かくもあらねば/28/02
Sumikaはもはや人間ではなく、Enclaveに改造された生体兵器だ。その目は、だから人間の目では見えぬようなものも見通せるようになっている。
Sumikaが見たのは、電磁波、中でも波長の長い、いわゆる電波と分類されるそれであった。それはKutoの銃から何処からかへ向けて送られたのち、すぐにまた返ってきた。そして、Siの足元の地面に向けて、種類の違う、今度はもっと波長の短い電磁波が照射されているのに気付いた。
だから叫んだ。Si。
「そこから離れてっ!」
目の前を光線が通過し、吹き飛ばされたところまでは覚えている。
次に目覚めたときには、辺りは暗くなっていた。真っ暗というわけではないが、何も見えない。どうやらいまは夜で、しかも砂嵐が吹き荒れているらしい。
(気絶しちゃってたのか………)
Sumikaは周囲を見回した。Siの姿がない。自分は吹き飛ばされたわけだが、彼は無事なのだろうか。
「Sumika! どこだ!?」
そのとき、声が響いた。Siの声。良かった、無事だった。
「Silas! ここだよ!」
「Sumika、生きてたか!」とSiのほうでも安堵の声があがる。「で、何処だ!?」
「ちょっと待って、いま行くから……」
Sumikaは羽を広げて飛び立とうとした。が、砂嵐に煽られてすぐに落ちた。Sumikaの羽は鳥のようなものに硬いものではなく、むしろ虫の柔らかなものに近い。こんな砂嵐の中では、飛べない。
「馬鹿、飛ぶな!」とSiが声を荒げる。「いいか、おれが行くまで動くなよ」
Sumikaは待った。立っているだけで吹き飛ばされそうだったから、伏せて。
SiがSumikaのところまでやって来るまでには時間がかかった。なにせ砂嵐のせいで、声が何処から聞こえるのかも解らない上、SiはSumikaを誤って踏み潰さないようにとゆっくり移動していたらしい。
ようやく姿を現したSiは、酷い姿だった。ヘルメットが壊れてしまったらしく、露出した顔は傷だらけで、凝固した血が目立つ。目元には涙が流れた跡があった。その酷い顔で、Siは微笑んだ。良かった、と言って。
「良かった……、ほんとに良かった………」
Siは己の目に映らぬSumikaを両手で持って、涙を流した。
荒れた手と破れた膝を見て、潰れたようになった声を間近で聞けば解る。SiはSumikaよりもずっと前に覚醒していて、そしてずっとSumikaを探していたようだ。
「おまえはちゃんとここに入ってろ」とSiはSumikaをコートのポケットに入れる。「Hidden Valleyを出よう。あいつは逃げたみたいだ」
「うん」
「吹き飛ばされんなよ。着替えても良いけど、戻ったら風呂入れよな」
「うん」
「もう少しでこんな任務も終わりだからな」
「うん………」
Sumikaは言葉が出なかった。
SiがずっとSumikaを探してくれたのは嬉しかった。見えないSumikaを見つけるために、ずっと叫び続けたのだろう。喉を枯らして。
もしSumikaが死んでいたら、彼はどうしていたのだろう。ずっと、探していたのだろうか。そんなふうに思うと、素直に喜べなかったのだ。
Sumikaと一緒にいても、きっと未来はない。
今後のこと、NCRから退役したあとのことを話したことがある。
「おまえを人間に戻す方法を探そう。適当に、その辺の物を直したり、直したものを売ったりしながら旅をして、それで生計立てればいいさ」
Siはそう言ってくれた。
でも、Sumikaは信じていない。Siのことを、ではない。自分が人間に戻るなどという未来を、だ。
あらゆる物事は非可逆だ。一見可逆的に見えるものでも、それは非可逆的行為を繰り返しているだけに過ぎず、何所かで無理が生じている。Sumikaの身体も、そうだ。
(たぶん、戻れない)
Sumikaの身体を元に、いいや、元通りとはいわずとも、人間の機能を保った存在にできるとすれば、それは余程の科学力が必要だ。改造したEnclaveでも無理だろう。戦前の、いや、それを越えるような。そんなものが見付かるとは、到底思えないのだ。
勿論Sumikaには、その到底ありえないようなものを探すしかない。自分のことだ。
Siは違う。Siには、無理な旅に付き合わせる必要なんてない。NCRを抜けるのは良い。だが、Sumikaは、Sumikaは、Siに一緒についてきてほしくない。彼には彼の人生がある。
SiとSumikaは一度Novacに向かい、そこで簡単な治療を受けたのちにHoover Damへと向かった。
「なんだ、まだ行ってなかったのか」
とBOSがまさか既に壊滅していたなどとは思わないMoore大佐は見下した視線をとった。
Siから任務達成と、その過程について説明を受けたMoore大佐はしばらく口の利けない状態であったが、しばらくしてから、「ふむ、とことん悪運の強いやつだな」と頷いた。
「おれのせいじゃない」とSiは掠れた声で応じる。「問題は、あの女が使った兵器だ。たぶん、あの玩具みたいな銃が関係しているんだろうが」
「おそらく、HELIOS ONEからエネルギー供給を受けている衛星兵器の類だろうな。その程度の怪我で、よく無事だったな」
そう言って労ったときのMoore大佐の表情は、普段と比べれた幾分柔和なもので、この人を扱き使うことしか知らぬような女でも、たまにはこういう顔を見せるのだな、実は優しい人なのだろうか、とSumikaは思った。
「さて、次の任務だが、残念ながら、これは非常に簡単な任務なんだよな。ううむ、つまらん」
と次に言ったので、Sumikaはさっきまで思っていたことを打ち捨てた。
Moore大佐の言う「つまらん」任務は、Mojave WastelandのNCR各基地における無線コードの更新を伝えて回るというものである。ようは使い走りで、まさしく簡単な任務だ。
こんな任務がSiのところに回ってきた理由は三つあり、ひとつは現在NCRは各地のRangerをCaesar's Legionとの決戦に備えて移動させつつあるため、手が空いている人間がいないこと。ひとつは無線コードの更新は重要事項であり、下っ端の兵士に任せられるような任務ではないため。そして最後のひとつは、Moore大佐はSiの最後の任務としてある任務を用意しているらしいが、それまでは特に任せるようなことがなく、空いた時間を暇にさせておくのは勿体無いと思ったから、らしい。
「Sumika、あの……、ちょっといいか?」
とHoover Damを出てしばらくして、Siが声をかけてきた。なぁに、と肩に降りて訊いてみると、彼はおずおずと麻紐が結ばれた布を差し出してきた。
「これ、結んでてくれるか?」
Sumikaはその布を受け取って、すぐに気付いた。
(これ、もしかして、Aniseが使ってたやつかな………)
ベルベットの繊細な生地は、戦後の世界では貴重だ。Aniseは父親からこの布を譲り受けていて、ときたま髪を結ぶのに使っていた。彼女が死んでからは、Siが形見として大切にしていた。Sumikaが見かけることがなかったほど、大切に、大切に、まるで宝物のように。
その布の端は、汚れた麻紐と結ばれている。Siはその長い麻紐の反対側を、己の腕に巻いていた。
「かなり長いから、そんなに拘束されるもんでもないし、すぐに外せるし……、いや、厭ならべつにしなくても良いんだけど」
「でも、これ、偵察とかできないんじゃない?」
紐はかなり長いので、結ばれたまま行動ができないわけではない。しかしこのまま空を飛んでいれば、きっと紐が飛んでいるのが見えてしまう。Sumikaの存在は、その生体兵器としての特性によって、人間の脳内からは消され、都合の良いように解釈されてしまうので、たぶん紐に繋がれた布地が風に乗って飛んでいるように見えてしまうことだろう。その紐を辿っていけばSiに辿り着いてしまうので、危険である。
「いや、だから、そういう危ないことはしなくていい。どうせ、もうすぐこういう危険なことは終わりなんだ。だから………」
おまえに危険なことをさせたくないんだ、とは言わなかったが、Siの言葉が意味していたのはそうした気遣い以外になかった。
だがその決断は、あまりに危険だ。
Siはこれまで、彼自身の力だけで戦ってきたわけではない。いつも彼の傍にはSumikaがいて、彼の背後を、曲がり角の先を、暗闇を、Sumikaが補うことで、死角を消してきたのだ。SiがSumikaの姿を目にすることができなくなって、情報伝達には幾らかの不都合はないではなかったが、それでもSumikaの生体兵器としての力は大きかった。それこそが妖精の目の強さの秘密だった。
「結んだよ」
それでもSumikaが彼の提案を受け入れたのは、その結び目を解くことはいつでもできるからだ。
「どこに?」
「足首だけど、なんで?」
「いや、首とかだと急に動いたとき危ないから」Siは少し考えてから言葉を足す。「厭になったら、いつ外しても良いんだからな」
「解ってるよ」
Sumikaは足首に巻いた布を撫でた。この布地を使ったのは、きっとSiの最大限の気遣いなのだ。彼はこの布地よりも触り心地の良い布を持っていなかったに違いない。
Forlorn Hope基地で技術士官のRayesから無線のコードを受け取ったあと、SiとSumikaはふたりでMojave Wastelandの各地を回った。
「いろいろあったよね」
「そうだな」
特別、話題に花が咲いた、というわけではない。だがこれまでに歩んできたWastelandを歩みなおせば、幾らでも話すことはあった。だから、ぽつぽつと、断片的な会話ではあったものの、話題には困らなかった。
Alpha、Bravo、Chary、Delta、Echo、Foxrot。
Golf基地を除いた各Ranger基地へ、Siは無線のコードを配り終えた。帰るのが惜しかったが、ゆっくりと帰路に着いた。
「急な任務を引き受けていただいて、ありがとうございました」
とRayes技術士官は任務終了の報告を受けて、礼を言ってきた。最近Moore大佐の高圧的な態度に慣れきってしまったSiとSumikaには、その謝礼の言葉が心に染みた。
「問題は起きてないか?」とSiもサービス精神を発揮して尋ねた。
「えっと、実をいえばちょっとした問題がありまして……」とRayers技術仕官は言い辛そうに目を泳がせる。「色んな基地から変な報告が上がってきてるんです。Alpha基地で特に何の戦闘記録もないのに重傷者多数の報告。Delta基地では、Caesar's LegionがSuper Mutantを操ってたという報告が。Foxrot基地からはGreat Khanに飼い慣らされたDeathcrowの報告が来ています。どれも内容としては不審なんですが……」
SiとSumikaは顔を見合わせた。
いまHoover Damに戻っても、あるのはMoore大佐の小言と無慈悲な命令だけだ。どうせ次の任務も急ぎというわけでもないらしい。ならば、とSiは異常報告の確認任務を引き受けた。
Sumikaが見たのは、電磁波、中でも波長の長い、いわゆる電波と分類されるそれであった。それはKutoの銃から何処からかへ向けて送られたのち、すぐにまた返ってきた。そして、Siの足元の地面に向けて、種類の違う、今度はもっと波長の短い電磁波が照射されているのに気付いた。
だから叫んだ。Si。
「そこから離れてっ!」
目の前を光線が通過し、吹き飛ばされたところまでは覚えている。
次に目覚めたときには、辺りは暗くなっていた。真っ暗というわけではないが、何も見えない。どうやらいまは夜で、しかも砂嵐が吹き荒れているらしい。
(気絶しちゃってたのか………)
Sumikaは周囲を見回した。Siの姿がない。自分は吹き飛ばされたわけだが、彼は無事なのだろうか。
「Sumika! どこだ!?」
そのとき、声が響いた。Siの声。良かった、無事だった。
「Silas! ここだよ!」
「Sumika、生きてたか!」とSiのほうでも安堵の声があがる。「で、何処だ!?」
「ちょっと待って、いま行くから……」
Sumikaは羽を広げて飛び立とうとした。が、砂嵐に煽られてすぐに落ちた。Sumikaの羽は鳥のようなものに硬いものではなく、むしろ虫の柔らかなものに近い。こんな砂嵐の中では、飛べない。
「馬鹿、飛ぶな!」とSiが声を荒げる。「いいか、おれが行くまで動くなよ」
Sumikaは待った。立っているだけで吹き飛ばされそうだったから、伏せて。
SiがSumikaのところまでやって来るまでには時間がかかった。なにせ砂嵐のせいで、声が何処から聞こえるのかも解らない上、SiはSumikaを誤って踏み潰さないようにとゆっくり移動していたらしい。
ようやく姿を現したSiは、酷い姿だった。ヘルメットが壊れてしまったらしく、露出した顔は傷だらけで、凝固した血が目立つ。目元には涙が流れた跡があった。その酷い顔で、Siは微笑んだ。良かった、と言って。
「良かった……、ほんとに良かった………」
Siは己の目に映らぬSumikaを両手で持って、涙を流した。
荒れた手と破れた膝を見て、潰れたようになった声を間近で聞けば解る。SiはSumikaよりもずっと前に覚醒していて、そしてずっとSumikaを探していたようだ。
「おまえはちゃんとここに入ってろ」とSiはSumikaをコートのポケットに入れる。「Hidden Valleyを出よう。あいつは逃げたみたいだ」
「うん」
「吹き飛ばされんなよ。着替えても良いけど、戻ったら風呂入れよな」
「うん」
「もう少しでこんな任務も終わりだからな」
「うん………」
Sumikaは言葉が出なかった。
SiがずっとSumikaを探してくれたのは嬉しかった。見えないSumikaを見つけるために、ずっと叫び続けたのだろう。喉を枯らして。
もしSumikaが死んでいたら、彼はどうしていたのだろう。ずっと、探していたのだろうか。そんなふうに思うと、素直に喜べなかったのだ。
Sumikaと一緒にいても、きっと未来はない。
今後のこと、NCRから退役したあとのことを話したことがある。
「おまえを人間に戻す方法を探そう。適当に、その辺の物を直したり、直したものを売ったりしながら旅をして、それで生計立てればいいさ」
Siはそう言ってくれた。
でも、Sumikaは信じていない。Siのことを、ではない。自分が人間に戻るなどという未来を、だ。
(たぶん、戻れない)
Sumikaの身体を元に、いいや、元通りとはいわずとも、人間の機能を保った存在にできるとすれば、それは余程の科学力が必要だ。改造したEnclaveでも無理だろう。戦前の、いや、それを越えるような。そんなものが見付かるとは、到底思えないのだ。
勿論Sumikaには、その到底ありえないようなものを探すしかない。自分のことだ。
Siは違う。Siには、無理な旅に付き合わせる必要なんてない。NCRを抜けるのは良い。だが、Sumikaは、Sumikaは、Siに一緒についてきてほしくない。彼には彼の人生がある。
SiとSumikaは一度Novacに向かい、そこで簡単な治療を受けたのちにHoover Damへと向かった。
「なんだ、まだ行ってなかったのか」
とBOSがまさか既に壊滅していたなどとは思わないMoore大佐は見下した視線をとった。
Siから任務達成と、その過程について説明を受けたMoore大佐はしばらく口の利けない状態であったが、しばらくしてから、「ふむ、とことん悪運の強いやつだな」と頷いた。
「おれのせいじゃない」とSiは掠れた声で応じる。「問題は、あの女が使った兵器だ。たぶん、あの玩具みたいな銃が関係しているんだろうが」
「おそらく、HELIOS ONEからエネルギー供給を受けている衛星兵器の類だろうな。その程度の怪我で、よく無事だったな」
そう言って労ったときのMoore大佐の表情は、普段と比べれた幾分柔和なもので、この人を扱き使うことしか知らぬような女でも、たまにはこういう顔を見せるのだな、実は優しい人なのだろうか、とSumikaは思った。
「さて、次の任務だが、残念ながら、これは非常に簡単な任務なんだよな。ううむ、つまらん」
と次に言ったので、Sumikaはさっきまで思っていたことを打ち捨てた。
Moore大佐の言う「つまらん」任務は、Mojave WastelandのNCR各基地における無線コードの更新を伝えて回るというものである。ようは使い走りで、まさしく簡単な任務だ。
こんな任務がSiのところに回ってきた理由は三つあり、ひとつは現在NCRは各地のRangerをCaesar's Legionとの決戦に備えて移動させつつあるため、手が空いている人間がいないこと。ひとつは無線コードの更新は重要事項であり、下っ端の兵士に任せられるような任務ではないため。そして最後のひとつは、Moore大佐はSiの最後の任務としてある任務を用意しているらしいが、それまでは特に任せるようなことがなく、空いた時間を暇にさせておくのは勿体無いと思ったから、らしい。
「Sumika、あの……、ちょっといいか?」
とHoover Damを出てしばらくして、Siが声をかけてきた。なぁに、と肩に降りて訊いてみると、彼はおずおずと麻紐が結ばれた布を差し出してきた。
「これ、結んでてくれるか?」
Sumikaはその布を受け取って、すぐに気付いた。
(これ、もしかして、Aniseが使ってたやつかな………)
ベルベットの繊細な生地は、戦後の世界では貴重だ。Aniseは父親からこの布を譲り受けていて、ときたま髪を結ぶのに使っていた。彼女が死んでからは、Siが形見として大切にしていた。Sumikaが見かけることがなかったほど、大切に、大切に、まるで宝物のように。
その布の端は、汚れた麻紐と結ばれている。Siはその長い麻紐の反対側を、己の腕に巻いていた。
「かなり長いから、そんなに拘束されるもんでもないし、すぐに外せるし……、いや、厭ならべつにしなくても良いんだけど」
「でも、これ、偵察とかできないんじゃない?」
紐はかなり長いので、結ばれたまま行動ができないわけではない。しかしこのまま空を飛んでいれば、きっと紐が飛んでいるのが見えてしまう。Sumikaの存在は、その生体兵器としての特性によって、人間の脳内からは消され、都合の良いように解釈されてしまうので、たぶん紐に繋がれた布地が風に乗って飛んでいるように見えてしまうことだろう。その紐を辿っていけばSiに辿り着いてしまうので、危険である。
「いや、だから、そういう危ないことはしなくていい。どうせ、もうすぐこういう危険なことは終わりなんだ。だから………」
おまえに危険なことをさせたくないんだ、とは言わなかったが、Siの言葉が意味していたのはそうした気遣い以外になかった。
だがその決断は、あまりに危険だ。
Siはこれまで、彼自身の力だけで戦ってきたわけではない。いつも彼の傍にはSumikaがいて、彼の背後を、曲がり角の先を、暗闇を、Sumikaが補うことで、死角を消してきたのだ。SiがSumikaの姿を目にすることができなくなって、情報伝達には幾らかの不都合はないではなかったが、それでもSumikaの生体兵器としての力は大きかった。それこそが妖精の目の強さの秘密だった。
「結んだよ」
それでもSumikaが彼の提案を受け入れたのは、その結び目を解くことはいつでもできるからだ。
「どこに?」
「足首だけど、なんで?」
「いや、首とかだと急に動いたとき危ないから」Siは少し考えてから言葉を足す。「厭になったら、いつ外しても良いんだからな」
「解ってるよ」
Sumikaは足首に巻いた布を撫でた。この布地を使ったのは、きっとSiの最大限の気遣いなのだ。彼はこの布地よりも触り心地の良い布を持っていなかったに違いない。
Forlorn Hope基地で技術士官のRayesから無線のコードを受け取ったあと、SiとSumikaはふたりでMojave Wastelandの各地を回った。
「いろいろあったよね」
「そうだな」
特別、話題に花が咲いた、というわけではない。だがこれまでに歩んできたWastelandを歩みなおせば、幾らでも話すことはあった。だから、ぽつぽつと、断片的な会話ではあったものの、話題には困らなかった。
Alpha、Bravo、Chary、Delta、Echo、Foxrot。
Golf基地を除いた各Ranger基地へ、Siは無線のコードを配り終えた。帰るのが惜しかったが、ゆっくりと帰路に着いた。
「急な任務を引き受けていただいて、ありがとうございました」
とRayes技術士官は任務終了の報告を受けて、礼を言ってきた。最近Moore大佐の高圧的な態度に慣れきってしまったSiとSumikaには、その謝礼の言葉が心に染みた。
「問題は起きてないか?」とSiもサービス精神を発揮して尋ねた。
「えっと、実をいえばちょっとした問題がありまして……」とRayers技術仕官は言い辛そうに目を泳がせる。「色んな基地から変な報告が上がってきてるんです。Alpha基地で特に何の戦闘記録もないのに重傷者多数の報告。Delta基地では、Caesar's LegionがSuper Mutantを操ってたという報告が。Foxrot基地からはGreat Khanに飼い慣らされたDeathcrowの報告が来ています。どれも内容としては不審なんですが……」
SiとSumikaは顔を見合わせた。
いまHoover Damに戻っても、あるのはMoore大佐の小言と無慈悲な命令だけだ。どうせ次の任務も急ぎというわけでもないらしい。ならば、とSiは異常報告の確認任務を引き受けた。
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