン朝 240名
ラナ
バリーエ守備隊

カーギット・ハン国 1229名
アカダン卿
カラバン女伯
ドゥンドゥシュ卿
ベリール卿
クラムク卿
ナスゲイ卿
ウルムダ卿
グラッセン伯爵
トゥルグ卿

結果 引分

 街壁は死体だらけだ。サランの兵士、カーギットの兵士、皆等しく同じように伏している。だが数は、カーギットの兵士のほうが多い。死傷者負傷者合わせると、こちらが140、敵は400近くといったところか。



 ラナは守備塔に登り、敵の陣営を確かめた。カーギットの兵たちは一度バリーエに攻め込み、そして撤退した。だがまだ遠巻きに囲んでいる。またすぐに攻め込んでくるだろう。疲れた表情の見張りを激励し、ラナは守備塔を降りた。
「ラナ!」
 と高い声が投げかけられる。声と共に走り寄って来たのは、サラン特有の黒髪に褐色の肌の小柄な少年であった。
 少年の身体を抱きとめて、ラナはしゃがみ込んで彼と目線を合わせる。
アジ、どうして出てきたの。ここは危ないから、ちゃんと隠れていなさい」
 ラナの言葉を受けて、でも、と彼は視線を伏せた。悲しそうな表情であるが、でも、で済ませられることではないのだ。
 少年の名はアジズ。まさしくカーギットが要求している当人であり、サラン朝の王、ハキム帝の息子だ。
 そして彼こそが、ラナが降伏できぬ理由そのものであった。

「ラナ、そんなこと言わないであげて。ラナが怪我したって聞いて、アジも心配していたんだから」
 そう言ったのは、どうやらアジズをここまで連れてきたらしいユミラであった。
 確かに彼女の言うとおり、ラナは矢を腕に受けはしたものの、命に関わる傷ではなかった。それに怪我をしているのは、このバリーエのどの兵士も同じだ。ユミラとて、銃を手に防衛戦に参加したものの、足を負傷して、今は杖をついている。それでもアジズを連れて来てくれたのだから、彼を可哀想に思ったのだろう。
 だがこの場所は、良くない。壁にもたれかかる兵士から、街壁の上から、守備塔から、窓から、あらゆる方向からアジズに視線が集中しているのを感じ、ラナは彼の手を引くと、バリーエの宮殿の中に戻った。
 バリーエの守備兵たちは知っている。アジズを守るためにラナが投降しなかったということを。アジズさえ居なければ、勝ち目の無い戦いを強いられることも、怪我をすることも、戦友を失うことも無かったということを。



「敵に見付かったら、自分の身分をすぐに明かすんですよ。絶対、抵抗しちゃいけませんからね」
 貴族用の隠し部屋へとアジズを連れて行きながら、ラナは彼に言い聞かせる。
 ラナのような成り上がりと違い、アジズは由緒正しい産まれながらの貴族だ。貴族は戦いに負けても、命までは取られはしない。それが騎士道だ。少なくとも大義名分はそうなっていて、だから貴族相手の戦は大将を上手く捕虜にすることができれば、身代金として大金をせしめられる。金を欲しがる人間は、下手な客よりも捕虜を優遇するくらいだ。
 それを知っているからこそ、ラナはアジズに、自分の身分をすぐに明かせと言った。生かしておけば金になる、逆に殺せば騎士道を問われると思わせれば、命は助かるのだ、と。

「ラナ、絶対無事でいてね」
 とアジズはラナの言うことをきちんと理解しているのかいないのか、そんな泣かせることを言ってくる。ラナは頷いてやった。
 ハキム帝の夜伽のひとりであった奴隷との間に産まれたアジズは、母親を亡くして親の愛に飢えていた。どうやらラナは彼の母親に似ているようで、アジズはすぐにラナに懐いたのだ。子犬のように擦り寄ってくる彼を見ていると、見捨てることはできなかった。

 角笛の音が響く。敵襲がまた始まった。ラナはエレガント・ポールアックスを取って駆けた。負けられない。この戦いは負けられないのだ。

 アジズに言い聞かせたことは嘘ではない。貴族は殺されない。
 だがそれも、サラン朝が存続し続けられている限りにおいてのことだ。サラン朝が完全に没落すれば、つまりサランが国としての体面を保てなくなれば、アジズを捕虜として持て成していても意味が無くなる。いや、金が引き出せないと判った時点で、アジズは殺されてしまうだろう。国あっての貴族、国あっての身代金だ。
 だからこそ、このバリーエを引き渡すことはできないのだ。引き渡せば、アジズはいずれ殺される。まだ十に満たない子どもだ。でなくても、幼いながらラナを心配する彼を守らずにはいられない。


 二重の防壁に梯子をかけて乗り込んできたカーギットの兵の頭に狩猟用の弩弓を向け、ボルトを撃ち出す。ボルトは頭に突き刺さったが、敵兵はぴんぴんしていて、そのまま剣を振るってきた。どうやら兜のせいで頭まで貫通しなかったらしい。

 剣をエレガント・ポールアックスで受け流し、ラナは後方に飛び退く。何かに躓き、尻餅をつく。踏みつけたのは、サラン兵の死体であった。既に守備兵の8割以上が戦えないほどの傷を負うか、死んでいた。

 死んでいたサラン兵のマスケット銃を掴み、目の前のカーギット兵に向ける。ボルトを防ぐ鉄兜でも、黒金の弾丸は防げない。



 次々と梯子を駆け上ってくる兵士に向け、ラナはエレガント・ポールアックスを振るった。王を暗殺するために鍛えられた蠍の尾を、王の子を守るために振るった。数数多の首を落とし、城壁の上に曝した。

 だがその奮闘も僅かな間のことである。矢の雨を受け、蠍は守備壁から落下した。



サラン朝 対 カーギット・ハン国
サラン朝 100名
ラナ
バリーエ守備隊

カーギット・ハン国 874名
アカダン卿
カラバン女伯
ドゥンドゥシュ卿
ベリール卿
クラムク卿
ナスゲイ卿
ウルムダ卿
グラッセン伯爵
トゥルグ卿

結果 敗北(捕虜カウント 0→1)

 雨が降っていた。



 1458年3月15日、この日、サランのすべての都市はカーギットのものとなった。
 

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