展覧会/『void tRrLM(); //ボイド・テラリウム』

2月 22, 2020

 20年前では考えられないほど、巷ではローグライクが溢れている。

レビュー:void tRrLM(); //ボイド・テラリウム



Pros:
・限られた時間の見切りをつけた探索
・カジュアルな死に戻り
・テラリウムは良い

Cons:
・深く潜る意義が薄い
・劣悪なマップ
・長所を忘れた無限廃墟
・応用できる敵が非常に少ない



 昨今では高いランダム性によるリプレイ性が高く、育成要素がある程度リセットされるアクション・ストラテジーなどもローグライク、あるいはローグライトと呼ばれたりもするが、日本でローグライクといえば(コンシューマゲームでローグライクの形式をとったのはSFC『トルネコの大冒険』だがシリーズとしてはこっちのほうが強いので)『風来のシレン』だろう。

 非常に画期的なゲームで、昔『ファミ通ブロス』というゲーム雑誌『ファミ通』から派生した漫画雑誌(その背景からメディアミックスが多かった)があったのだが、プレイステーション全盛期でありながら「風来人のススメ」という初代『シレン』の攻略というかなんだろうこのコーナーがあって、「カラクロイドの肉を使ってテーブルマウンテンと地下水脈の村をずっと往復しているとバグって得体のしれないモンスターが出てくる」というようなネタもいやなんだこれ『シレン』がすごいというか『ブロス』が異常だっただけのようなすまんこの話は忘れてくれ。

『風来のシレン』が『トルネコの大冒険』と比べて特徴的だったのは、アイテム育成の要素が非常に高かったことだ。
『トルネコ』では基本的に目的は2種類あって、お金を貯めることと特定階層にあるアイテム(しあわせの箱)を持ち帰ることだった。前者はダンジョンに潜って手に入れたアイテムを売ることで稼ぐため、倉庫に入れたアイテム以外は売り払うのが当たり前だった。持ち帰るにしても、強い武器が一種類あれば(死んでロストしなければ)良く、予備品として持って帰る意味はあれど活用の幅は薄かった。

『シレン』になるとこれが一変する。
『トルネコ』から『シレン』で追加されたアイテム枠として壺と肉があるが、壺が大きく世界を変えた。保存の壺は大量のアイテムを一度に持ち運ぶことを容易にしたが、何よりも合成の壺による武器・防具の合成がローグライクを変えてしまった。
 石塚2祐子の漫画、『犬マユゲでいこう』では(これはシレンではなく『トルネコ2』回だが)こんなやりとりがある。

(石塚2祐子『犬マユゲでいこう A・TiEMPO』集英社、2006より)

 アイテム持ち帰って最強武器・防具を作って挑む。一般的なローグライク(というか『不思議のダンジョン』シリーズ)への認識はこういったところ、ということだろう。多くの物品を売ってしまい、倉庫に入れることはできるものの育成は困難な『トルネコ』ではありえない感覚だ。
 このシステムはのちの不思議なダンジョンシリーズ(もちろん『トルネコ』にも)に受け継がれていく。
 
 ところで2018年に『Dragon Fang Z』というゲームが登場した。2020年にスマホからSteamに移植され絶賛大不評中の『Dragon Fang』のスピンオフ作品である。
 これが素晴らしかった。
『Z』がどう素晴らしかったのかというと、基本的に一切のファームを許さないシステムだったからだ。
 まず持てる道具が少ない。正確には『シレン』と同じくらい持てることは持てるのだが、武器、盾、腕輪に敵の特殊能力が使えるようになるファングが3つ、と持っていくとスロットの空きがなくなっていき、限られた有用な道具のみを持ち歩くことになる(矢が別スロットなのが温情)。
 壺に似た箱はあるも、保存の壺のように便利な箱は存在しない。自然に取捨選択が重要になってくる。

 そして満腹度が存在しない。代わりに竜の刻というものが存在している。
 竜の刻はほぼ満腹度で、一歩歩くことにひとつずつ低下していくので実質的な満腹度だが、満腹度と違って回復する手段がほとんどない。代わりに階段を降りて次のマップに進むと一定量回復する、というシステムだ。
『シレン』では(満腹度が残っていても)一定時間同じフロアに留まり続けると突風に流されてゲームオーバーになる、というシステムがあるが、そこまでの時間はかなり長い。だから基本的にひとつのフロアはすべて探索してアイテムを回収、経験値を積んでから次のフロアへ進む、というのが正道であった。

 だが『Z』ではそうはいかない。フロアを隅々まで見回っていたら竜の刻が徐々に削られていき、最後には力尽きてしまう。『シレン』では比較的容易に手に入ったおにぎりもなく、竜の刻を回復させる道具が出るのに賭けて進むのは明らかにリスキーだ。
 だからある程度探索をスキップしながら、見切りをつけて進んでいく必要がある。これが非常に画期的だったのだ。いわゆるローグライトの『Risk of Rain』あたりも近いかもしれないが、しかし『RoR』ではひとつの面はある程度探索してしまう程度の余裕はあるので、やはり『Z』特有の要素であろう。

 さらにアイテムは持ち帰って倉庫に入れることは可能なものの、合成がない(強化はできないでもない)ため、育成要素も薄い。
 こうした要素が『Z』にカジュアルかつ単発的な探索を可能にさせた。
 ちなみに『Z』にはほかに独自要素としてファング(敵のドロップアイテムで、装備するとアクティブ・パッシブ両面で効果が発動する)やブレイブ/竜人結界(周囲に壁がないと特殊効果が発動する)もあるが、こちらは面白い要素ではあるという域は超えていない。特に竜人結界は、結局通路ではなく部屋で戦っているだけで、あんまりシレン系統と大きく変わっていないと感じる。

 さて、『void tRrLM(); //ボイド・テラリウム』である。
『ボイド・テラリウム』は『Z』をさらに突き詰めた、超簡易的なローグライクである。

 探索のバックグラウンドを説明しておくとシステム面でも説明がしやすいのでストーリーを簡単に説明しておくと、『ボイド・テラリウム』は人類が滅亡した世界で最後の生き残りの少女をテラリウムに入れて育てるゲームである。主人公はお世話ロボットで、少女の身の回りの品を集めたりするためにダンジョンを探索する。

 どう簡易的かというと、まずアイテムスロットが5しかない。
 ただしこれは初期スロットで、ストーリーを進めていくと自然に増えていくし、スキルによっては鞄の容量を増やすこともできるのだが、しかし初期は5である。武器・防具・MOD(=腕輪相当)と装備すると、残りは2枠しかない。


 さらにアイテムは持ち帰るとほぼすべて資源に変えられてしまう。倉庫はあるものの、これは探索用の物品を入れるための場所ではなく、少女のための食料を入れておく場所である。
 資源は4種類あり、アイテムによって変換される資源が違うため、特定の資源が欲しい場合は必要がなくても確保しておく必要がある。
 アイテムクラフトの種類を増やすための設計図はアイテム欄を圧迫するため、道中で使えないアイテムが鞄を満たしている、という状況すらある(上の図で表示されている6個がそれ)。


 そのうえ、ダンジョンの探索時間には上限がある。少女には満腹度や汚れ、心地良さのゲージがあり、後者ふたつは探索しながらもどうにかなるものの、満腹度は探索を終わらせなければ回復させられない。


 この3つの要素が噛み合った結果、『ボイド・テラリウム』では「限られた時間の中、限られたアイテムを回収し、ある程度見切りをつけながら探索する」というシステムになっている。
『シレン』のように、一層一層全部回っていたら、目的の階層に到達する前に少女が死んでしまうのだ。こうせざるを得ない。
 これが『ボイド・テラリウム』の面白いところである。
『ボイド・テラリウム』では最強武器は作れないし、倉庫にたくさんのアイテムを溜め込んでおくことはできない。毎回手ぶらで始まる(*1)。そして帰るときも持ち帰るものは資源かクラフトのための設計図しかない。このストイックさよ。


*1) 主人公はレベルアップごとにスキルを覚える。ダンジョン突入時にセットすることもできるので、これも含めると完全に手ぶらというわけではないが。

  
 自分は非常に気が短い人間なので、いちいち合成して最強武器を作ったり、アイテムを溜め込んだり、特定動作で稼いだりするのは好きではない。
 一般に評価の高い『風来のシレン外伝 アスカ見参』も「根性の竹刀(*2)が気に食わない」と言って売ってしまったくらいである。


*2) 100回空振りすると力の上限が上がる武器。


 もちろん『ボイド・テラリウム』でも、新規物品をクラフトをするに得られるクラフトボーナスやロール、初期スキルなどの育成要素はあるのだが、これらはシナリオを進めていけば自然と手に入る要素であって、いわゆるアンロック要素に近く、面倒さがない。


 そして、基本が死に戻りだ。
 ダンジョン内で倒れても、持っていたアイテムはすべて資源に変換され持ち帰ることができるため、道中で倒れて戻ることに一切のデメリットがない(というかそれ以外だと、特定階層に到達するしか帰る方法がない)。
 特定層にたどり着こうとしているならともかく、資源目的であればさっさと死んでしまって良いのだ。カジュアルに死ねる。『シレン』でも『Z』でも信じられないような話である。

 そういうわけで、『ボイド・テラリウム』は個人的には非常に好ましいゲームであった。
 根本的な目的がテラリウムの維持と少女の飼育なので、探索は非常に気軽なのだ。


 とはいえ問題もある。

 たとえばダンジョンを潜っていく意義が薄いこと。
 ストーリーを進めるためのクラフトの際は、特定階層のアイテムを要求される。そのために深く潜っていくことはあるのだが、その階層を超えてしまうとそれ以上深く潜る意味がない。
 アイテムテーブルは深い層へ潜ってもさして変わったようには感じられないし、そもそも強いアイテムだからといって資源に変換したときの効率が良いというわけでもない。
 スコアシステムのようなものもないため、自己満足にすらならず、特定の層に辿り着いたあとはさっさとアイテム欄を埋めて自爆するのが得である。ダンジョンの奥なら良い資源が拾えたり、下限まで辿り着いたら資源にボーナスが付いたり、というような奥深くに潜るメリットがあれば良かった。


 マップが酷いという問題もある。
 上図を見てもらえばわかるとおり、『ボイド・テラリウム』は異常なくらい通路が長い。おまけにダッシュのシステムが『シレン』などとは違い、一瞬で移動せずに高速移動するシステムとなっている。これが七面倒臭いのだ。
 特定階層ではマップが固定のこともあるが、この探索もいちいち時間だけ削っているだけのようなものなので、マップに関しては改善をしてもらいたいものである。

 挙動もあまり良好ではなく、上のダッシュが遅いというのにも関連するが、状態異常スロウになった際の動きがかなり悪い。バインドに関しても同様。
 全体的に1ターンの間隔が画面上で掴みにくいのはよろしくない。

 また、おまけダンジョンの無限廃墟では「限られた時間で選択する」という長所が失われているのが残念である。
 無限廃墟では時間の流れが違うため少女の腹具合を気にせずとも探索できる、という触れ込みなのだが、その結果としてゲームはむしろヌルくなってしまう。本来であれば時間に追われて探索を飛ばしていた部分で、アイテムを拾ったり経験値を稼げるようになったのだから当然だろう(下図では成長しすぎてしまい、アイテムが80個持てて爆破無効、相手の攻撃は基本的に効かないでダメージを吸収するようになった個体)。
 ここは『Dragon Fang Z』のように階層を変えることで復活するリソースを組み込むか、掃除や機嫌取りのように食事を送れるシステムを組み込むべきだったと思う。


 敵の活用がほとんどない、という点も気になるところではある。
『シレン』では初代でも、たとえば

  • ガマラやぬすっトドに盗まれる前に倒せばギタンやアイテムが手に入る
  • ボウヤーやおばけ大根から矢や草を回収
  • カラクロイドに落とし穴を作ってもらって特定階層を往復

と厄介な敵を利用することが可能だった(矢や草の回収は面倒なのが嫌いなのでやったことはないが)。しかし『ボイド・テラリウム』にはそうした要素がほとんどない。敢えて言うならネズミ系列に盗まれたアイテムを除染してもらったり、床をリペアにする敵に治してもらったり、などがあるが、ランダム性が高すぎて活用ができない。

 敵に関してはむしろ問題が大きく、たとえば「隣接する相手をグリッチ(いわゆる混乱)状態にする」という敵がいるのだが、これと相対すると以下のようになる。


 倒せないし倒されない。ひたすら面倒なだけであって、戦闘に関してあまり調整されていないのがよくわかる。
 ローグライクらしく、「こう倒せば得をする」というような応用力をプレイヤーに与えて欲しかったものである。

 このように問題はあるものの、『ボイド・テラリウム』は非常に好みのローグライクであった。合成・倉庫の概念がないので万人ウケはしないだろうが、自分にとってはこれで十分だ。
 ある意味で、これは初代『トルネコ』に近いのかもしれない。『トルネコ』は特定階層の幸せの箱を持ち帰るという目的のほか、金を貯めて店を発展させるのがストーリーの主目的であった。金はダンジョンで拾えるほか、アイテムを持ち帰ることでも得ることができたのだったので、かなり似ている。制作も日本のローグライク元祖をかなり意識しているのかもしれない。

 最後に本ゲームのテラリウム要素についてだが、お世話部分は探索から戻ってから特定動作をするだけで、特に面白くないし、労力もかからず、毒にも薬にもならない。
 一方でテラリウム作成はよくできている。さまざまな種類のオブジェクトがあるだけではなく、奥行きが4段階あるという点が非常に素晴らしい。
「このオブジェクトを置きたいけどデカすぎて邪魔になるかも」などということを気にするなら奥に置けばよく、主張させたいオブジェクトは手前に置けば良いのだ。
 グループ設定をさせて複数のオブジェクトを一度に動かせればなお良かったとは思うが、新規IPでそこまでは言うまい。


 なお、ネット上でレビューを見て回っていると「エラーで落ちることが多い」という意見が見られたが、Switch(バッテリー長時間版)ではストーリークリアまでは落ちることはなかった。いくらでも潜れる無限廃墟で長時間プレイすると違うのかもしれないが。
 ただし、天候悪化に伴って霧が出てきた場合に動作が遅くなることはあった。

0 件のコメント:

Powered by Blogger.