アメリカか死か/03/02 The Superhuman Gambit-2
Canterbury Commonsは元は平和な町だった。
それをまず打ち壊したのがAntAgonizerという女だった。彼女はあるとき蟻を模した鎧を身に着け、巨大な蟻を従えてCanterbury Commonsにやってきて町を荒らした。そのときにはちょうど行商人キャラバンも出払っていて、住人たちは凶暴な人食い蟻と謎の襲撃者の前に逃げ惑うことしかできなかった。
そこで立ち上がったのがSchottという男だった。彼はCanterbury Commonsの住人で、壊れた機械やロボットなどを修復して行商人キャラバンに提供していた機械工であったのだが、その工作技術を生かして戦闘ロボットと自らが身につける鎧、そしてレーザーピストルを作り出してAntAgonizerや蟻と戦い、ついに打ち払ったのだった。
Schottは襲撃者から町を守ったということで、一躍Canterbury Commonsのヒーローとなった。そこまでは良かった。物的被害は出たものの軽微であり、一人の死傷者を出すこともなく襲撃者を追い払えたのだから。
だがAntAgonizerはまたやってきた。そしてSchottはというと、彼はロボットともに真正面からAntAgonizerとぶつかった。AntAgonizerの蟻たちは駆除できたが町の入り口は破壊され、飛び交うレーザーや蟻の死骸で町の入り口に一番近かった家屋の一階が破壊された。
戦いは何度も続いた。Schottは本来の仕事であった機械工としては働かなくなり、代わりに町の工場を占拠し、自分のことをMechanistであると名乗った。正義の味方である、と。戦いはどんどんと形式化していき、冗長になっていった。
このあたりでScottもCanterbury Commonsの住人たちにとっての邪魔者となった。Schottは決して町を守るためではなく、自分のためにAntAgonizerと戦っているのだということに気付いたからだった。AntAgonizerとMechanistことSchott、この二人の戦いを住人はやめさせようとしたが、二人は馬鹿らしい戦いとは裏腹に、強かった。正確には彼らの僕である蟻とロボットが、だ。
Cantterbury Commonsの二人は目の上のたんこぶとなっていた。
「昔はSchottはあんなやつじゃあなかったんだけどなぁ………」と言うのはLynnを町の中に迎え入れたRoeという中年男だった。
AntAgonizerとMechanistの恒例の戦いが終わった後、二人の超人は生き残った配下を引き連れてそれぞれ自分の根城へと帰っていった。Roeが見た限りでは、これが通算20回目の戦いらしい。
LynnはRoeに一通りの事情を説明された後、Lynnについて尋ねた。空腹と喉の渇きを訴えたLynnに対し、彼は店のレストランであるDot Dinerに案内してくれた。Vaultから出てきたばかりで金がないというLynnに対して、自分の奢りで良いから食べてくれと言ってくれた。
レストランの店主であるJoeという黒人男の作る料理は、いったいどういう材料を使っているのかさっぱりわからないようなものが多かったが、味は悪くはなかった。
ようやく腹と喉を満たして礼を言うLynnに対して、Roeは代わりと言ってはなんだが、と言ってLynnに頼みごとをしてきた。Scottにもう戦いはやめるように説得してくれ、と。
「最近はAntAgonizerのやつも、Schottが過剰な反応をするから襲ってくるような感じがする。もう戦いはやめさせるべきだろうというのが町の総意だ。あいつがいるのは町外れの工場なんだが……、中はいろいろと機械が多くて身動きが取れないし、町の者が行っても門前払いだ。あんただったらVaultの人間なんだから機械には詳しいだろうし、Schottのやつも冷静に話を訊いてくれるかもしれない。お願いできないか?」
Lynnは承諾した。一宿一飯の恩義もあることだし、他人を助けるというのは悪い気分ではない。
Dave共和国で後味の悪い体験をした後だったこともあって、LynnはすぐにSchottの住んでいる工場へと向かった。工場内部はいかにも無害そうな、しかし腕にはレーザーライフルらしきものを装備したロボットが蔓延っていたが、Lynnはコンピュータをハッキングしてセキュリティを突破した。
(こんなことできたのか………)
Lynnは自分の技術に感心してしまった。Vaultの住人ならば機械に詳しいだろう、とRoeに言われたときLynnは否定したが、どうやらその通りだったようだ。
しかしLynnにはVaultで目覚めるまでの一切の記憶がない。なぜなのか。Lynnが閉じ込められていた場所に関係があるのか。
Vaultを訪れた男、Jamesは、Lynnのことを目覚めさせた、と言った。それはつまりJamesがいなければLynnは目覚めなかったということで、Lynnは何らかの形で冷凍睡眠、そうでなくとも仮死状態にあったということだろうか。しかし、なぜ。
「それはできない」
Canturbury Commonsのヒーロー、MechanistことSchottは彼の居住部屋に辿り着いたLynnに向かい、大仰な口調で言った。
Challenge: Speech, 11% → FAILED
「わたしが戦うのを止めたら、Canturburyのか弱き人々はAntAgonizerに蹂躙されてしまうだろう。彼らを守るためにも、わたしは戦いをやめるわけにはいかないのだ」
鎧を纏ったままだったが、声を聞いてSchottという男は存外に若くないのだ、とわかった。
「Canturbury Commonsの住人たちは、あなたがああいう調子で戦うからAntAgonizerがやってくるのだ、と言っています。もちろん町の住人同士で協力して外敵を追い払うのは大歓迎だが、少なくともあなたが一人でここでロボットを作り戦う必要はない、と」
「そう思わせるのもAntAgonizerの作戦だろう。彼女は最大の敵であるわたしをどうにか無防備な状態で引き出し、倒そうとしているのだ」
「そんなことはないと思いますが……」Rynnは考える。説得しろと言われたが、自分はあまり口が上手いほうではない気がする。「ええと、こんなところに一人でいて辛くはないですか?」
「辛くはない。戦うために力を蓄えなければいけない。強きものが弱きものを守るのは当然の義務なのだ」
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