アメリカか死か/02/01 Escape!-1
Escape!
ホワイトマンにはレッドマンから土地を取得する権利はないと言っているのだ。最初からの所有者はレッドマンであり、レッドマンのものなのだ。売ってもよい。が、それには部族全体の同意がいる。全員が賛成しないものは無効なのだ。
(ショーニー族の酋長テクムセの抗議文 『レッドマンのこころ』より)
Lv. 2
S/P/E/C/I/A/L=8/3/10/5/4/8/2
Tag: Melee Weapon, Science, Unarmed
Skill:
[S]: M.Weapon=35
[P]: E.Weapon=10, Explosives=10, Lockpick=22
[E]: B.Guns=31, Unarmed=41
[C]: Barter=16, Speech=16
[I]: Medicine=18, Repair=13, Science=23
[A]: S.Guns=25, Sneak=25
Perk:
[Others] Lawbringer, Charge!
Equipment: Vault Jumpsuit
*
最初に目についたのは風車だった。
ようやく開かれた眼球に触れたのは流れる空気とそこに包まれる水蒸気だった。彼はしばらくの間、ゆっくりと不規則な調子で回るその風車を見つめていた。
(ここはどこだ………?)
思考がやっと始まった。
ここは大戦が本格する前に建造された核シェルター、Vaultではない。それは空に浮かぶ星々を見ずとも、光を反射する月を見ずとも、眼球の表面を撫で付けるこの風だけを感じればわかる。
そう、ここは外だ。密閉された核シェルターではない。今、彼は外にいるのだ。
外。
外!
空気!
大気!
水!
彼はしばらくの間その余韻に浸っていたが、ふとあることに気付いた。ここは大丈夫なのだろうか。安全なのか。
そもそも彼がVaultに入居することになったのは、米中間の冷戦が本格化して核戦争が目前に迫っていたからだ。核戦争は結局始まったのだろうか。終わったのだろうか。終わっていないのであれば一見長閑に感じられるこの場所でもいつ被爆するかはわからないし、終わっていたとしても核爆発が起きた記録があって残留放射能があるのであれば被曝する可能性もある。
ここはどこなのか。そして今はいつなのか。この二つの問いに対し、彼は何気なく左腕を上げて三つの回答を発見した。彼の左腕には見覚えのある機械が装着されており、そこには多数の情報が羅列してあった。
所有者情報:Lynn時刻:08.17.77 22:29現在地:Washington, D.C.
2077年8月17日。
(2077年………?)
否、違う。彼は思いなおす。2077年ではない。それはもう過ぎ去った年だ。2177年でもない。それさえもが既に過ぎ去った時代であるということも彼は知っている。
今は2277年、8月の17日だ。
(場所はワシントンDC……)
彼が核戦争から逃れて訪れたVaultもワシントンDCにあった。この情報は間違っていないだろう。
そして名前。
(Lynn………)
これが自分の名前なのだろうか、と彼は考える。なぜだかしっくりこない気もするが、Lynnという名前なのだといわれればそうかもしれないとも思える気がする。そんな曖昧な感情が付き纏う。
だが彼はこれ以外の名前を持っていなかった。だから自分はLynnなのだ、と納得することにした。
それにしてもなぜこんな機械が自分の左腕についているのだろう、とLynnは首を捻った。彼はこの機械が何なのか知っている。Pip-Boyという個人情報端末の一種であり、これは確か3000というシリーズだったはずだ。
だが自分はこのPip-Boyを所有していた覚えがない。Vaultから出たときに持ち出してきたのだろうか?
そこまで考えて、Vaultであったことを思い出す。
拘束していた密閉カプセル。
電子合成音で語りかける奇妙な機械の女。
そして彼に語りかけてきたJamesという男。
LynnはVaultで語りかけてきたあの声を思い出して怖気だった。あの声、なんと恐ろしかっただろか。明らかに人間ではないのにそれを騙り、明らかに女ではないのにそれを騙る声。触れてきた機械の腕。機械の身体。
(頭が痛い………)
Lynnは一旦考えることを放棄することにした。一度に色んなことを考えても思い出せないし、思い出せないのであれば考える時間の無駄だ。ひとまずPip-Boyのガイガーカウンターで周辺の放射線濃度を測定する。周囲の放射線濃度は0rad。つまり放射線汚染の心配はない。あくまでPip-Boyの放射線計で測定した値が0だというだけなので、微量に放射能がある可能性はあるが、そこまで心配してはいられない。
Lynnは風車のほうに向かうことにした。風車があるのならば、それを利用する人もいるということだろう。周囲は草木が茂っており鬱蒼とした印象であったが、人が住んでいるのであれば助けてもらえるだろう。彼はそう期待して歩き始めた。
「止まれ」
という声が聞こえた。その声が自分に向けられたものであることに気付き、Lynnは立ち止まった。何しろこの真夜中、出歩いているのはLynnくらいしかいない。
「Dave共和国に何か用?」
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