かくもあらねば/04/02
2
SiはまたLegionの鎧を身に纏っていた。Niptonで殺した兵士から奪い取った狼の間抜けなマスクもつけている。しかし表情は真剣そのものだ。
人数を確認してこい、と言われてSumikaは放り出された。迷いつつも、言われたとおりにする。
Legionのキャンプにはしっかりした作りのテントが複数あり、簡易的な拠点にしてはしっかりした作りだった。火の周りに2人のPowder Gangersの男が縛られて座らされており、その周りには武装をしたLegionの兵士が2人いた。Powder Gangersの男たちは顔を腫れ上がらせており、血だらけだった。猿轡をされ、目隠しもつけている。だいぶん暴行されたようで、酷い有様だ。見るに耐えない。
テントの中を確認していく。食料品が置いてある大きなテントを除くと、他のテントにはベッドと武器を入れるらしきロッカーがあるだけの簡単な佇まいだった。テントの中には誰もいないが、ベッドは全部で10あった。
テントの外に見張りをしているらしいLegionの兵士を1人見つける。これでLegionの兵士は3人確認できた。しかしベッドの数と比べて圧倒的に少ない。犬はおそらくすべてNiptonの集会場に放ったのだろうが、兵士はもっと多いはずだ。いったい何処へ消えたのか。
もし相手が3人だけならSiは簡単にこの場を制圧できるだろう。不意打ちで火の周りの2人を倒し、残りの1人が迫ってくる前に対処できる。しかし最大でこの場にはあと7人の兵士が駐屯していた可能性がある。今は何処かへ出掛けていたとしても、いつ戻ってくるかはわからない。今打って出るのは危険だ。せめて確実に人数を把握してからのほうが良い。
(でも……、きっとSiは行っちゃうんだろうな)
Sumikaがいかに危険だと伝えようとも、彼は聞こうとはしない。彼が問題とするのは彼我人数ではないのだ。そこに敵がいるかどうか、敵は何人いるのか、どう戦えば効率が良いのか。
結局、嘘を伝えて危険を煽っても無駄なのだ。それならば正確な人数を伝えて警戒させるに任せたほうが良い。
「3人、か………」
SiはLegionの駐屯地に近づく。Sumikaもその後ろをついていく。
Legionの兵士たちはSiに気付いたようだったが、彼らの鎧を着たSiを警戒せずに出迎えようとした。彼らが口を開く前にSiはリヴォルバーを抜いて、2人の頭を即座に撃ち抜いた。
縛られていたPowder Gangersの男たちが銃声に反応して身体を仰け反らせる。今にも殺されると思っているのか、猿轡をされた口から唸り声を上げる。目隠しからは涙が溢れ出ている。
Siはそちらには気を払わずに、その場から離れた1人の男に狙いを合わせ、.357口径ロングバレルリヴォルバーの引き金を引いた。3人目の男の頭も四散した。
Siは大きく息を吐く。倒れ伏したLegionの男たちに向かって彼は何度も引き金を引いた。引き金を引くたびにLegionたちの骨が砕け、肉が飛び散る。それで飽き足らなかったのか、彼は狼の被り物を脱いで地面に叩き付けた。それに向かっても引き金を引いた。銃声が一度鳴るたびにPowder Gagnersたちが恐怖に震えた。
SumikaはそんなSiの姿を見ていられなくて、目を背けた。
「Silas!」
Sumikaが叫んだのは視界の隅に人影を捉えたためだった。
乾いた銃声とともに血の飛沫が舞った。Sumikaの声に反応して身体を伏せかけたようだが、間に合わなかったようだ。撃たれたのは肩だ。Good Springで怪我したのと同じ、右肩。
撃ったのはLegionの兵士だった。5人いる。やはりまだいたのだ。
(気付くのが遅れた………)
哨戒と索敵はSumikaの役目だ。それを怠った。怒りを発散させるSiが、復讐に燃えるSiが怖くて。しかしそれは言い訳にはなってもこの状況を打開する要素にはならない。
肩から血を噴き出して倒れ込みながらも、SiはLegionたちに向かって撃った。しかし狙いをつける余裕もなく放った弾はひとつとして当たらない。しかし回避のためか銃声が一度止み、その隙にSiはテントの傍に積み上げられていた木箱の隅に隠れることができた。
「Si、逃げないと………」
SiはSumikaの言葉に耳を貸していなかった。彼は2つのリヴォルバーの弾装に新たな弾丸を装填していた。彼は、戦うつもりなのだ。
Siは立ち上がって二挺の拳銃を構え、連射をしながら飛び交う弾丸の中に突っ込んでいく。
(あぁ………)
Silas。
腕や足に傷を穿ち、耳や肩に穴を開け、それでも前に進んでいく。
いつの間にこんなふうになったのだろう。こんなふうに成長したのだろう。強く、脆く、硬く、透明に、まるで硝子のように。
リピーター銃と山刀を持って立ち向かうもの。
怯えて頭を伏せるもの。
いずれもSilasの前に死んでいった。
Legionの兵士をすべて殺した後で、SiはPowder Gangersの2人の男たちを拘束から解いた。2人の男は何があったのかもわからぬまま逃げていった。
それを確認した後、Siは倒れ伏した。
「Silas!」
Sumikaは彼の元に駆け寄った。
出血が酷い。着ていたLegionのアーマーの性能が良かったためか重要臓器は傷ついていないようだが、何しろ傷が多い。出血が多すぎるのだ。
「Silas……、Silas!」
Sumikaは叫んだ。
早く、早く治療をしなければ。
「Silas! Silas!」
ああ、神さま。
神さま、神さま……。
何度でも祈ります。
彼を助けてください。
助けてください。
ありとあらゆる害悪から、彼を守ってください。
*
「銃声かな……?」
KutoはED-Eを振り返って言った。ちょうどNovacに到着したところだった。
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