かくもあらねば/04/01
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全兵装準備良し
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全兵装準備良し
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Legionの兵士と犬を倒した後も、Siは何度も人間に向かって銃を撃った。十字架に括り付けられたPowder Gangersの男たちに向かって。
Sumikaが頼んだことだった。
正確にはSumikaが頼んだのは「磔にされたPowder Gangersたちを助けてあげること」だったが、撃たれ、切られ、全身に大小数多の傷を負った上に半日以上磔にされていた男たちは、既に死に瀕していた。磔から解いてやっても死に逝くだけだったのだ。だからSiは殺していくことにしたのだ。せめて苦しむ時間が長くないようにと。
「懺悔があるなら聞いてやる」とSiの声が響く。
Sumikaはコートの中で目を瞑っていた。それでも音は聞こえる。告解を行うSiの声。生き延びたいというPowder Gangersたちの願い。撃鉄を起こし、シリンダーが回転する音。泣き声。爆発音。砕ける音。何度も何度も。
元はといえば自分が頼んだことなのだ。頼んだものとしての責任がある。
でも怖くて外が見られない。人が死んでいく光景、Siが人間を撃つ姿。何より彼がいったいどんな表情をしているのかを見るのが怖い。
彼がLegionの兵士を殺すときもそうだ。Sumikaは怖くて彼の顔が見られない。その表情はどれだけ愉悦に歪んでいるのだろう。
「終わったぞ」
声が聞こえてSumikaは顔を上げかけたが、途中で押し留めた。
返事も聞かずにSiは歩き出す。方向は足を怪我をしたPowder Gangersの男がいた商店のほうだった。商店の中に入ると、椅子に座って足を吊った男が顔を上げた。
「なんだ……、あんたまだ生きていたのか」と彼は言った。「銃声があったから、死んだと思ったんだがな」
「この町を襲ったLegionは何人だ?」Siは入口から離れずに言った。
「知らねぇよ」
「4以上の数は数えられないのか?」
「うるせぇ、屑が。なんでおまえにそんなことを教えなくちゃいけないんだよ」男は威勢が良いが、足の傷が痛むのか脂汗を流しながら言う。
「Powder Gangersでも」とSiが医療キットの中からMed-Xを取り出して投げつける。「感謝くらい見せろ」
「こんだけあればパーティーには十分だな」Med-Xの入った注射器を足に突き立てたPowder Gangersの男が舌打ちをする。「だいたい20人くらいだろ。細かい数は知らねぇ」
「20人………」
SumikaはSiがここに来た理由を悟った。Siが目撃したLegionの兵士は死んでいたのが1人とSiが殺したのが5人。町ひとつを壊滅させるには、どんなに錬度の高い兵士でも6人では少なすぎる。もっと数多くの兵士がいたはずだと考えたのだ。
彼はまだ止まっていない。
彼はまだ戦うつもりだ。
「外には6人しかいなかった」とSi。
「あぁ? じゃあどっか行ったんだろう。籤で負けたやつは奴隷にされて連行されてたからな」
「連れて行った? どこに?」
「東のほうだ。詳しい位置は知らん」Powder Gangersの男は鼻で笑う。「なんだ? あんたヒーローにでもなるつもりか?」
Siは答えずに商店を出ようとする。
「勝手にしやがれ、糞野郎」と商店から男の声が聞こえた。
SiはPipBoyのマップに情報を入力した後、Niptonを通る線路に沿って歩き始めた。
彼が何処に行こうとしているのか、訊かずともSumikaにはわかった。
復讐。
彼はそのためだけにこの17年間、撃って、抜いて、弾を込めて、撃って、抜いて、何度も、何度も修練を重ねてきたのだ。戦う術を学んできたのだ。すべてはLegionを倒すために。Aniseが死ぬ原因となったLegionに復讐するために。
両腰の銃も、弾丸も。
服も、帽子も。
腕も足も。
頭から爪先に至るまで、そのすべてはLegionを殺すために研鑽されたものだ。
銃声がした。乾いた音が3発。
Siが野生のコヨーテを撃った音だった。洞穴の中に3匹、死んだばかりの獣が倒れ伏している。1匹は大きく、他の4匹は小さい。まるで家族のようだ、とSumikaは思った。親と、子供。それを撃った。
「Silas………?」
Sumikaの声に応えずにSiは洞穴に近づいていく。コヨーテの死体を蹴り捨てて一番深いところまで来ると、彼はしゃがみ込んだ。
「Ghoulか………?」
Siに言われて気付いたが、コヨーテのいた穴の中には死体があった。コヨーテに食い荒らされたせいか判別がいまいち付き難いが、どうやらGhoulの死体のようだ。
●Ghoul
放射能障害によって遺伝子を変容させられてしまった元人間。
放射線の影響によって外見は皮膚や体毛に大きな影響を受けたが、見た目だけではなく生物としての性質も変異した。最も大きな差異は彼らGhoulが不死に近い長寿命だということである。
Ghoulには通常のGhoulとFeral Ghoulの2種類が存在している。Ghoulは身体は変容しても理性は人間であったときのものを保っているが、Feral Ghoulは理性を失っており近づく人間や動物などを食物としている。そのため人間のGhoulに対する非難は大きい。
Ghoulは彼ら自身の爛れた皮膚を皮肉って、通常の人間を「Smooth Skin」(滑らかな皮膚)と呼ぶ。
死体は長いローブのようなものを着ていた。この辺りにGhoulの集落があるという情報は聞いていないが、いったいこのGhoulはどこからやってきたのだろう。
何はともあれ、Sumikaは少しだけほっとした。Siはただ自分の楽しみのためにコヨーテを撃ち殺したわけではないのだ。人間の身体を見つけ、助けようと思ってコヨーテを撃ったのだろう。彼はLegionに復讐するために鍛えられた人間だが、彼のすべてがLegionへの復讐のためにあるわけではないのだ。誰かを見つけたら助け、慈しむこともできる。
そういえばNiptonでPowder Gangersの男にMed-Xを分け与えてやったときもそうだ。わざわざ貴重な医薬品を分け与えてPowder Gangersに情報を喋らせずとも、銃で脅してやっても良かったはずだ。そうしなかったのは彼を可哀想だと思ったからだろう。コヨーテのほうは……、そう、洞穴の中の人影を助けようとして仕方なかったのだ。
彼はきっと大丈夫だ。
生きていける。
Legionがいなくなったとしても生きていける。
きっと復讐も捨てられる。
そう信じているのに、彼の顔を見られないのはなぜだろう。
「見つけた………」
山に登り、Raiderを蹴散らし、ついにLegionのキャンプを見つけた頃にはもう夕方になっていた。
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