展覧会/OtoZ

5月 17, 2011
 エンディングが良いというのは良いゲームのひとつの条件であると思う。

■O to Z
→作成元 信じた俺が馬鹿だった[ http://www3.synapse.ne.jp/dio/ ]
→DLページ OtoZ[ http://space.geocities.jp/soukobankayamatu/otoz.html ]

 しかしながら対偶の『悪いゲームはエンディングも良くない』というのは真ではない。
 これは倫理の問題でも数学の問題でもなく、娯楽の問題なのだ。

 理由は簡単。つまらないゲームの場合はエンディングまで辿り着けないからだ。

●チャコ

元傭兵。銀の靴は持っておらず、トトさえ連れていないドロシー。
勇者アクエスのパーティーの一員の剣士だったが、魔王の軍勢の敵将、虎天によって自分以外の全員を殺され、虎天への復讐を誓う。
もともと剣の才能はなかったが、一応は努力家なのでその辺の傭兵程度の実力はある。しかしオープニングでの虎天との戦いで片腕を負傷、後遺症のために片手でしか剣を扱えなくなってしまった。そのため非常に弱い。最後まで弱い。最高レベルまで育ててようやく覚える技はその辺の傭兵も覚える技である。もちろん覚醒やクラスチェンジなんてものもない。仲間のメインの3人(シュロット・ノイル・スミス)は最低一回はクラスチェンジしてパワーアップするというのに。
実力はないが、意志は固い。SRPGの主人公。ちなみに容姿は端麗で、これは一応評価されている。

 どんなゲームでも一度手にしたら遊び尽くさねば気が済まないという人ならばともかく、普通だったらつまらないゲームは投げ出す。結果としてエンディングまで到達することはできない。
 逆にいえばエンディングを見ることのできるゲームというのは、エンディングまでプレイさせる程度の面白さは少なくとも備えてあるといえるだろう。

 そういう意味で、エンディングについて問えるゲームが良いゲームの条件になりうる。



 が、エンディングが良いというのと、エンディングを見られるというのは違う。エンディングを見られるだけではそれなりのゲームである可能性もある。エンディングが良いというのはまた別の問題なのだ。

 特に一回のプレイ時間の長いRPGやSRPG、もしくはのめり込みがちなFPSなどではプレイ中にさまざまな思考が入り乱れることだろう。それらはゲームの終わりが近づくにつれてどんどんと大きくなっていき、最後にそれが昇華する

 エンディングはゲームクリアという、ゲームプレイが最高点に達したときに生じるものなのだ。プレイしている最中の時間が楽しければ楽しいほどクリアは惜しいものになるかもしれないが、クリアすることへの期待は増える。増えに増え、溜めに溜まった期待とエンディングとがゲームクリア時に対面する。

 このときに素晴らしいと思えるゲームは、それだけゲームが楽しかったということだろう。物語が語られる形式であれ、映像が展開する形式であれ、あるいはケーキを前にして歌が歌われる形であれ、ただそれだけでは感動には至らない。
 それまでのプレイ時間で蓄積された感情や思考と向かい合い、それらを受け止めるものだからこその感動があるのだ。
 もちろんこれは必要条件ではあるが必要十分条件ではない。過程がどんなに楽しくとも、エンディングがつまらないというゲームもあるだろう。

●シュロット
チャコらが暮らす国、ガーランド国の第七領『セットランド』の領主。案山子。
奇抜な構えから攻撃を繰り出す槍術を扱い、その構えの形から『戦場の案山子』と呼ばれる。
ガーランドとガーランドに反旗を翻した元ガーランド第四領の魔王軍『フォウランド』との戦争に乗じてセットランドの独立を企てている。 
チャコと違って戦闘・戦術なんでもござれな人。欠点はロリコンなことくらいか。
主人公パーティで唯一チャコを評価している人物。もっともその評価は戦闘の実力に対するものではないが。

 長々と何が言いたいのかというと、OtoZは素晴らしいエンディングだったということだ



 OtoZはシミュレーションRPGツクール95という前世紀のツールによって作られたフリーゲームである。
 ツクールシリーズは現在ではオリジナルスクリプトを組んだりして自由自在にゲームを作れるツールにまで進化したが、この時代のツクールはそんな高度な余剰は含んでいない。規定されたシステムの上でしかゲームを作れないツールだ。

 だがそれでもOtoZは面白い。

 シミュレーションRPGツクールのシステムは日本のSRPGにありがちなシステムで、ターン制のユニット方式だ。升目はよくある四角い升目で、システムが近いのはファイアーエムブレムシリーズなどだろう。

●ノイル
勇者パーティーの僧侶と魔法使いの娘。ライオン。
実力者である両親から才能を受け継いだ令嬢。もともと力があり過ぎて他人を傷つけてしまうことが多く、力を使うことに臆病になってしまっていたが、チャコによって齎された両親の死から、フォウランドとの戦争に参加することを決意する。
戦闘に関しては天賦の才があり、チャコが数年かかって取得した技を見ただけで会得したりする(もっともこれはチャコに才能がないからというのもあるが)。
初期はそのバックグラウンドから戦闘系スキルは一切使用できず、回復役となる。しかし技が優秀であり、MPも多いためそれだけでも優秀。しかしある出来事を切っ掛けに戦闘系のスキルも取得、遠距離近距離範囲攻撃に回復魔法と手のつけられない強さになる。

 特に物珍しくない規定されたシステムの中、OtoZには傭兵システムという要素が存在している。

 主人公パーティで強制的に加入するキャラクタは(終盤を除くと)主人公を含めて7人しかいない。しかし最大出撃数は15人。もちろん敵軍はその人数に合わせて出撃してくるため、7人だけでは太刀打ちできない。
 この人数差を補うのが傭兵システムである。

 システムは簡単。1000J(J:通貨の単位)で傭兵の雇用権利が買え、それで傭兵ひとりを永続的に雇うことができる。人数制限といったものはない。ちなみにこの1000金という値段だが、だいたい中盤の武器より少し上くらいの値段だ。序盤では高いが、大した価格ではない。
 傭兵は自由に雇用できる分、メインのイベントではほとんど喋らず(たまに会話もするときがあるが)、戦闘前に一言述べるだけだ。

 それでも不思議と愛着が湧くのはキャラクタが個性豊かだからだろう。



 傭兵の数は約30人。歴戦の戦士からミニスカシスター魔女っ子からエルフマニアまでなんでもあり。
 語られることはそう多くはないものの、個々人に背景があり、目的がある。
 個人的にこれは新しいと思ったのは、ペットショップを立て直すためにペットのケルベロスとともに戦争に参加することになったムッツェ(71歳)です。

●スミス
古代の機械。ブリキの樵。
発掘された古代のロボット。そのフォルムから戦闘用のロボと思われていたが、実際は家事全般を司るメイドロボである。
魔王を倒すことができるという『伝説の剣』に関する幾らかの知識を持つ希少な存在。ただし根本的な目的や使命については自分自身でもわかっていない。
メイドロボとはいえ、古代のオーヴァーテクノロジーによる防犯機能も備え付けているので戦闘能力は高い。ちなみにジョークも解する。

 戦闘はボスがやたらと硬く、攻撃力も高いため、ボスに辿り着くまでに如何に戦力を温存し、ボスでその温存した戦力を出し切るかにかかっているという比較的極端なバランスである。
 たとえばチャコなんかは高い攻撃力もなく、技も良いものはないため、ボス戦では基本的に役に立たない(雑魚戦でも役に立つというわけではないが)。

 そんな戦闘バランスであるが、なかなかどうして難易度調整は良い
 雑魚を含めて配置はしっかりと調整されており、考えて戦えばクリアでき、考えずにプレイすれば傭兵が死亡、あるいは負けてしまうような好ましいバランスであるといえる。
 テストプレイというものがなかなか行われにくいフリーゲームでこのバランス感覚はなかなか希少なのではないかと思える。

●虎天
元ガーランド第四領『フォウランド』の領主で現魔王軍の将軍のひとり。
公明正大で優秀な者は取り立てていく先進的な考えの人物。人望も厚く、戦闘能力も高い。しかもイケメン。チャコと比べれば明らかにこっちのほうが主人公っぽい。ちなみにフォウランドはガーランド本国から最も遠い領地であるため、文化も大きく異なり、命名方も違う(漢字一字ずつで姓名を表す。虎天なら虎が苗字で天が名前)。
ガーランド最後の希望といわれる勇者アクエスを罠にかけて殺害。このためチャコからは命を狙われることとなる。もっともその実力には天と地ほどの開きがあるのだが。
敵であるにも関わらず、もっともチャコのことを評価している人物である。

 傭兵制という変わったシステムと適度なバランス感覚。しかし何よりもシナリオが良いとわたしは思った。

 話は単純である。慕っていた勇者を殺されたチャコが仇である虎天を殺すためにガーランド対フォウランドの独立戦争に参加するというだけの話だ。

 だが話がとにかく復讐のために突っ走るチャコを中心に動くということで面白くなっている。人物には相応のバックグラウンドがあるが、チャコのそれはわかりやすい。だから走っていく様がわかるし、共感はできなくても楽しめる。ある意味、愉快だ。

(*ページ内の画像は『信じた馬鹿が俺だった』もしくはOtoZゲーム中の画像を一部改変して掲載しております)

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