かくもあらねば/10/01
犬の日
That Lucky Old Sun
1
太陽は偉大だ。
200年前の人類が到達したエネルギーの使用方法は核分裂で、核融合と似て非なるエネルギーの使い方だった。それが原因で滅びかけたのかもしれない。人間が慎重に核の光を扱おうとして滅びの一路を辿ったのとは対照的に、太陽は無計画にエネルギーを放出しているというのに未だに潰れずに元気でいる。もっとも太陽を構成する水素もエネルギーとして放出されるたびにきちんと消費されており、単に寿命の差で優位性に差がついたのかもしれない。
それでも太陽が遙か昔から、人類が生まれ落ちる前から、おそらく人類が絶滅するあとも生き残っているであろうことは想像に難くないほど力強いのは変わらない。
それは眼下に広がる光景を見てもわかる。
中央の塔を囲うように設置された大量の太陽光発電装置によって集められたエネルギーが衛星に届けられ、そこからコヒーレントに放出された、太陽が一秒に放出するエネルギーより遙かに小さいエネルギーが、地表面で這いずる人間たちを焼き尽くしている。
「綺麗ですね………」
Kutoは言葉が思いつかずにそう言ってみた。もっとも出任せの言葉ではなく、思ったことをそのまま発したのだから真摯な言葉である。
しかしBooneの反応は冷たかった。
「言いたいことはそれだけか」
「悪気はなかったんですよ?」とKutoは言った。これも本当だ。
「そういう問題じゃない。いいから止めろ」
「さっきからいろいろやってるんですが、どうにも止まらなくって………」
BooneがKutoを押し退けて制御板の前に立つ。「どこを押せば止まるんだ」
「だから、それがわからないんです」
「電源を切れば良いだろう」
「試してみましたけど、無駄でしたよ。たぶん、もう自動攻撃モードみたいなのになってるんだと思います」
「コードはどこだ」
「このへんですけど……」Kutoは制御板から延びる大量の黒く太いケーブルの類を指さす。
Booneは無言でそのケーブルめがけて発砲した。ケーブルの一部が切れる。
しかし空から降り注ぐ破壊の光は止まらない。
「なんで止まらん」Booneは不服そうに言う。
「あの、わたし思うんですけど」Kutoは手を挙げて言ってみる。「これはあくまで操作をするパネルで、実際にあのレーザーを出している射出装置か、電力を供給している電池か、そうじゃなきゃそのふたつを繋いでいるものをどうにかしないといけないんじゃないでしょうか」
「それはどこにある」
Kutoは右手で天を、左手で地を指さした。「あとはこれです」とそれから建物自体を指さす。
「どうにもならんということか」
「たぶん、そうなんじゃないでしょうか」
「止められないのか」
「残念ながら」
Booneが黙る。
「悪気はなかったんですよ?」Kutoは付け足した。
場所はHelios One、時刻は昼の12時、太陽がもっとも高い時間帯。地面に倒れる焼け焦げた死体やこの施設はNCRのものだ。
事の始まりは数時間前にさかのぼる。
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