おかしな報告が上がってきたAlpha、Delta、Foxrot基地へ赴き、Rangerに直接確認した結果、共通して返ってきたのは、「そんな報告していない」という応答であった。


 報告を上げているRangerが嘘を吐いているのではないのなら、現在起きている異常事態を説明するのはふたつだ。ひとつはRayers技術士官が嘘を吐いている可能性。もうひとつは、Rangerの作成した報告内容が途中で捻じ曲げられている可能性。
 そして後者の場合の犯人の手掛かりは、Alpha基地のRanger Lineholmが教えてくれた。
「死傷者の報告だとかは、Golf基地のRanger本部がやってるんだけど……」
「Golf基地?」
「そう。Chief Hanlonが……」


 SiとSumikaはGolf基地へと向かった。
 明け方、SiはGolf基地の宿舎の二階バルコニーで、Chief Hanlonがやって来るのを待った。


 朝日と共に、伝説的なRangerはやって来た。
 Siの姿を見て、彼は驚く様子もなかった。いつぞやのすぐ死にそうな坊ちゃん兵士か、などと言った。Siが既にホルスターから抜いて隠していた銃を突きつけてなお、彼の態度は変わらなかった。
 Siは銃口を向けたまま椅子から立ち上がり、代わってHanlonを椅子に座らせた。そして、言う。
「Hanlon、あんたの仕出かしたことについては調べがついている
 Siの威圧的な言葉にも、Hanlonは驚いたり怖気づいたりする様子を見せず、ただ肩を竦めて言った。「ここじゃあなんだ、おれの部屋に来てくれ」


 椅子から立ち上がろうとするHanlonに対し、Siは引き金に指をかけかけた。Hanlonは腐ってもRangerだ。激しい銃撃戦にもなりかねない。
 だがHanlonは、そんなSiの心を読んだかのように、僅かに微笑むと、「怯えなさんなって。老犬にはもう噛み付く牙なんてない。それに、ここで撃ちあいになったら、おまえは死ぬぞ。何人のRangerが詰めてると思うんだ。引き金引くだけで戦争犯罪者だ」と言った。

 Siは銃を身体の影に隠すように構えたまま、Hanlonの先導に従った。連れて行かれたのは、どうやら彼のオフィスらしい小さな部屋であった。


さて、まず訊きたいのは、とHanlonが椅子に座って言った。
「よく気付いたな? 最初から銃口向けてきたんだ。当てずっぽうってわけじゃあないんだろう?」
 当てずっぽうだ。Golf基地のChief Hanlonのところに情報は吸い上げられている、ということを聞いて、Hanlonが今回の異常情報の犯人かもしれないと思っただけだ。
 だがSiには、その思いつきの裏づけを取るための方法があった。正確にいえば、Sumikaに。
 Siには潜入するに難しい場所でも、Sumikaなら入れる。結んだばかりの彼女と結びつける紐を外すことには断腸の思いであったが、Chief Hanlonを怪しんだSiは、SumikaにRanger基地の中で証拠を探してもらった。すぐに証拠は見付かった。

 だがそうした過程を、彼に正直に話す理由などなかった。
「このまま死ぬか、逮捕されるかを選べ」
 Siが言うと、Hanlonは大袈裟な身振りで溜め息を吐き、首を振った。「だから言ってるじゃねぇか。おまえ、おれをいま撃ち殺そうもんなら、それで戦争犯罪者だ。おれを誰だと思ってるんだ。Ranger本部のChief Hanlonだぞ。おまえが集めた証拠なんて、どうせ物理的なものじゃあないんだろう? コンピュータ上に残っている情報も、おれが操作しなければそのうち消える。おれを殺せば、おまえは終わりだ。それでも撃つのか、え?」
 Siの指が震えた。そうだ、終わりだ。ここでHanlonを撃ってしまっては、SiとSumikaがNCRから抜け出すために積み上げてきたものが、すべて台無しになってしまうのだ。
 ここで彼を見逃す、という選択肢もない。Golf基地は彼に掌握されているに違いないのだ。彼から銃口を逸らせば、大量のRangerに狙われる結果になるやもしれない。
(この男を拘束、盾にした上でRangerの射線を掻い潜ってGolf基地を脱出し、ほかの基地でMoore大佐と連絡を取る………)
 そんな離れ業が、果たして可能なのか。

「あんたは、なんでこんなことをした。Caesar's Legionに組しているのか」
 追い詰められたSiは、そんなことを口走っていた。
「おれはRangerだよ」だが、とHanlonは応じる。「だが、このままだとCeasarとの戦いは終わらんということに気付いた。あれが脳溢血でもやってくたばってくれない限りにはな」


「だから、なんだ。潔く負ける道を選んだとでも言うのか」
「負けるつもりはないさ」ただな、と言ってHanlonの目つきが鋭くなる。「こんな糞っ垂れな戦い方でも勝ち目があるってのが問題だ。Hoover Damの戦いから何年経ってるか知ってるか? その間、何人のRangerや兵士が捨て駒として使われたか、知ってるか? おまえは、自分が何を守ろうとしているのか、知ってるか? いまNCRが守ろうとしているのは弱者どころか、己自身でもない。New Vegasを中心とした娯楽地帯だ。若い命散らしてそんなもんを守ってどうする」
 SiにはHanlonの言葉を聞いて、思い当たるところがあった。NCRの命令を受けて、Kingsを打ち倒し、Freesideを掌握した。Freesideは完璧とはいえなかったが、Kingsや地元住民が協力して、良い方向へ向かわせようとしていたのに、それをNCRが完全に管理下に置いてしまった。
「それが、あんたのやっていたこととどう繋がる?」
「NCRは一度痛い目を見たほうが良い。じゃないと、目が覚めない。おまえみたいな弱っちい兵士が死ぬだけだ」

 Hanlonの言い分は納得できる。
 納得できる、が、彼を見逃すという選択肢はない。SiはNCRを守りたいわけではない。ただ、逃げたいだけだ。
「弁明する気は、ないんだな?」とSiは銃を構えたまま、言う。
「ないね」
「背中を向けろ。両手を壁につけ。これからおまえを拘束する。抵抗したら撃つ。誰が駆けつけてこようが、知ったことか」
「そいつはごめんだ」

 Ranger Hanlonは、牙の抜けた老犬には抵抗する力はないと言った。だがそれは間違いで、彼の早業はSiの認知速度を超えていた。
 ホルスターにあったはずの銃は、いつの間にか彼の手の中に。そしてその銃口の先は、己のこめかみへ。
 目の前で引き金が引かれた。
 Hanlonの身体が僅かに震えたのち、倒れた。弾丸は彼の頭を通り抜け、側面の壁に突き刺さった。


 Siが声をあげる間もなく、すぐさまRangerがやって来た。
 Siは、神さまの名と、これ以上ないほどに汚い言葉を同時に放つことで、己の不運さを呪った。

逮捕と軍事裁判を覚悟したSumikaとSiであったが、逮捕されることはなかった。というのも、信じられないことだが、Moore大佐が予めGolf基地に手を回しており、Siの身に何か起きた場合は手を貸すようにと指示がなされていたらしい。
 現場検証が行われ、Hanlonの銃に彼の指紋しか発見されず、また側頭部の銃創に焼け焦げた跡があることから、Siの証言はそのまま受け入れられた。その後、遺書が見付かったことで自殺を決定付けられた。

「Ranger FE」とMoore大佐の息のかかったRangerが、Golf基地で事の顛末を書面にして纏めていたSiに声をかけてきた。「Moore大佐が、最後の任務のためにお呼びです」
 了解した、とSiが応じたにも関わらず、そのRangerはSiの前から動かなかった。
「なんだ」
「これを」
 とRangerはSiに紙袋を渡してきた。
「これは?」とSiは紙袋を振って尋ねる。何やら重いものが入っているようだが。
「Chief Hanlonからです。彼の遺言で、自分が死ぬときに立ち会っている者がいたら、その人物に渡して欲しい、と」

 Golf基地を出てから、Siは紙袋を開けた。
「何が入ってたの?」とSumikaは尋ねてみた。
 Siは無言で袋の中身を取り出す。彼が握っていたのは、45-70'ガバメント弾を発射するための、Rangerに支給される銃であった。Siも持っているHunting Revolverと同じタイプだが、装弾数が6発ではなく5発だという点と、黒金のフレームに銀色の見事な装飾がなされている点が違う。


おんぼろだな」とSiが言う。
「でも、それでも使われてたんだから、良い銃なのかもね」
 とSumikaは言ってやった。技術の低下した現在のWastelandで作られた出来の悪い模造品とは違う、人間の技術の結晶のように感じられたのだ。
「あ、ここになんか彫ってあるよ」とSumikaは銃底に文字を見つけた。どうやら銃の名前らしい。「Ranger Sequoia、だって」
「Sequoiaね」

●セコイア
 一属一種の針葉樹である。幹はあらゆる植物よりも厚く、高く成長する。
 世界一樹高が高い樹こそ、このセコイアであり、日本では世界爺という当て字を用いられることもある。

 Siは己のHunting Revolver++の代わりに、Ranger Sequoiaをホルスターに収めた。
 そして、最後の任務のために、Hoover Damへと向かった。

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