かくもあらねば/09/08
8
そこからは解決に至るまでは迅速に済んだ。
SiはArcadeとともにPacerらが襲撃を受けたという駅前へ赴いた。Pacer以外のThe KingsのメンバーはNCR補給部隊に撃たれて重傷だったが、Arcadeが可能な限り助けた。
「これはどういう事態なんだ?」
頭を抱えて戦前の待合所を盾に頭を伏せてみっともなくしゃがみ込むPacerを目の前にして、Siはそう言った。
「畜生、なんでこんなことになったんだ」Pacerは泣き声で叫ぶように言った。「おまえがなんでここにいるんだ」
「あんたのおかげでいろいろと都合良く物事が進んだよ」
Siはそう言うと両手を挙げて遮蔽物から出た。NCR Rangerのコートを着ていたため、Pacerだと誤認されて撃たれることはなかった。
NCR補給部隊の指揮を執るElizabeth少佐はふたたび現われたSiがNCR Rangerの格好をしているのを見て驚いているようだったが、格好については言及しなかった。
この抗争の発端がThe King本人にはなく、彼の知り得ぬ水面下で物事が進んでいたことを伝えると、Elizabethは意外なほどあっさりとSiの言葉を信用してくれた。
「これからは彼はもっと周りのことに気を遣うべきね」
彼女はそう言って銃撃を中止させ、NCR兵たちを引き上げてさせていった。
NCR兵たちが完全に見えなくなると、Pacerはようやく立ち上がった。
「あんたはヒーロー気取りのようだな。せいぜい今のうちに愉しんでおくが良いさ」
彼はそう言い残し、治療を終えた他のThe Kingsのメンバーともども逃げていった。
「あそこまで典型的な小悪党はいねぇ」とSiは呟くように言った。
「結局、なにがしたかったの?」
Arcadeが救急箱の片づけをしている間の隙に、Sumikaはそう尋ねた。Freesideに来てからのSiの行動はいまいち意図不明だ。
「知らんよ」
「いや、Pacerじゃんくって、Siね」
「おれは人探しだよ」
「人探し?」Sumikaは厭な予感がした。「Kuto?」
Siは否定も肯定もしなかったが、正解なのだとSumikaにはわかった。
Kutoは確かに口外すべきではないPlatinum Chipについてある程度知ってしまった。彼女が無用な手出しをしないようにする義務がSiたちにはある。
だが彼女が実際にPlatinum Chipを持っているわけではないし、また彼女がPlatinum Chipを手に入れる可能性も低い。Kutoは所詮力のないただの旅人で、NCRやNew Vegas、あるいはCeaser's Legionの軍隊といった強大な力の前には無力に等しい存在だ。彼女を追うことで得られる情報はあるかもしれないが、それ以上にSiたちが優先すべきなのはPlatinum Chipの奪取なのだ。
現在の任務の重大性を理解していながらKutoを追いかけようとするSiのことを、Sumikaは悲しく、悔しく、愛おしく思った。
そんな思いを心の奥底に押し沈めて、Sumikaは問いを発する。
「だからって、なんでThe Kingsに肩入れするの?」
「Stripは複雑だが、人の出入りを見るのは簡単だ。数少ない出入り口を抑えておけば良い。実際、NCR大使館もそうやって入出者のデータを取っている。嫌々のようだったが、StripのことはNCRに任せておけば問題ない。Freesideはそうはいかない。Stripより遥かに複雑だ」
「だからFreesideを支配しているThe Kingsの手を借りようっていうの?」
「あいつらはFreesideを支配しているわけじゃないだろう。住人なのさ。だから頼りになる」
SiはThe Kingsに自分の頼みを聞いてもらうつもりらしいが、そう簡単にいくのだろうか。Sumikaは懐疑的だった。
演劇学校に戻ったSiとSumika、ArcadeをThe Kingは出迎えた。どうやら彼は既に駅での抗争をSiが鎮圧したことは聞いているようだった。
「温和に物事が解決したようで何よりだ」と彼は言った。
「あのPacerってやつはなんなんだ」と苦々しげにSiがいう。「あんたのコバンザメか」
「鮫じゃない。人だよ。一緒に育った仲だ。こう見えて、ピンチに背中を任せられるのはあいつ以外にいない」
「ピンチはあいつが招くんだろうが」
Siの言葉を聞いて、The Kingは笑った。
「いろんなやつがいるのさ。レールに沿った人生を歩むやつ、そうじゃないやつ。どっちにしろ責任は自分で取らにゃならん。そうやって生きているだけのことさ」
The KingはPacerという男の欠点に気付いていながら、上手く使おうとしてはいるようだとSumikaは感じた。あるいは竹馬の友である彼を見捨てられずにいるだけなのかもしれない。
「ま、それはともかくとして、あんたには随分世話になっちまったな。なんでも言ってくれ。叶えてやるよ」
「おまえは魔法使いか?」
「ちょっとした気持ちさ。それで貸し借りはなし」The Kingはそう言って手を広げる。「さぁ、なにが望みだ?」
「ま、金だな」
Siの言葉に思わずSumikaは声を発しかけた。
「金ね」The Kingは近くの男を呼んで何か指示する。「昨今じゃああんまり頼りになるもんでもないが、ま、その分気軽に用意してやれるよ」
「それともうひとつ」
「さっきひとつだけだと言ったと思ったんだがね」
「じゃあ金はいらん」
The Kingは大袈裟な身振りで首を振り、肩を竦めた。「そう言われちゃあ持っていってくれとしか言えんね。で、なんだい、ふたつめの願い事は」
「人を探している。Freesideに入ってきたら教えて欲しい」
「どういうやつだ?」にやにやしてThe Kingが応じる。
「女だ」
「女?」
「女?」
なぜか今まで黙っていたArcadeがThe Kingにはもる。
「長い銀髪と褐色の肌、グリーンの瞳の若い女だ。会えば一目でわかる」
「あんたの女か?」The Kingは目を細める。「そういうわけじゃなさそうだな」
「探している。見つけたらすぐに教えてくれ」
「ま、そのくらいなら、構わんよ」The Kingはもう一度近くに男を呼んで指示を出した。「まったく、おれをここまで扱き使うやつがいるとは思わなかったな」
「ギヴアンドテイクだろ」
「たまんねぇな」
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